僕の居場所、家族の在処

「朝か」目に当たる相応の光が、僕を叩き落とす。流れるような星も、輝くような月もそこにはない。窓から差し込む光の先からは、美しい荒野やこじんまりとした小屋などが見える。上半身だけを起こして、壁に背中をつける。


 僕はそこから動く気になれず、部屋を見渡す。まさに中世と言わんばかりの品々が、部屋を占めている。大抵のものが木製で、まれに鉄や銅が使われている。懐かしいような、どこか馴染めないような感覚。扉のきしむ音がして、人が入ってくる。


「おはよう」湯気の登るお盆を持つ、すらりとした女性。肩ほどまでに掛かる茶髪や、そばかすが綺麗に見える。女性はそのまま、机にお盆を置く。好きな時に食べてね。と小さく言って、部屋から出ていく。なにもない場所に向かって、僕はぼおっと目線を投げかける。足の感覚は不明瞭で、いつ動かせそうか分からない。


「頂きます」見たことのない野菜のスープと、蒸したいも。味付けの程よい肉と魚が、とても良く合う。体が弱っているからか、噛んで飲み込むのにも時間がかかる。それでも食器を動かす手は止まらず、僕を満たす。


「ごちそうさま」すっかり何もなくなったお皿を、小さくまとめていく。だんだんと瞼が重くなり、体の力が抜ける。どこか温かい陽の光に包まれているような、そんな感覚に入り込んだ。そこからはしばらく、寝ていたように思う。


「朝か」前よりも少しだけ強い陽が、僕を照らす。とても静かで気持ちの良い空気が、この部屋を満たしている。もう、歩けそうだ。何日ぶりかわからない地面の感覚を噛みしめると、僕は不安定に立ち上がる。


「起きた!」後ろで大きな声がして、よろける。しかしなにか小さな毛糸に体を支えられて、僕は転がらずに済む。毛糸はよく見ると桃色で、しかも大きい。毛糸は立ち上がると、僕をまじまじと見つめる。


「ありがとう」支えてもらったおかげで、怪我をせずに済んだ。毛糸は顔を赤らめてぶんぶん振ると、部屋を出ていく。やっぱり名前を呼ぶのは、難しいらしい。僕は布団を綺麗に整えて、階段を降りる。


「あら」僕がお盆を手渡すと、女性は微笑む。一階はかなり明るくて、何もかもが輝いて見える。別に二階を悪く言うつもりはなくて、二階は本屋さんみたいで楽しい。けれど明るいほうが表情がよく見えて、嬉しい。


「ごちそうさま」何を言うべきかわからなかったけど、やっぱり料理が美味しいいことを伝えたかった。女性は最初と変わらない微笑みのまま、頭を撫でる。とても不思議な感触がして、思わず手を握る。




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