帰り道

第18話 陰キャ応報

 なりゆきで今野と一緒に帰ることになってしまった……。気まずい。何を話せば……。と、とりあえず。


「こ、今野さっきはごめんな」

 先手必勝。先に謝って主導権を握る。神崎先輩の教えだ。


「何が?」


「いや俺の先輩とか塾長が……」


「いや、今更だけどこっちこそごめんね。自習中にこそこそ言ってたのも全部聞こえてたよ。やっぱ罰ゲームで誰かをバカにする感じなの良くないよね。前から思ってたんだ。みんなに流されてた」

 やっぱり、俺のために懲らしめようとしたとか、全部聞こえていたみたいだ。今野の耳は地獄耳だな。それにしてもさっきからの流れかいつもより丁寧な口調だ。なんか調子狂うな。


「こっちがひどいこと先にしたんだからお返しされても仕方ない。因果応報だよね」


「イ、インキャオウホウ、なんだそれ?」


「インキャオウホウじゃなくて因果応報! 陰キャ拗らせすぎかよ! 何か悪いことをするとその分自分に返ってくるぞってことだよ」

 いつもの今野の口調になぜか落ち着いた。


「そうだ、テメェ学校と全然違うじゃねーかよ。あんなに喋ってんの初めて見たぞ。先輩たちにも好かれてるみたいだし」

 今野がそう思うのも当然だろう。三年になって中村と同じクラスになったおかげで少しは改善したが、やはり基本学校ではいつもむすっとしている。


「適塾はみんないい人だから話しやすいんだよ。今日はあんなんだったけど」


「学校だってそんなに悪い人ばっかじゃないと思うよ。でも私もこの塾気に入っちゃったー」


「えっ!? あんな目にあっといて気にいることなんかあるのか?? お前どーかしてるぞ」


「なんだよ、あっそうか、私が入っちゃったら谷藤の居場所がなくなっちゃうもんね。谷藤が嫌だったら入らないよ」

 キィー! 営業妨害ィー。塾長の顔が思い浮かぶ。


「そ、そんなことないよ。今野が入りたきゃ俺のことなんか気にせず入れよ」


「じゃー考えとこっかな。もし入って先輩たちにいじめられそうになったらまた助けてくれよな。さっきの半泣きの顔意外とかっこよかったぜ。『俺の大好きな適塾じゃないっすよー』」

 からかってるのか本気なのか声真似っぽく言う。


「なんだよ! バカにしやがって、誰のために言ったと思ってるんだよ」


「えっ、だれのためー?」

 からかい口調で今野が聞いてくる。


「そっそれは……」

 口ごもっていると


「で、でもありがとね」

 俺から目を逸らしながら小さい声で今野が言う


「お、おう……」

 気まずい。こんなにも女性と二人きりで話したことがこの俺にいまだかつてあっただろうか。何を言っていいのか、話題に困る……。


「そっそうだ! お前なんだよあの手紙! あんな手の込んだ悪口渡してきやがって!」


「わ、悪口? えっ、な、何言ってんだよ?」

 なぜか顔を赤くしながら今野が言う。


「どうせ俺はお前と違って友達少ないですよ! でも少ないけどいい奴ばっかりだぞお前と違ってな!」


「えっ、さっきから何言ってんだよ、テメェはあの短歌どう受け取ったんだよ?」

 顔をさらに真っ赤にして今野が聞いてくる。


「さっきだいたい言っただろ。か弱い男子に二度も恥かかせるんじゃねーよ。『秘してこそなんて友達いないくせにカッコつけやがって、本当はお前も仲間が欲しいんだろ』みたいな意味だろ。どうせ俺は友達少ないですよ!」

 いつぞやの今野の言い方を真似してみたが、自分で言ってて恥ずかしくなる。

「係り結びを使って強調までしやがって……」

 俺はぶつぶつ文句の続きを言う。


「な、なんだよ、テメェは古文得意なんじゃないのかよ。速攻であんな短歌で返してきたのに……。だいたい友達少ないなんてどっから読み取るんだよ!」

 あれ!? 違ったのかな? 俺はだんだん自分の解釈に自信がなくなってきた。


「えっ、『さかま』って『仲間』って意味じゃないのか?」

「な、なんだよそれ。『さかま』なんて単語あんのかよ」

「えっ、だから古文では仲間って意味じゃないのか?」

「さかま、さかま、さかまーって、おさかま天国かよ」

 今野も俺と同じ歌が頭に浮かんだようだ。そう言って今野が突然笑い出した。


「あははっ、もうそれでいいや。そう言う意味だよ。テメェももっと学校でも友達作ろうぜ!」


「えっ、なんだよ、そこまでいうなら本当の意味教えてくれよ」

 こんな言い方をされたら流石に気になる。

「テメェ、本当に誰にも見せてないんだよな?」


「ああ、そうだよ。さっきは危なかったけどな」

 本当は適塾の3人は見てしまっているが、ここは嘘を突き通しておこう。


「じゃあやっぱり教えなーい。自分で考えてくださーい」

 ちょっとおどけた感じで今野が言う。


「な、なんだよ。やっぱりバカにしやがって」

 俺は少し腹が立ったが、明日にでも塾長に聞けばわかることだと思い、しつこく聞くのはやめた。

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