第2話


「おやおや、ヴァンパイアでなくて狼少女だったんだね」


にやにや笑う先生に、マリアはムッとする。

確かに見た目はシェパードの仔犬の様だが、毛並みは緩く真っ白で神秘的ではあった。



「あなたの…」


「あなたじゃなくて…

俺は四条穂高(しじょうほだか)。好きに呼んで良いよ?」


「馬鹿にしてますね…。四条先生の言う通り…

私はヴァンパイアなんです…」


「ん?犬にもなるの?」


「狼ですって!コウモリや狼に変身できるんですよ、私たちは…。ただ血が足りなくてこんな弱々しい見た目なのですが…」



マリアはしゅん、と項垂れる。

そんなマリアを見つめて穂高は口角を上げた。



「俺の血で良かったら飲むかい?」


「えっ…?」


「ただし、犬の歯は痛そうだから人間の姿に戻ってね?」



マリアは信じられなかった。

しかしそんな事も言ってられない。食事にありつける絶好のチャンスだからだ。


言われた通り力を振り絞り元の姿に戻り穂高を見つめる。


「本当に…良いんですか…」


「勿論。いつでもどうぞ?」


穂高は頭を横にして首筋を露わにして吸いやすいようにした。

マリアは堪らず穂高の膝上に乗り、肩に手を置くと首筋に牙を立てた。


チュウチュウと音を立て夢中で吸うマリア。

身体の中に熱いものが広がっていき力が湧いていくのが分かる。


ハッとして口を離し穂高の様子を見る。

相当飲んでしまって心配そうにするが、穂高の表情を見てキョトンとしてしまう。


穂高は意地悪そうにニヤニヤしていた。


「あの…」

「美味しかった?」


言葉を遮られ感想を求められた。

マリアは小さく頷く。



「結構大胆に吸い付いたね、誰も来なくて良かったねぇ?」


自分の体勢に初めて気付いて直ぐに離れる。

その頬は赤くなっていた。


「あ、ありがとうございます。

その…私がヴァンパイアって事は黙っていてくれませんか…?」


「良いけど…」


マリアは胸を撫で下ろす。



「条件があるなぁ」


「!?」


「これから俺以外の血は吸っちゃダメ。

それが守れるなら黙っていてあげる。」



人差し指を立ててニヤニヤと笑う穂高にマリアは目を丸くした。


「なん…っ」


「出来るよね?マリアちゃんにとっても好条件なんじゃないかな?好きな時に食事出来る相手がいて、学校生活も難無く送れるんだよ?」



確かにそうだが…腑に落ちない。

しかしまた転校という訳にもいかない。

家探しや備品を買ったり、引越し屋に頼むのにもお金は必要…

いや、お金は沢山あるから大丈夫だけれどリオに申し訳無い。

この四条穂高の言いなりになるのは癪だが仕方ないのか…


そう思いマリアは立ち上がって、座っている穂高を見下ろす。


「…絶対ですね?

誰にも言わないでいてくれるんですよね?」


「言わないよ、俺は口が堅い方だからね

安心して。マリアちゃん」



マリアは少しホッとする。

いざとなれば自分の力で…出来ることもある。

そうならない様、マリアは祈るしかなかった。



「先生、

…先生はいつも生活準備室にいるんですか?」


「基本的にはね。

夜ご飯は…どうするの?」



ふ、と小さく笑い穂高はマリアを見上げる。


「夜は…トマトジュースで……」


「くすくす…可愛いね」


「!!」



柔らかく笑う穂高にマリアは頬を染めてしまう。

気付かれないよう、踵を返して扉へ向かう。


「じ、じゃあこれからよろしくお願いします…っ」



ぴしゃりと準備室から出ていき歩いていく音が遠ざかる。



穂高は吸われたところに手を当てて、ふ、と笑う。



「本当に可愛いなぁ…」




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