悪の悪の悪
天下 茶屋
第1話 産業廃棄物の行方
「おはよー。汗ばむわー。」「花子かよー、ガハハハ〜。」
この店の盛り上げ役とんちゃんのツッコミと下品な笑い声が更衣室に響く。とんちゃんはお店はもちろん更衣室でも外で食事やお茶をしてもこの調子で裏表の無いいい子だ。高級クラブでもこういう子の存在は重宝される。
涼子こと源氏名「愛」はとんこや他のメンバーと「今日も暑いなー。」「レイちゃんは同伴か?」などいつものようにたわいも無い話をしながら開店の準備のため、ドレスに着替え化粧直しを素早く終え更衣室を出た。
「愛ちゃん。ちょっと」と大ママに呼び止められた。
「今日9時ごろ革命党の萩原知事が大手ゼネコン国土興産の社長らとVIPルームにこられるから、愛ちゃんもついてくれる?」
「大ママ了解です。萩原知事こられるの久しぶりですねぇ。」
「なんか大事な話らしいから来られた30分ほどはつかんでええと思う。呼ばれたらよろしく。」
「はい。じゃあVIPルーム不備無いかチェックしておきますねー」
「お願い。」
またまたカモネギになるかも…と涼子は早速VIPルームに入り盗聴器をいつもの壁にこっそり開けた凹みに装着し壁紙を綺麗に貼り戻した。薄暗いので今までばれた事は無い。
開店の夜8時になりすぐに半グレの5人が来店してきよった。愛の口座客だ。
こんな下品な客このクラブには似合わんのに偉そうに入ってきよる。と心の中では悪態をついていたが、満面の笑顔で「いつもありがとう」と迎え、奥のボックス席に案内した。ボーイがキープの“ザ・マッカラン ファイン&レア“とアイスピッチャー・ミネラルを素早くテーブルにセットしてくれる。
リーダー格の健二が「今日は儲かったから愛ちゃんドンペリ開けてくれや!」と下品な大声で言う。
お前ら梅酒用の焼酎やホッピーがお似合いじゃ、と心の中の声とは裏腹に「健ちゃんありがとー。助かるわー。コロナからなかなかお客様が戻らんと懐ピーピーやねん。」
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます。あいかわらず健二さん男前ですねー。あっちこっちで女の子ヒーヒーゆわしてんのちゃいますのん。」と、とんちゃんがヘルプについてくれた。助かるー。こんな下品な客一人であいてしてたらいつか心の声が出てもうてえらいことになってまう。とんちゃんがいてくれたら金だけ落として1時間もしたら帰ってくれるやろ。とんちゃんには悪いけど。知らんがな。
なんやかんや半グレの5人は下品な下ネタ会話を続け、ドンペリ3本開け(1本は半分ほど残ってる)、私におさわりも無く(とんちゃんがガハハハーと下品な笑いでそんな気分にならさんようにしてくれたおかげや)なんか中途半端な気分そうに帰っていきよった。フルーツ盛り合わせて締めて80万の売り上げや。あほな客!
その後テーブルを回っているうちに萩原知事・秘書・国土興産の国守社長・付き人(あまりにも影薄いので名前覚えられへん)2人の5人が来店し、大ママがしおらしく挨拶をかわしVIPルームに案内しながら愛に目配せをし入っていった。飲み物のセットを終えたのか大ママはVIPルームから出てきて愛の方へ近づいて来た。「30分ぐらい経ったらお願い」と小声で愛に伝えた。
愛は大ママに「分かりました」と伝え急ぎ足でトイレに向かった。個室に入るなりスマホの録音機能にVIPルームの会話が録音されるようにセットした。この会話は“やもり”こと草宿俊介のスマホに同時録音できるように設定している。
密談は少し伸び、40分ほどたったころ影の薄い一人が大ママを偉そうに呼びつけVIPルームで接客するよう伝えに出て来た。大ママは愛ともう一人チーママを呼びVIPルームに接客に入ることとなった。5人の雰囲気はなにやら薄笑いを浮かべご機嫌なように思えた。愛は壁をチラッとチェックしたが問題は無さそうだ。
国守社長が大ママに「ピンドン持って来てくれ。祝杯や。君らの分のグラスも持ってこい」と大柄に告げた。大ママは「よっぽど良いお話ができたようでおめでとうございます。それではご用意いたしますね。ありがとうございます。」と言い愛に目配せをした。愛も「ありがとうございます。すぐにご用意いたしますね」と伝えVIPルームから出てこのお店では一番頼りになる黒服の香山さんにその旨伝え、すぐにセッティングされた。国守社長がピンドンに手を伸ばし、なれた手つきでポンと言う音と共に栓を抜き、萩原知事から全員のグラスに透き通ったピンク色のシャンパンが注がれていく。国守社長が萩原知事に「乾杯の音頭をお願いいたします。」と恭しくお願いすると苦笑いをしながら萩原社長以下全員がシャンパングラスを持ち「乾杯!」とだけ音頭をとり、全員が口をつけ喉を潤した。
密談の事を聞くのは御法度なので、大ママ・チーママ・愛もそれぞれコロナ後の新地の状況や2年後に始まる大阪万博の話など世間話の中に萩原知事や国守社長のご活躍をヨイショしたり、お店の相談事や泣き言のアドバイスを頂いたりしている。(別にアドバイスなどほしくも無いのだが偉そうに鼻の穴ふくらましてアドバイスをしながら自らウンウンと納得している)密談がうまくいったようでご機嫌が終始良く接客は思ったよりスムーズだった。知事の秘書や影のうすい二人はほとんど喋らず萩原知事や国守社長の話に相槌打ったり「ごもっともです」のオンパレードでYESマンの典型だ。こいつらをヨイショする必要は無い。適当におべんちゃら言って喜ばしといたら問題ない。ただ萩原知事だけはおどけたり大笑いをしているが、目が笑ってなく何か不気味な印象を受けた。
そうこうしているうちここはお開きとなり、違うお店で2回目の祝杯の為お店の外までお見送りをした。なぜか影のうすい一人が持っていた小さなアタッシュケースが萩原知事の秘書の手にぶら下がっていた。
涼子はVIPルームの片付けのふりをし、壁の盗聴器をそっと取り外し控え室の自分のバック」にしまった。
今日は割と静かな日で、3〜4組のお客様につき1時前には店じまいとなった。明美と静香に帰り「ラーメンでも食べて帰ろか?」と誘われたが「今日は疲れたー。帰るわ」と嘘をつき北浜にあるタワマンの自宅に帰ることにした。やもりもそわそわして待っているであろう。タクシーで自宅に着きエレベーターに乗り自宅の1205室に着きカードキーをかざしてドアを開けると昔のレゲェの王様と言われたなんとか言う題名の音楽が流れ、ココナッツの匂いのお香の香りが充満していた。やもりがまたベランダから勝手に部屋の中に入っているのだろう。やもりはどんな所にも侵入できる技の達人だ。このレゲエとココナッツの香りのお香はやもりの機嫌がよく、もうけ案件があると言うことだ。
「やもりー!」と呼びながらChristian Louboutinのハイヒールを脱ぎリビングに入ると真っ暗な中に二つのギョロッとした目玉だけローテーブルの近くで光っていた。「真っ暗やん。もう」と文句を言いながらダウンライトのスイッチを点けた。ニヤッと笑ったやもりの顔がはっきり見えた。「ええ感じか?」と聞くとコクコクと頷いた。「はよ聞こ!」といってスピーカーモードで録音再生ボタンを押した。
初めの頃はご機嫌伺いや、身体の状態の心配仕合い。「暑いでんなー」とかどうでもよう話だったが、核心に迫った会話がやっと始まった。
国守社長「知事,万博楽しみでんなぁ。楽しみやわぁ!」
萩原知事「それがなぁ…、色々ありますねん。頭痛いことが次々と起こってきますねん。万博推進局も実質大手広告代理店のやつらが仕切ってるんやけど自分らの利益ばっかり気にしてスムーズに事が進まんのです。海外の担当者もこっちの足元見てわがままばっかり言いよるし、パビリオンのレイアウトさえまだ決まってませんねん。まず一番の問題は埋め立ての土が高騰でなかなか交渉段階で止まってしもて…。今とりあえずの直近の課題としてこれを解決せなあきませんねん。」
国守社長「知事,そこででんな、ちょっとご相談がございまして。今福島区の開発で土地は確保できましてんけどその中にそこそこ大きい病院やった建物と印刷会社の廃ビルがありましてな、更地にする為これをこわさなあきません。そこで問題になるのがこの建物の産廃ですわ。知事もご存知やと思いますが医療関係の産廃は厄介ですねん。また印刷会社の工場も色々厄介な化学薬品がありますねん。これまともに産廃処理したら開発の旨みが吹っ飛ぶし、工期も伸びてへたしたら旨みどころか真っ赤っかになりそうですねん。この開発MOCと田島のJVですねんけどうちばばつかみですねん。なんとか知事のお力をと思てますねん。」
萩原知事「お力て。変な事に巻き込まんといてくださいよ。私の立場どころか党ごと吹っ飛んでしまいます。何にもできませんわ。」国守の思惑を感じて先手を打った。
国守社長「ちゃいます、ちゃいます。お力言うても何かしてください言ってるんちゃいます。申請書類はちゃんとしますから…。ただどっちもテナントビルっちゅうことに。もう登記も変更してますねん。現調だけせんといてもらえたらなぁ…と。はんこだけで。知事は何も知らんと進んでしもたと言うことで。この分埋め立て場所までの運搬費もガラ代も格安で、形だけでよろしいねん。10円でも100円でも。WINWINでしょ。」
萩原知事「ほんまに登記変更できてますんか?どうやって?」
国守社長「あんまり知らん方がええのんちゃいますか。色々知ったらよけややこしくなります。知事はなーんにも知らんうちに正規に手続きが進んだと言うことで…。ただ現調だけはちょっと…。」
萩原知事「んーーーーー。それでどのぐらいの量でるんですか?」
国守社長「2社の建物廃材と掘削残土と合わせて150万トンぐらいです。2社には一緒に弊社が産廃を運ぶと話はついてます。ごちゃまぜにして運ばせてもらいます。」
萩原知事「150万トンはありがたいお話やな。だけどなぁー」
国守社長「知事には絶対ご迷惑おかけしません。2社には内密に話もつけてます。漏れることはありません。ただ現調だけ無しにしていただければ。調査会社も今あっちこっち現場がありてんてこ舞いでしょ。そこだけうまく。ね。埋めてしまえば一緒ですやん。これとりあえず。ね」
『ゴソゴソ』
萩原知事「これは?」
国守社長「ま、これからもよろしくお願いしますと言うことで。ママ呼んでくれ。」
影の薄い一人「かしこまりました」
『なるほどなぁ。悪ばっかりや。万博大丈夫なんか?こら事故おきるで。』
さぁこれからや。この分は証拠にしたらお店に迷惑かかるからさっそく裏どりして証拠集めやな。やもり頼むで。まず私は法務局やな。どうやって病院や印刷会社がテナントビルに変わったか調べてみるわ。やもりは国土興産・MOC・田島の社長室、応接室に隠しカメラ取り付けて。後、国守が接待でよく使う料亭を調べて」
「涼子さん。了解です。これから3社に隠しカメラ仕込んできますわ。明け方には完了できます。それから国土興産の経理部の領収書カメラで撮ってきますわ。」
「やもりは仕事早いなー。ほなら朝一番でおとんに連絡して録音データ送って聞かせとく。ほんで若い子に隠しカメラの画像見とくように言っとくわ。」
涼子の父親は日本最大の暴力団組織『同龍会』の若頭であり北区天神橋にある天知組組長である。
涼子は朝一で父親の天知虎吉に電話を入れた。
「おとん、おはよー。ねぎかも見つけたで。いまから盗聴音声送るからー。国土興産の国守社長と萩原知事の万博埋め立ての産廃処理の密談やから聞いといて。MOC・田島も仲間みたいや。やもりが国土興産・MOC・田島の社長室、応接室に隠しカメラもう設置してると思うから何か動きが無いか見とってくれる?あとおとん法務局のえらいさんに知り合いおったやん。かっぱハゲのちびブタのやつ。いまから法務局行くから会えるように段取りしといてくれる。こいつら移転した病院と印刷会社のビル2棟をテナントビルということに変えて瓦礫の産廃、万博の埋め立てに使おとしとる。危ないもんいっぱい入った瓦礫で埋め立てしょうとしとんねん。ほんでこの事を目瞑っといてくれと萩原知事にお金つかましてお願いしよった。萩原知事も埋め立て用の瓦礫が今喉から手が出るほど欲しいらしいから目瞑る覚悟したみたいや。ほんで法務局のハゲちびブタなんちゅう名前やった?」涼子は一気に捲し立てた。
「涼子、なんとなく内容は分かった。知事と大手3社JVが危険な産廃をごまかして万博の埋め立てに使うってこっちゃな。なんちゅう悪いやっちゃ。法務局に行くんはなんでやねん。」
「さっき言ったようになんか移転した病院と印刷会社の廃ビル2棟をテナントビルやったということに登記変更しとるらしいねん。だれがどうやって登記変更やったか裏どりや。」
「分かった。涼子が調べれるようハゲちびブタに協力するよう連絡しとく。名前は総務部長の堀田泰然や。あいつには女絡みで大分助けたったから逆らわれへんやろ。許したると言う事覚えたお父ちゃん偉いやろ。(実際は脅して300万払わしている)ほんで何時ごろ法務局に着く?」
「今から車飛ばして行くから9時半ごろには着くと思う。頼むで。」
「よっしゃ。かわいい涼子ちゃんの頼みや。ほんでどっちに反省さすつもりや?」
「そんなん両方に決まってるやん。ほなな。」
天知は一条にやもりが仕掛けた隠しカメラの映像をチェックするようITおたくの薮内浩に連絡入れるよう伝えた。
薮内は桜川のマンションに住んでいる35歳独身のさえない男だが、ITに関しては天才的な能力を発揮する。一時はアメリカのFBI諜報部に所属していたが少女趣味の性癖がバレ国外追放となった変態だ。西成のドヤ街でふらふらしている所を虎吉の右腕、一条牙城がなぜか気になり声をかけてみた。ところどころあなの空いたTシャツとシミついた半パン、草履の薮内だが小脇にノートパソコンを大事そうにかかえブツブツなにか呟いていたので「にいちゃん何してんの?飯おごったろか?」よっぽど腹が減ってたらしく強面の一条にもひるまず「おねがいします。」と言ってついてきよった。今池近くの一条常連の純喫茶『葡萄園』に入り一条はアイスコーヒー、薮内は焼肉定食ご飯大盛りをたのんだ。
マスターが「一条さんこいつなんですのん?きっちゃないなりして知り合いでっか?」
「いや、何となく気になってな。」
一条は人を見る目にたけていて、子分連中は何かに長けているやつが多く、そのほとんどは一条がスカウトしてきた奴らだ。武道に長けている奴・情報網が多い奴・裏社会に詳しい奴・怖いもの知らずでイケイケの奴・女たらしに長けた奴など偏った奴ばかりだが得意な分野になると如何なく能力を発揮する。やもりもその一人だ。
「にいちゃん名前は?」焼肉を口に入れたまま
「薮内です。」ともごもご答えた。
「こんなこところでにいちゃん何しててん?」
「何にも。」
「お前どうゆう人生歩んできてん。」
「自慢するわけではないんですが、一応東大の理系出て外務省に入ったんですけどアメリカのFBIからスカウトきてアメリカに行ったんですわ。外人の女の子供はどんなんかなぁと不純な動機なんですけど。ほんでちょっと街で白人の女の子にいたずらしょう思って声かけて連れていことしたらポリさんに捕まってもうて、未遂やし声かけただけやからとりあえず許してもろたんですけど、FBIに報告がいってさらに日本での前科もバレてもうて。防衛省に入る前警察にハッキングして前科消したはずやねんけどアメリカに行く前日の未遂犯行がなんか消すの忘れて残ってたみたいで、FBIもある程度分かってたらしいけどとりあえずスカウトしてもうたから様子見みたいな感じでしてん。手続き遅れてたみたいでどっちみちクビで国外追放の予定でしてんけど、国外追放が早まってもうて、で、今朝このパソコンとスマホ以外アメリカから帰りの空港で盗られて何も持ってなくて日本に戻ってきたんですけど親からは絶縁されてるし、友達もおらんし、とりあえず関空から難波まで携帯に入ってる残高ぎりぎりのsuicaで来てふらふら歩いてたら西成まで来てて、これからどうしょと思ってたら声かけてもらったと言う事です。助かりました。ありがとうございます。とりあえず腹一杯になりました。せやけどなんで声かけてくれはったんですか?」
「まあそれはええがな。あんた、警察のサーバーもハッキング出来るんかい。」
「日本はどこでも入り放題ですわ。あますぎます。」こいつは使えそうや。
「そうか、上にも相談せなあかんけど、どや、うちの会社に入らんか?住む所も、とりあえずの生活費も前払いしたるで。」
このような経緯で一条の勧めを聞きいた天知虎吉も気に入り子分にし、桜川にマンションを借りてやった。日頃は警察の動向や対向組織の動向を見張るのが薮内の仕事だ。
やもりの仕掛けたカメラは12個にも及ぶ。カメラの画像は海外サーバーを5カ国経由してパソコンおたくの薮内のパソコンに送られ音声とともに盗み見できるようになっている。本部のパソコンにも共有され舎弟数人で交代で見張っている。
国守は社長室でへっぴり腰しでゴルフスイングしている。こんなおっさんでも大手ゼネコンの社長なのだ。噂ではヨイショの国守と呼ばれ、上司の命令なら汚れ役でもうまくこなしてきた努力が功を結び部長→常務→専務ととんとん拍子に出世し、前社長が脳梗塞で急死したのをきっかけに3年前社長の座を射止めた。自分のやり方が正義と信じプライドだけ高く、結局取り巻きはYESマンばかり。業績は時流もあり右肩下がりとなり役員間では不満分子がぽつぽつと出始め焦りが出てきた所、福島区の開発で一発逆転を狙い不満分子の役員を切り捨てる狙いなので、この案件は手段を選んでいる場合ではなく成功に命を賭けているのだ。しかしヨイショのみで能力は無くへっぴり腰でゴルフスイングし、ヨイショゴルフコンペに勤しんでいるしかないのである。MOCと田島の社長室も応接室も特に変化は無い。
涼子はシャネルのTシャツに黒のレザーハーフパンツに着替え、地下駐車場に向かい真っ赤なポルシェ911カレラターボに乗り込むとゴワン!!というエンジン音を鳴らし法務局に向かった。法務局裏の駐車場に車を留め急足で法務局に入って行った。
2階の登記受付の窓口で「すんませーん。総務部長の堀田さんいたはりますか?」
「少々お待ちください」と受付の中年のおばさんが奥の方へ行きハゲちびブタに来客を伝えている。おったおったと安心し、こっちへ来るのを待つ。苦虫噛んだような顔でハゲちびブタがこっちへせこせこした足取りで向かってくる。
「どうゆうご用件でしょうか?」ひきつった笑い顔で聞いてきよる。
「天知と言います。おやじから連絡あったと思うんやけど。私が来んの」
「はい、はい。涼子さんですね。お電話頂いてます。ほんでご用件はどのような…。」
「福島区の廃ビルの件でちょっと聞きたいことがあって来さしてもろたんですわ。」
「ちょ、ちょ、あんまり大きな声で言わんとってください。」と小声で言いよった。
ははーん、こいつ何か知っとんな。気が小さいからすぐ分かる。
「ちょっと外出ます?」言うたら「はい、はい、はい。ちょっと待っていただけますか。」と言い残しせこせこ自分のデスクに戻り黒い型崩れしたセカンドバッグ持ってまたせこせここっちへ戻ってきよった。「ちょっと出てくるで」と誰も聞いてないのに大きな声で言って私を連れて一階への階段を降り谷町筋に出た。「参ったなぁ」と独り言言って信号を渡り天満橋駅の方へせこせこ私を無視して歩いていきよる。『私も舐められたもんや。覚えとけ!』と心の中で思いながらついて行った。喫茶店のチェーン店ドントルに着いたら自分の分だけコーヒー頼んで奥の喫煙ルームに入っていきよる。どこまでせこいやっちゃ。しゃーないから私もアイスコーヒー頼んで喫煙ルームのハゲちびブタの向かえにに座る。こっちが黙って睨みつけてるとタオルハンカチで頭や顔の汗を拭きながら俯いたまんまや。震える手でメビウスに火をつけぱふぱふ吸い出した。私もアイコス取り出して一服ふかす。私の顔を上目遣いでチラッと見よった。
「堀田さん。さっき聞いたことやけどなんか知ってたら教えてもらえませんか?」
「何にも知りませんで。病院や印刷会社て何のことですねん。」ぱふぱふのスピードが上がった。
「私、病院や印刷会社て一言も言ってませんで。廃ビルて言うただけや。おっさん知ってること言わんと親父にもう一回追い込みかけてもらおか?」
「え!」また汗拭きながらぱふぱふが一段とスピードアップした。「どうしよ。やばいなぁ」と独り言言いながら灰皿にフィルター寸前まで吸ったタバコを押し付け、汗拭きながら2本目に火をつけぱふぱふしとる。
「知ってる事教えてって言ってるだけですやん。ぱふぱふタバコばっかり吸ってないで何か言ったらどうですのん。」
「知らんもんは知りませんねん。」しらこいやつやで。だいたい気が小さくて悪いやつに悪い話はやってくる。欲ばりでよう断らん気の小ささがガッチンコ。こんなやつが悪には便利がええ。
「ほなよろしいわ。親父に電話しよ。」スマホ出してボイスレコーダーをONにし、かけるふりしたら「ちょ、ちょ、待って。」と泣き顔になっとる。
「あのー、私から聞いたって内緒にしてもらえますやろか。バレたら命まで奪われかねん事ですから。」「はいはい、誰にも堀田さんから聞いたとは言いません。約束します。堀田さんの名前出しても何の得にもなりませんから。ほんで?」
「あるゼネコン大手の社長から…」
「国土興産の国守さんやろ」
「ななな何で知ってますのん?」
「風の噂や。ほんで。」
「福島区の開発事業でね…」
「ほんで。」
「んーーーん。やっぱりやばいなぁ…」
「親父に電話しよっかなぁ」
「分かりましたって。知ってること話します。なんか福島区の開発で病院と印刷会社の廃ビルを解体するのに、病院と印刷会社の廃材は色々ややこしい手続きが必要になるから登記をテナントビルとなるよう登記の記載を改竄して差し替えてくれとお願いされましてん。私色々国守社長にはまずい事掴まれてますし、西成の賭場のツケ肩代わりしてもろて命拾いしたこともあり恩人ですねん。断れませんねん。ほんでデータをチョチョイと部下のパソコンから改竄したと言う訳です。ほんまに私から聞いたと言わんとってくださいよ。国守社長のバックには怖いお人らが着いてますんで私が言ったと分かったら私、南港のお魚さんのご飯になってしまいます。」
「分かった分かった。言いませんて。堀田さんがお魚さんのご飯になってもうたら私も寝覚め悪いもん。(魚もこいつ食べるかな?まずそう)ほんで誰のパソコンで改竄したん?」
「部下の小林という者のパソコンです。」
「ありがとう。よう分かったわ。ほんで堀田さんなんぼもろたん?」
「なんぼも貰ってませんがな。ほんまやで。」
「もうここまで言ったんやからええやん。なんぼもろたん?お魚さんのご飯になりたく無いんやろ。」
「涼子さん、お父さんに似て悪やなぁ。50です。」
「ふーん。(こいつ100は貰っとんな)まあええわ。堀田さんがなんぼ貰おうと私には関係ない。ほなさいなら。」涼子はさっさとトレイを持って返却口に置き店をでた。振り返ると窓から堀田が頭かかえおでこテーブルに着けている姿がチラッと見えた。あいつは落ちるとこまで落ちてお魚さんのご飯になる運命やなと涼子は少し堀田が哀れに思えた。
法務局裏の駐車場に行く道中ボイスレコーダをOFFにし、親父に電話を入れた。
「おとん、堀田全部ゲロしよったわ。運良くあいつが張本人やったことが分かった。ありがとう。ほんで堀田の部下で小林言う部下のパソコンで病院と印刷会社の登記をテナントビルに改竄した証拠、薮内さんに調べてもらってくれへん。とりあえずボイスレコーダーの音声送っとく。3社はまだ動きないかなぁ?」「分かった。薮内に連絡入れとく。3社はまだ何の動きもないなぁ。国守のへなちょこスイングずっと見せられてるわ。もう飽きたから他のもんに任せた。涼子これからどうすんねん?時間あったらこっち来てお昼でも食べよか?やもりもこっちきて領収書からめぼしい料亭ピックアップしとる。」
「そやな、お腹も減ってきたしそっち行くわ。ほな。」電話を切り車に乗り込んだ。
涼子は、天知、一条、やもりの4人で天神橋商店街の『そば爺』の座敷で鴨そば定食を食べながら改めて今までの経緯を説明し、今後の対策を練っていた。
天ザル定食を食べている天知が「知事の裏どうとるかが問題やな。JV3社の密談に参加してくれたら儲けもんやけど、割と慎重派の知事やから可能性は低いか。やもりも知事室に隠しカメラ設置できると思うがちょっと危険すぎるな。ここは我慢して様子見よか。」
ざるそば大盛りを啜ってるやもりが「知事室はセキュリティがかなり高いから、隠しカメラ設置できてもすぐ見つかる可能性が高いですわ。ちょっと危険やと思います。しかし、領収書から3社社長連中がよく集まってる料亭分かりましたわ。西天満の『ご縁』ゆう店です。領収書が定期的にあるんで国守の秘書やということになりすまして電話して予約の確認ゆうことで聞いてみたら毎月第一金曜日の午後6時にJV3社の社長が食事してることが分かりました。国守とこの領収書は3ヶ月ごとやから3社持ち回りと思われます。」
一条「やもり、でかした。あそこは離れの部屋があるから社長そこに間違いありませんで。」
天知「やもり、第一金曜やったら明後日やな。そこに隠しカメラ設置してきてくれるか?」
やもり「わかりました。明後日の明朝に設置してきますわ。」
涼子「そこに知事も同席せなあかんようになんとか持っていかれへんかなぁ。」
一条「ほな、薮内に国守のパソコン乗っ取って知事に『ちょっと困ったことがあって早急に会って話したい。明後日西天満の『ご縁』で3社集まるんでご一緒できませんか?』とメール送らしときましょか?
それで知事が乗ってきたら知事の返信メール改竄して、『明後日3社社長とお会いしたい。』と。あとは国守次第で知事と3社社長連中が集まる事になります。うまくいけばの話でっけど。」
天知「やってみる価値ありやな。ばれたら不安がられて知事がひるがえしよるかもしれんが。まぁばれてもともとでやってみるか。一条、さっそく薮内に連絡してこの事伝えとき。あくまで慎重にな。知事の返信がいつくるか分からんから気いつけとけとな。」
一条「分かりました。社長。早速薮内に連絡入れますわ。」
一条はその場で薮内に電話した。「薮内、国土興産の国守社長のパソコン乗っ取って萩原知事に『ちょっと困ったことがあって早急に会って話したい。明後日西天満の『ご縁』で3社集まるんでご一緒できませんか?』とメール打ってくれ。ほんで知事からOKの返信きたらそのメール改竄して『明後日3社社長とお会いしたい。』と来たようにしてくれ。意味わかるか?3社社長の席に知事を呼び出したいんや。送信履歴は消しとけよ。そこまでしたら後は国守次第や。知事のメルアドは分かるか?」
薮内「一条さん、今ちょうど国守のパソコン覗き見してたところですねん。何回か知事とやりとりしてます。知事からは『ほんまに大丈夫なんか?』みたいな内容が来てます。国守は『大丈夫ですって。知事も助かりますやろ。お互いWINWINで』と、一生懸命説得してます。ここでそんなメールしたら知事もあわてて来まっしゃろ。やってみます。またご報告しますわ。」
一条「よっしゃ、頼むで。」一条は電話を切った。
一条「なんとか上手い事いけばええんやけど。薮内の連絡待ちですわ。」
天知「よっしゃ。腹も膨らんだ事やし事務所に戻ろか。涼子ちゃんはどうすんねん?」
涼子「ほとんど寝てへんから眠たいわ。やもりもやろ。私はマンション戻って今晩のため一寝入りするわ。」
天知「分かった。ほたらここで解散としよか。やもりも家帰って休んどき。二人とも薮内から報告きたらメールいれとくからゆっくり休んどき。一条ほたら事務所に戻ろか。」
涼子はマンションに戻りシャワーを浴びベットに倒れ込み一瞬で寝込んだ。4時過ぎに目が覚めメールを開くと一条からのメールが着信して、スクショが添付されていた。
国守『明後日18:00西天満の『ご縁』で3社集まりますんでどうでしょうか?』
萩原知事『承知しました。伺います。』
との短いメールのみだった。
「よっしゃ。薮内えらい!上手いこといった。こいつら何の疑いも無いんか。自分のことばっかり考えてるから簡単に騙されよる。ラッキーや。」
涼子はもう一度熱いシャワーを浴びて出勤の準備にかかった。
2日後の夕方天知組の事務所で天知、一条、涼子の3人はパソコンの画面に見入っていた。涼子はこの日お休みを貰っていた。画面には『ご縁』の離れの部屋を4ヶ所から映し出されている。準備のため出入りしている店員の無駄話も鮮明に聞こえる。やはりやもりの仕事は完璧だ。
天知「おかしいなぁ。ざぶとん5枚あるな。後一人誰来よんねん。」
一条「知事の秘書ちゃいますか。」
天知「あの慎重な知事や。なんぼ信用できる秘書でも連れて来んやろ。」
涼子「そやなぁ。誰やろな?」
天知「まあ観てたら分かるやろ。」
そうこうしてるうちに、最初に来たんはMOCの小林社長。次に田島の田島社長ほんで国守。10分ほど遅れて萩原知事がマスクをし、顔がわからんようにキョロキョロしながら入ってきた。
国守「知事、お忙しい中すみませんな。会いたいてなんかありましたんか?」
萩原「え、なんか問題があるから来てくれてメールが来たから来ましたんやで。」
国守「ん。なんかおかしいですな…。」
天知「やばいな。なんかおかしなってきたぞ。」
4人が押し黙ってしまった。そこへ
「遅くなりすみませんなぁ。」と一人の男が座敷に入って来た。
国守「そうそう、知事に紹介したい人がおりましてな、今日同席してもらいましてん。解体会社の鈴村社長ですわ。」
萩原「鈴村さんてあの鈴村解体興行の鈴村社長ですか?」
鈴村「知事さんにお見知り置き頂き光栄です。鈴村解体興行の鈴村と申します。この件では国守社長にちょっとかましてもらってます。何卒よろしくお願いいたします。」
そう挨拶して上座の知事の横にドカッと座った。
下座には小林、田島、国守が座っている。
萩原「失礼ですけど鈴村さんとこて反社のフロントと違いますか?」
国守「ちゃいます、ちゃいます。れっきとした解体・産廃処理専門の会社です。」
萩原「そうですか?噂で聞いた事あるんですけどなぁ。やばい事に巻き込まんといてくださいよ。私も立場っちゅうもんがございますんで。この席の事はくれぐれも内密にという事で、他言せんとってくださいよ。お店のかたにもくれぐれも内密にと念押しとってください。」
国守「大丈夫ですって。この店は口が硬いので有名です。この5人の席やっちゅのもオーナーさんしか知りません。他の従業員には会社名も名前も伝えておりません。大事なお客さんやから失礼の無いようにとだけ伝えてもらってます。こっち側の3人は定期的に使わせてもらってるから知ってる従業員もいてまっしゃろけど鈴村さんも初めてやから誰も知りません。知事もマスクで顔隠してはったから誰も気づいてないでしょ。小林社長も田島社長も鈴村さんは初めてやな。鈴村さん。今回の福島開発のJVのお仲間さんのMOCの小林社長と田島の田島社長です。」
鈴村「小林社長、田島社長今回はお世話になります。抜かりなく事運びますのでよろしくお願いいたします。」
小林「よろしく。」
田島「よろしく。慎重にお願いいたします。」
鈴村「承知いたしました。皆様にはご迷惑おかけする事はありません。すべてこの鈴村にお任せください。」
萩原「そうやったらええねんけど。あくまでも慎重にお願いしますよ。」
天知「変な奴が入って来てくれたおかげで不信感抱いとったんが無くなってしもたな。よしよし。」
一条「けど社長、あの鈴村て跳水会いう右翼団体の林会長の右腕でやり手で有名な奴でっせ。」
天知「跳水会言うたら林組の別団体組織やな。またややこしいのが出て来よった。」
涼子「堀田が国守のバックに怖い人がおるって言うてたんはこいつの事やな。おとん林組言ったらおとんとこと同じ『同龍会』の系列なん?」
天知「違う、西成の地場やくざや。恐喝、麻薬、賭博、詐欺等何でも屋の組織や。そんな大組織では無いがイケイケが多い事で有名やから『同龍会』の系列組織もある程度目瞑ってるとこもある。今時わしらには色々厳しい目があるからあんまり揉め事は避けたいところっちゅう事や。」
一条「フロント企業も不動産、解体・産廃処理の2社持ってます。あの鈴村が2社とも仕切ってから業績上がってるらしいですわ。」
天知「うちの系列でも噂になって注視してるとこや。この件は慎重に事運ばな組にも迷惑かかる。涼子も一条も慎重にな。」
一条「分かりました。」
涼子「おとん、分かった。慎重に進めて行くわ。」
天知「とりあえずこいつらの会話聞いとこ。」
萩原「国守社長。これお返ししときますわ。」とお店出た時秘書が持ってたアタッシュケースと同じものが国守に渡された。」
国守「何おっしゃってますのん。ほんの気持ちですがな。受け取ってくださいよ。」
萩原「いや。こういう事はどっから漏れるか分からんから私の身は綺麗にしときたい。あと、埋め立て用のあくまでテナントビル等の建物廃材と掘削残土と福島開発地域合わせて150万トン分、府から10億お支払いいたします。これでも10分の1ぐらいで万博の予算も助かります。形だけ帳面に書いたら会計から不審がられても私が困りますんで。私にも敵が少なからずいてますんで。」萩原は強い意志でそう告げた。
鈴村「国守社長。知事のおっしゃる事は正しいと思います。知事の思い汲んだ方がよろしいんちゃいます
か。」
田島「私もそう思います。あくまで正規の手続きで進めなどこで漏れるか分かりませんで。」
小林「そうですな、国守社長。知事には迷惑かからんようされた方が。」
国守「分かりました、分かりました。じゃあそいう事で。」
萩原「それで福島の病院と印刷会社のあった所の登記も内密で調べました。間違いなくテナントビルに改竄されてました。現調のことは私がうまくやります。あと、私は何も知らなかったという事でお願いしますよ。」
国守「承知いたしました。万事この私におまかせください。」
田島「国守さん。私とこもMOCの小林社長とこも何も知らんという事で。」
国守「はいはい分かりましたて。なんで私とこだけややこしい建物ありますねん。ほんまババ掴みですわ。」
小林「なに言ってますん、国守さん。ほんまは田島さんとこと私とこ2社で福島開発行うことになってたのに何をしたんか知りませんけど市長の水間さんから国土興産も参加させて3社で福島開発お願いします。割り振りはMOCさんとこと田島さんとこで決めて貰って構いませんんからと、突然割り込んで来はったん国守さんとこですやん。」
国守「はいはい。分かりました分かりました。その代わり府からの10億、私とこ5億で残り小林さんと田島さんとこいう事でお願いしますわ。」
田島「相変わらずがめこいですな。かないませんわ。」
国守「違いますやん。鈴村さんとこの産廃処理費お支払いせなあきませんやん。その分も含んでますやん。」
小林「よう言いますわ。開発で100は儲けまっしゃろ。後から割り込んできはったくせに。」
鈴村「まあまあ喧嘩はこの辺で。皆さんで力合わせて福島開発成功させましょうよ。」
萩原「先が思いやられるなぁ。市長まで噛んでるとは。まあ私は何も知らんという事で。そろそろ私は失礼致します。後は皆さんでよろしゅう。」
国守「何言ってますのん。これから美味しい食事でっせ。まだ帰らんと。」
萩原「いや、あくまで私はこの席にはおらんかったいう事でお願いします。失礼致します。」
萩原知事はそう言い残すとマスクをし、さっさと部屋を出て行った。
あとの4人は食事しながら下世話な話で盛り上がり2時間程でお開きとなった。
一条「ほんま慎重な知事やな。まあ言質はとれましたけど。」
涼子「ほんまや。おとんこの後どうする?」
天知「そやなぁ。国守のけつもちがややこしいな。ちょっと本部で相談してみるわ。この世界も広いようで狭いし、繋がりあれば金で交渉することもできるかもしれへんしな。本部からは揉め事は起こすなと厳命受けとるさかい。あんまり焦らんとちょっと待っとってくれるか。わしにあずからしといてくれ。」
涼子「分かった。どっちみち解体してるとこや運搬・埋め立ててるとこの映像も撮らんとあかんし。3社の隠しカメラからいつ頃から解体始まるか分かるやろから。解体まで早くて2〜3ヶ月ぐらいは待たなあかんやろなぁ。そう言や薮内さん、法務局の小林いうパソコンから登記改竄の証拠なんか見つかったんやろか?」
一条「ちょっと聞いてみますわ。あいつすぐ政治家や警察、検察のハッキングして遊んどるからちゃんとやっとんのかな。すんません。またご報告しますわ。」
天知「そやな。証拠は多ければ多いほど後々有利になるからな。頼むわ。わしは近いうち本部に行って相談してくる。それまで慎重に出来る事はやっといてくれ。これで儲けがでたらわしの存在感も高こなるやろし、涼子ちゃんにももっと贅沢さしたるさかいな。」
涼子「もう贅沢はこれ以上ええで。それより私正義感がどんどん湧いて来て世の悪を懲らしめるのに生きがいを感じるようになって来てんねん。えらいやろ。」
天知「涼子ちゃんはえらい!悪は滅さなな!」
『どの口が言ってんねやろ。大悪はおとんやろ』と心で思って苦笑いする涼子・一条。
翌週、水曜日の夕方、天知は『同龍会』本部の応接室で同龍会会長の金田甚五郎に事の流れをかいつまんで説明し、対処について話し合っていた。
天知「おじき、知事と3社ゼネコンどうしましょ。」
金田「天知、なかなか美味しそうなシノギやなぁ。ええネタ持って来たわ。けど問題は西成の林組や、ワシも何回か林さんと会ったことがあるけど、仁義に熱いお人という印象や。うちの西龍会、西本が西成の賭場を暗黙の了解でシャバ分け合って共存共栄の仲のはずやけど。どっちにしても林さんには筋通しとかなややこしなるな。しかし、林さんに筋通したところであそこはイケイケ多いから林さんの命令出ても、誰かが組織に属さん半グレ使って天知んとこのもん襲いよるかもしれんぞ。そうなったらワシもお前も黙ってられへんようになるからな。ほんで、鈴村いう奴、噂では聞いとるがなかなかのやり手みたいやな。かなり大きなシノギ持って来よるさかい林さんも好き放題させやなしゃーないようになってしもたみたいや。イケイケのやつらも鈴村の言うことやったら林さんの命令聞かんと無茶しよるやろなぁ。力関係が逆転しそうな感じや。林さんもなんぼシノギ多い奴や言うても頭痛いんちゃうか。もともと林さんとこは賭場がシノギの組やったけど、鈴村が恐喝、麻薬、詐欺なんでも来いの組に変えてしまいよった。組員も半グレやどうしようもないチンピラを多数スカウトしよったさかい元々の組員も肩身狭い思いしとるみたいやな。天知。とりあえずワシと林さん、天知も一緒に飯でも食いながら話しよか。」
天知「おじき、分かりました。是非ご一緒させてもらいます。ただワシの立場もありますんで林組長と話がついたにも関わらず鈴村がいらんことしよったらおじきにもちょっとご迷惑かけることになるかもしれませんで。」
金田「分かってる。その時はワシかて黙ってへん。安心し。とにかくちょっと待っとけ。ワシが林さんと段取りとるさかいまた連絡する。」
天知「分かりました。よろしゅうお願いします。」
一条は桜川の薮内のマンションの部屋にいた。
一条「薮内、法務局の件どうやった?」
薮内「はいはい。連絡せんとすみません。大阪検察のハッキングしてたらあまりに面白いというか、理不尽というかのめり込んでしもて連絡すんの忘れてました。ほんますみません。」
一条「なんか面白いネタ見れたんか?シノギのネタになりそうか?」
薮内「ネタになりそうかならんか分かりませんけど、検察の偉いさんて悪でんなぁ。犯罪者おもちゃ扱いですわ。自分の手柄の為やったらなんぼでも証拠捏造してまっせ。」
一条「よっしゃ。とりあえず捏造の証拠保存しとってくれ。またええシノギに使えそうや。それより小林のパソコンから証拠出たんか?」
薮内「出ましたで。ちょっと一条さんモニター見てもらえますか。」
一条「なんや。見してみ。」
薮内「これが3月1日の福島区の病院と印刷会社の登記データです。移転前の状態ですわ。前々から開発の為立退移転計画あったんでしょうな。今はこの病院は東三国の方に移転してます。印刷会社は放出の方に移転してますわ。これとこれが移転後の登記ですわ。3月10日に病院は移転手続き取ってて、印刷会社は翌月の13日に移転手続き取ってます。移転前の登記がなぜか無かったことになってます。福島区に移転する前の登記はありますけど福島区の分が消えてますんや。遡って2つとも福島区に移転してきた年月日に国土興産所有の第一福島ビルと第二福島ビルていうテナントビルやったことに改竄されてますわ。2つともそんな長い間福島区にいて無かったのが功を奏しました。Log過去に辿っていったらこういう経緯でした。これでよろしいか?」
一条「よっしゃ。ようやった。このデータ天知組と涼子さんのパソコンに送ってくれるか。病院も印刷会社もおそらく立ち退き料の上乗せもろて改竄承知済みやろ。この世も金次第っちゅうこっちゃ。これで美味しいもんでも食べといで。」と5万薮内に渡した。
薮内「おおきに。一条さん。毎月ももろてんのにすんません。違う美味しいもん食べてきますわ。ニヒヒ。」
一条「かってにせえ。くれぐれも違法はあかんで。変な犯罪も起こすなよ。ほんまお前危なっかしいのぉ。ほなまたなんかあったら頼むで。あと検察も引き続いて調べといてくれ。」一条はマンションを出て事務所に戻った。
翌日天知の事務所の応接室のソファに、天知・涼子・一条が座り、今後の為報告しあい、対処方法を練っていた。
涼子「これで前段階の証拠は全部揃った感じちゃう。あとおとん、金田さん、林さんの話し合いがどうなるかがキーポイントやな。しゃーけど話し合いがうまくいったとしても林さんが鈴村をおさえられるんかなぁ?なんや物騒な事にならんかったらええけどな。」
一条「ワシも昨日薮内と会ってから西龍会、西本組長に挨拶行ってきましてんけど、西本組長の話では、鈴村っちゅう奴なんか調子乗ってる話でしたわ。西龍会のシャバにもちょこちょこちょっかい出してきてるみたいで、組員同士がちょっと揉めた事もあったみたいですわ。その時は林組長が西本組長に仁義通して収まったみたいですけど、鈴村の奴影では『林組長はおかざりでワシが実質林組のトップや。組名も近いうちに鈴村組になるやろ』とスカウトしてきた下のもんに吹いとるらしいですわ。おやっさん、ちょっと鈴村締めやなあかんのとちゃいますか?」一条は普段は冷静だが、スイッチが入るとちょっと怖いところがあり、イケイケに変貌するところがある。
天知「こら、一条。ちょっと待て。ワシが金田さんと林さんで話する言うてるやないか。それまでは先走んなよ。ワシの立場もよう考えてしゃべれ。」
一条「すみません。勝手なことはしませんよって。」
涼子「まあまあ、おとんもそう怒らんと。一条さんがおとんの立場考えんと動くわけないやん。ただおとんとこや西本さんとこの組員になんかあったらあかんと思てるから、それだけ鈴村の事が気になってるちゅうこっちゃ。」
天知「分かった、分かった。今週金曜日にとりあえず話ししてくるから、それまでは動くなっちゅうこっちゃ。なぁ一条。」
一条「おやっさん。分かりました。すんません。」
天知「分かってんねんやったらええんや。しゃーけどちょっとなんか嫌な予感するなぁ。」
金曜日の午後5時。場所は今池のロータリーにあるカウンター5席。4人用のテーブル席3つの古びた小さな店、昭和の時代から知る人は知る焼肉屋『焼肉ぽんちゃん』を貸し切って、金田、天知、林の3人は炭火のいこった七輪が真ん中に置かれたテーブルを囲んでいた。
塩タン、ホルモン、上ロース、上カルビ、それに白菜・大根・きゅうりのキムチ盛り合わせがテーブルに乗り、金田はハイボール、天知と林は生ビールを飲んでいる。オーナーの徳山がタイミング良くそれぞれの肉を順番に網に乗せてはひっくり返し、それぞれのタレの入った小皿に取り分けてくれにやってきてくれる。他の客にはそんなことはしないが、貸切という事もあり、このメンツも相まって特別サービスだ。おかげで飲む、食べるだけでよく話がしやすい。
林「会長、天知さん。すんません。こちらまで出向いていただいて恐縮です。」
金田「いやいや。ワシもこの店大好きでたまに来させてもらってるんですわ。気にせんとってください。それにしても林さんとこ儲かってるらしいでんな。風の噂で耳に入ってきます。ご盛況おめでたい事です。」
林「そんな皮肉言わんとってください。おもろ無く思ったはんのは分かってます。うちのもんが節操なく動いとんの気にいらんでっしゃろ。わしも頭痛いところでんねん。シノギ多いのは組にとってもええ事ですけど金田さんとこと揉めたらワシらみたいな地場もんは太刀打ちでけへんのは分かってるつもりです。2、3年前までは西本さんとこと上手くやってましてんけど…。もうご存知やと思いますけどうちの鈴村っちゅうのがワシの遠縁でね、元々大手商社に勤めとったんですけど、ちょっと悪さしまして首になり、うちで面倒見てくれて頼まれたんですわ。いや、一時は南米とか海外赴任もしててエリートっちゅう感じでしてんけど、南米からクスリ密輸して半グレとかに売り捌かしてんのがバレましてな。それでクスリのルートまだ持ってるからおじさんとこ儲けさしたるでゆうて面倒見るハメになりましてん。うち賭博のみでクスリは御法度にしてましてんけど、ついつい儲け話にワシも乗ってしもて…。それから勢いついて元半グレとかのややこしいもんの伝手で不動産やら解体・産廃事業まで起こしてどんどん力つけさせてしもたんですわ。もうワシの言うことなんか聞きませんわ。あいつ付きも今10人ぐらいいてまして…。」
天知「林組長、なに弱ごとばっかり言ってますねん。昔の勢い何処いきましてんや。」
林「そうでんな。昔はワシも突っ張って、イケイケの時期もありましたけどなぁ。体調も思わしくありませんねん。肝臓と心臓がちょっと悪くてそろそろ引こかなとも思てますんや。」
金田「林さん、そんな状態やったら鈴村、もっと調子に乗っていきまっせ。あまりにも目に余るような事になっらワシんとこも目瞑ってられへんようになります。よろしいんか?」
林「もうワシには何もできしません。会長におまかせしますわ。そや言っても鈴村とは遠いですけど血繋がってますんや。手加減お願いしますわ。」
天知「林組長。それは鈴村次第で約束できませんわ。西本とこもプライドありまっしゃろし。」
金田「そやな、西本にも林さんの言葉伝えまっけど止めれる事と止められへん事ある。ワシらとこも林さんには義理通しまっけど鈴村には義理通す必要がおまへん。林さんには悪いけど成るようにしか成らんと言う事ですわ。」
林「そうでんな。分かりました。ワシも腹括りますわ。」
翌日土曜日の昼、天知、涼子、一条は天神橋の『そば爺』の座敷で昼のそば定食食べながら天知の話を涼子と一条は口を挟まず聞き込んでいた。
天知「そう言う事で林さんはもうあかんわ。気力がなくなってもうとる。林組から鈴村組に改名すんのも時間の問題や。会長も『しゃーない。』て言ってたからちょっと鈴村かまさなあかんようになる。涼子はちょっと気いつけておとなしいしとき。まだ解体は始まらんやろ。一条、西本には会長からの伝言で、『鈴村と何かあったら会長に伝え指示を仰ぐようにと、早まらずにまず連絡よこせ』と伝えといてくれ。」
翌週、突然の訃報が金田から天知に連絡が入った。事務所で林が血を吐いて倒れたと。すぐ救急車で関電病院に担ぎこまれたがその晩遅くに息を引き取ったと言う事だった。あの時はもう大分悪かったのだろう。
顔はどす黒く白目の所は黄色く濁っていた。昔のするどい眼光は影をさしていた。おそらく肝硬変か肝臓癌がかなり進行してたのだろう。
翌々日、金田、西本、一条らは告別式に出向き焼香を終え車3台に分かれ乗り込もうとした金田に鈴村が近寄り、「金田会長、今日は林組長の為に来ていただき誠にありがとうございます。私鈴村言いますけど、今後林組を率いていきますんで何卒よろしゅうお願い致します。改めてご挨拶にお伺いいたします。」と挨拶したが、金田は「そんなんええ。まあ頑張りや。」と返し、車に乗り込んで帰っていった。鈴村は立ちすくんでいたが、つばを吐いて告別会場に戻っていった。
銀杏が黄色く成る頃、一波乱が起きた。西本組の若いもんが南の笠屋町のビルの5階にあるバーで女と飲んでる時に鈴村の息がかかった半グレ集団に突然からまれ、バーの外に出た所の非常階段から突き落とされたのだ。病院に運ばれたが、頭蓋骨陥没と頸椎が折れており即死状態だった。西本は金田会長に事の成り行きを報告し、あくまで『同龍会』は関係ないと言う事で上手くやれと許しを得た。西本はまず、一緒に飲んでた女に半グレのグループ名何か聞かへんかったかと、人相を聞いた。女によると5人全員革ジャンの背に蛇と髑髏の刺繍があったのと、リーダー格の風体は身長190ぐらいでがっしりした体格、丸坊主に髑髏のピアス。手の甲にも蛇と髑髏のタトゥーが入ってたと言う。それだけで十分だった。西本らが目をつけていたミナミを根城にしている半グレ集団『スカルメドゥーサ』、柳本健二がリーダーの鈴村の末端組織だ。
西本は命令通り金田会長に事の流れを説明し、『会長には迷惑おかけすることがないようにしますんで、お願いします。』と。金田も『お前も黙っとけ言うても聞かんやろ。上手いことやれ。』と許しを得た。天知にも『会長から許し出たんでやらせてもらいます。』と筋を通した。
西本は『スカルメドゥーサ』に対抗している同じミナミを根城にしている組織の半グレ集団『BLOOD ZERO』のリーダー坂根を呼び出し、『スカルメドゥーサ』柳本を含めいつも5人で行動している奴らを手段は選ばず不意打ちでもええからいてまえと500万渡し、『ただしワシらのことは警察に捕まっても絶対に言うな。ただの喧嘩がこうなってしもたと言う事にな。』と念をおした。坂根は『元々柳本らは気にいらん存在で、近いうちいてまう予定だった』と言う。『500も貰ってもうけもんです。任せてください。』とニヤリと笑って帰っていった。こいつらは常にクスリで頭がイカれてるから怖いもの無し状態なので敵に回したらしんどい存在だが、クスリ代を貰えれば何でもやりよるから扱いが単純だ。
もうその日の深夜のニュースで半グレ集団の暴力事件とのニュースが流れ、通称『スカルメドゥーサ』のメンバー5人の内、鉄パイプで殴られた者、ナイフで刺された者等でリーダー柳本を含め3人が死亡、2人が意識不明の重体。襲った集団は正体不明のまま、警察が来る前に散り散りバラバラに逃げ、行方不明だということだった。
あとは林組の反鈴村の人間に鈴村を殺らせればとりあえず若いもんの敵討ちになる。
西本はこっそり反鈴村派の若頭金林を焚き付けていた。金林は普段は温厚派だが、鈴村のやり方にかなり頭に来てたらしい。このままでは自分の立場も鈴村の息のかかった人間に奪われかねないとの焦りも相まって、金林に一番忠誠心のある黒田にチャンスを見て鈴村いてまえと指示を出していた。
林組長の49日が終わった少し肌寒い日曜日の午後3時頃、鈴村は女のマンションにいた。それを子分から聞いていた黒田は宅配業者の制服を着、帽子を深々と被り、段ボールをかかえ鈴村の女のマンションのドアの前にいた。
インターフォンを鳴らし、「お荷物お届けに来ました。」と伝える。「はーい」という女の声。ガチャリとロックが解除され赤いスゥエット上下の小柄な女がドアを開け笑顔を見せた。
黒田は「あんたは外に出とき。」と小声で伝え鋭い目で見つめると、女は引きつった表情でコクコクと頷き廊下に出てきた。
黒田は土足で上がり込み、廊下の先のテレビの音が聞こえる奥の部屋のドアの前まで行き、一気にドアを開け、ビールを飲みながら阪神-ソフトバンクの日本シリーズ戦をソファで観ていた鈴村の背後にスッと近寄り段ボールに隠れるよう持っていたドスを一気に鈴村の首目掛け突き立てた。あっけない終わりだった。鈴村は一瞬『ウッ』とうめいただけで、首から吹き出した血と反対側のソファの肘掛けに身体が倒れていった。黒田は踵を返しドアから廊下に急足で出て行くと、女は泣き笑いのような顔で黒田を見つめていた。女を無視し階段で地上に降り、待機していた子分のアルファードに飛び乗り、車は急発進で国道の方へ向かって行った。女は恐るおそる部屋に入っていき廊下奥のリビングを覗き込んだ。「ヒッ!」と声を出し、その場にへたり込んだ。30分ほど放心状態だった女はフッと正気を戻し、慌ててスマホで110番に掛けた。
当日の夜のニュースで、『指定暴力団旧林組こと鈴村組の鈴村組長が女性のマンションに居たところ何者かに刺殺されました。犯人は目下のところ中肉中背の宅配業者を装った男性としか分かっておりません。』と男性アナウンサーが原稿を読んでいた。
しかし、警察では鈴村組の内部抗争を把握しており、マンションの監視カメラ及びマンションの住人である女性に黒田の写真を見せ、間違いないと確認をとっており、指定暴力団鈴村組の黒田と内定済みだった。
翌日捜査員が逮捕状とともに鈴村組の事務所に入ると、黒田はおとなしく奥のソファに座っており、両腕を差し出した。
この一件により、鈴村組は解散となり、戦後まもない頃より続いた林組(改名:鈴村組)は消滅した。
金田と天知は新地『ふぐ源』の個室で、てっさをほおばりながらひれ酒を美味しそうに舐めている。
「天知よ、なんか上手い事行きすぎるぐらい上手いこといったなぁ。これで邪魔もんはおらんし、あとはお前の腕次第や。大儲けさせてや。」
「おじき、まあ、まかしておくんなはれ。ゼネコン3社と知事からたんまりふんだくってやりますわ。3社のゼネコンの動きから今月中頃から解体始まりそうです。うちのもんに解体から埋め立てまでの過程を映像に撮るよう準備してます。ぬかりはありません。」
「分かった。抜かりなくな。鍋と雑炊食べたら久々にクラブ活動しよか。涼子ちゃんとこでもどや?」
「おじき、勘弁してください。かわいい娘にだらしない親父の姿見せたありませんわ。」
「それもそやな。ガハハハ。ほな他の店にちょっと行こか。」
「お供します。」
『ふぐ源』を出て二人は取り巻きに囲まれながら、より煌びやかなネオンの方へ足を向けた。
銀杏の木から実が落ち出した頃、福島開発が本格的に動き出した。ドンガラドンガラと防音シートがあるにも関わらず騒音とともに開発地域のビル解体が始まった。近くに聳え立つタワーマンションの18階のベランダから望遠レンズを付けた一眼レフの動画機能でやもりは撮影し続けている。留守のベランダをちょっと拝借しているのだ。病院や印刷会社だったビルが鉄骨剥き出しになり、あっという間にユンボで砕かれて行く。なかなか壮大な眺めだ。その砕かれた産廃を別のユンボで大型ダンプの荷台に乗せられて行く。手際良い作業だ。ダンプは10台ぐらい道沿いに待機し、荷台がいっぱいになったダンプはホロを被せ中身が落ちたり見えないように夢洲に向かって出て行く。ダンプが出た後、待機していた先頭のダンプが誘導員の指示に従って解体現場に入って行く。運転捌きは見事なものだ。
夢洲に向かうダンプには涼子の知り合いにバイトで頼んだ大学生が大型バイクに乗り後を付け、バイクの前に取り付けたビデオカメラをONにしながら撮影して行く。舞洲の入場規制の検問所まで撮影したら、そのダンプは10台ほどの順番待ちのダンプの後ろに着け40、50分ほどで入場許可証を検問の警備員に見せ、埋立地に向かって行く。順番待ちにはMOCや田島の下請け会社の社名の入ったダンプがランダムに並んでいる。それらもしっかり撮っておく。
そこからは入れないので、また解体現場まで戻り、新たなダンプを追尾しながら撮影を続ける。1日3台ほどの撮影で終わらせた。それを1週間ほど続け掘削残土の運搬まで撮り終えた。やもりも留守宅を狙い、階数を変えながらもタワーマンションからの撮影を終えた。夢洲の埋め立て現場は同じく知り合いのバイトで頼んだ大学のドローン愛好会のメンバーに咲洲からドローンを飛ばして、ダンプから産廃・掘削残土を海へ埋め立てるところを撮影してもらった。この分も1日3機で3方向からそれぞれ2時間ほど、1週間分を撮り終えた。ドローン愛好会は事前に万博協会事務局に万博のための夢洲の埋め立てや、パビリオン建築を学祭で映画化したいと申請を出し許可を貰っていたので問題は無い。
撮影したデーターは、天知組本部、涼子のパソコン、薮内のパソコンでリアルに観ながら保存してゆく。薮内にはこの大量の動画を早送りやCUTしながら、約3時間ほどの動画に編集させた。肝心な所はしっかりと押さえた動画だ。しかし、薮内がタイトルやナレーションを頼んでもいないのに付け、ドキュメンタリー映像のようになってしまったが、まあええやろ。あいつらに説明する手間が省ける。
天知「さあ、準備は整ったで。これからはワシの出番やな。なぁ一条。」
天神橋商店街にある焼き鳥屋『宮崎地鶏の宮さん』の奥のテーブルで、天知、涼子、一条の3人は生ビールを傾けながら、ここの名物、もも肉炭火焼きをつつきながら今後の打ち合わせをしていた。
一条「どっから行きます?」
天知「一緒くたにいてまう!個々に攻めたら擦り合いのオンパレードになる。全員集めてたたく。一条、どっか全員世間に分からんように集まれる場所用意してくれるか?ホテルのスィートとか、会議用の部屋とか。あと、涼子はこの分には関わったらあかんで。一応『恐喝罪』という犯罪行為になるからな。涼子には綺麗な身体でいてもらわなな。」
涼子「分かったわ。おとなしゅうしてます。おとん心配してくれてありがとう。」
天知「ほんま涼子はええ子やなぁ。お父ちゃん涙ちょちょぎれるわ。」
しかし、涼子は天知のしのぎが終わった後のことを考えている。『金だけで済ますわけにはいかん。今の地位から全員抹殺したらな気が収まらん。』と沸々と思いをたぎらせていた。
一条「おやっさん、場所探しときますわ。外資系のホテルのスイートが一番ええと思ってますけど。とりあえず調べてみます。」
天知「よっしゃ、頼んだで。しゃーけどこの炭火焼きはいつ食べても美味しいなぁ。ビールが進む進む。」
涼子「おとん、あんまりビール飲んだらあかんで、尿酸値高いんやから。2年前みたいに足パンパンにはれて、『痛い、痛い』て泣きべそかいてたん忘れてへんやろな。」
天知「分かってる、分かってる。次はウイスキーのハイボールにするがな。」
『分かってんのか分かってないんか。どうしようもないな。』と涼子は思い、苦笑い。
一条「おやっさんも涼子さんには弱いでんなぁ。」
天知「うるさい!黙っとけ!」
涼子「八つ当たりは見苦しいで!」
天知「お前のせいでまた怒られたやないか!おやじさんハイボール濃いめで!あと炭火焼きおかわりや!」
『こんどは店員さんに八つ当たりしとる。』またまた涼子も一条も苦笑い。
御堂筋がクリスマス気分になる頃、一条は天知組の事務所で天知に報告にやってきた。
一条「おやっさん、来週の火曜日ピッツホテルの最上階のスイート予約入れました。あそこワンフロアの部屋ですし、地下駐車場から直通エレベーターありますんで誰にも会わず部屋まで来れます。どないでっしゃろ?」
天知「ええやろ。そこで決まりや。気合い入ってくんなぁ。」
一条「ほんなら薮内に、萩原知事からということで国守、小林、田島3人に映像の一部とともにこんな映像送られてきた。来週火曜日午前10:00に相談がある。場所はビッツホテルの最上階のスイート。駐車場から直行のエレベータできてください。電話は盗聴されてるかもしれんのでしないでくださいと。萩原知事には逆に国守から映像の一部とともにこんな映像送られてきた。来週火曜日午前10:00に相談がある。場所はビッツホテルの最上階のスイート。駐車場から直行のエレベータできてください。電話は盗聴されてるかもしれんのでしないでください。とそれぞれ乗っ取ってメール送らしますわ。誰かが返信しても薮内に瞬時に消すように言っときます。」天知「よっしゃ。それで行こ!しかし、念には念をや。あいつらの監視カメラの映像注意深く若い奴らに見さしとくんと、当日駐車場の見張りで3人ほど張らしとこ。どいつかが警察にチンコロせんとも限らんしな。あと薮内にも警察の情報もハッキングさせといてくれるか。」
この慎重さが天知がここまで上り詰めた要因の一つだ。イケイケだけでは命落とすか、ムショ行きという顛末の奴らを何人も見てきたおかげだ。
当日の10時前、駐車場の見張りの一人から一条に連絡が入った。まず国守が一人でやってきてエレベータに乗りましたとの事だった。その後数分おきに、田島、続いて小林も一人でエレベーターに乗ったとの報告が来た。萩原知事はまだ来ない。部屋に入ってきた3人は入ってきた順番にソファーに座るよう一条に命令された。向かいのソファには天知がドッカと座っている。ソファの後ろには一条とガタイの大きい頭髪も眉毛も無い一目でまともな人間では無いという印象の天知のボディガード役石田という男が立っていた。
国守「おたくらどちらさんで?どうなってますんや?」
小林「国守さん。この状況は?」
田島は引き攣った顔で口を真一文字にしている。
天知「まあ、あせらんと。もうちょっとしたら萩原知事も来られまっしゃろから。それまでコーヒーでも飲んで待っててください。おい!」と石田に目配せすると「はい」と石田は返事をし、コーヒーを3つ淹れそれぞれの前に置いた。
20分ほど沈黙の時間が過ぎ、一条の携帯がブルブル震えた。
一条「はい・・・・・・。そうか、分かった。一人やな・・・。分かった」と言って通話を切った。
「知事が来られましたわ。」
天知「よっしゃ。全員集合や。ドリフやおまへんで。」
誰も引き攣ったまま笑わない。
コンコンコンとノックの音。
一条がドアを開けに向かった。ドアを開けると硬い表情の萩原知事が立っていたが、一条の顔を見るなりエレベーターの方へ逃げようとした。
一条「知事、待ってもらえますか。皆さんお揃いですよ。」
萩原は諦めたように振り返り部屋の中に入って行った。
萩原「国守さんら、これはどう言う事ですねん。」
国守「私も何の事や分かりませんねん。知事から音声・映像添付のメールでここに来てくれてメールあったから来てみたらこんな事に…。
萩原「なに言ったはるんです。メール送ってきたんは国守さんでっしゃろ。今日は朝から万博計画の会議に出る予定やったんですけど、あんな映像送ってこられたらそれどころや無いと思い調整して来てみたら何ですのん。それでおたくらはどちらさんですのん?」
天知「まあよろしいやん。まずこの映像見てもらいましょか。おい。」と一条に合図する。
一条は部屋に備え付きの100インチのTVモニターを付け、デザリングしているパソコンの動画再生のキーを叩いた。TVモニターには『ご縁』での5人の映像が映し出された。一条はボリュームを上げはっきりと会話が聞こえるようにした。1時間ほど全員沈黙で、国守などは口をポカンと開け見入っている。
天知「もうよろしいか?おたくらが帰られるまで映像ありますけど最後まで見ますか?」
萩原「もうよろしいわ。どないなってんねや!しかしテナントビルやのに何が問題ですのん。」
天知「知事もご存じやったはずでっせ。会話の中に『間違いなくテナントビルに改竄されてました。』と言ったはりますやん。あと、一条に目配せした。一条は映像を止めその代わりに登記改竄の証拠を時系列で並べた。
小林「国守さん。どうなってますんや。私は何も知りませんで。」
田島「私もですわ。」
天知「いやいや、ほなら映像また最初から見ますか?もうしんどいでっしゃろ。」
国守「おたくら、ワシのバックに付いてるとことに話しさしますんで。今日は…。」
天知「鈴村さんでっしゃろ?今頃閻魔さんに舌抜かれてるんちゃいますか?」
国守「んーーーーーん。」
萩原「おたくらはどうしたいんですか?
天知「どうもこうも。国民の皆さんに事実を知っていただくか…。それともそれを阻止したいんやったらそれ相応の。ね。」
国守「それ相応て金ですか?それでこれらのデーターは全部渡してもらえるんでっか?」
天知「まあ、そういう事もできるかなぁと…、思わん事もおまへんなぁ」
国守「幾らぐらい思てはるんや?」
天知「知事からおたくらに10億言うことはビデオで流れてました。さて、そこででんな、萩原知事、埋め立て用の建物廃材と掘削残土の料金10億でも安い言うてはりましたなぁ。値上げ言われて15億になったということで、15億国土興産に入金してもらいましょか。国土興産はMOCと田島に5億づつ入金してもらいまひょ。来週中にお願いしますわ。ほんで翌週の月曜昼から弊社の弁護士(本当は弁護士では無く天知の舎弟に変装させるつもりだが)3社各社から5億づつ集金に行かせてもらいます。知事さんは通常の取引、3社さんも通常の取引。帳簿上も問題おまへんやろ。あとは3社さん5億を現金化し、金庫にでも入れてる事にしたら何にも問題ないんちゃいますか?こんなとこでどうでっしゃろ。」
国守「そんなあほな。15億て、払えるわけないや無いか!」
天知「そうでっか。ほならこの話は無かったと言う事で。もう帰ってもらってもよろしいで。戻ってこの動画や登記改竄の証拠が世に出た後の対処を考えはったらよろしい。ほな。」
萩原「ちょっ、ちょっと待ってくれ。こんなん世にでたら私も党もお終いです。党には迷惑かけられん。国守さん、こらしゃーおまへんで。この人の言うとおりにしてください。元はと言えばあんたの悪巧みから
出た事でっしゃろ。」
国守「全部私のせいやって仰るんか!」
小林「そうでっせ。」
田島「国守さん。全部国守さんから始まってます。あんたのせいや!この人に15億渡せば福島開発は何の問題も無く進む。国守さんとこも儲け出ますやろ。ここはこの人の言う通りにしましょ。」
国守「そんな…。」
天知「さあ、国守さんどうしまっか?皆さんこう言ったはりますけど。」
国守「んーーーん。分かりました。しゃーおません。おたくの言う通りにします。再来週の月曜の午後には現金5億用意しておきます。小林さんも田島さんもこれでよろしいんですか。」
小林「しかたありませんな。」
田島「うちも同じです。5億用意しときます。」
国守「ほんでデーターは全部もらえますんやな。」
天知「それはお約束します。国守さんに集金の時揃えてお渡ししますわ。ほな、再来週の昼一お願いします。」
4人とも不貞腐れた顔をしてスイートルームから出て行った。エレベーターの中では誰も無言で減っていく階数表示を睨んでいた。
一条「おやっさん。上手くいきましたな。あの国守の顔思い出すと吹き出しそうですえわ。知事は真っ青な顔色でしたな。」
天知「まあひとまず上手いこと言った。喜ぶのは集金してからや。」
集金当日、前科の無い天知の舎弟3人1組(全員カツラやつけ髭、薄い色の入った眼鏡などで変装をしている)3社に向かった。国守の所へは一条も加わった。一条も弁護士に見えるよう変装をしている。
MOCと田島は経理部長が対応し、ジュラルミンケース各5ケースづつ無言で手渡された。国土興産は国守自ら対応し、しぶしぶ5ケースを社長室で一条らに渡した。一条は映像と登記改竄画像をコピーしたSSDを国守に手渡し「これで取引成立ですな。おめでとうございます。」と皮肉を言い社長室を出て行った。
天知と涼子は事務所で国土興産の社長室に仕掛けられている盗撮動画を見ていた。
涼子「おとん、上手いこと言ったなぁ。」
天知「涼子ちゃん、ほんまや。こんなスムーズにいくとは思わんかったな。西本には舎弟一人亡くしとるし、黒田も近いうちに捕まるやろ。見舞金で2億渡したらなあかん。金田のおじきには残りの半分6億5千万上納して、残った6億5千万がワシらのとこの儲けや。涼子ちゃんのおかげで大きなシノギが出来たし金田のおじきには恩を売れた。おおきに。またええネタ持ってきてや。…見てみ。」と天知がモニターを指差した。国守がSSDをゴルフクラブで叩き壊してる所だった。相変わらずへっぴり越しで鬼の形相で何度も叩きつけている。笑える。
涼子「さあ、トドメといこか。」SSDを持った涼子はそう言い残すと事務所を出てビルの地下にある駐車場に降り、真っ赤なポルシェに乗り込み一際大きく“ゴワン”とエンジン音を鳴らし、南の長堀に向かった。長堀駐車場に車を停め、地上に出ると周防町にある喫茶米国屋に急足で向かった。3時の約束に5分ほど遅れている。米国屋に入ると螺旋階段を登り2階の奥でタバコをふかしながらスポーツ新聞を読んでいる男の前に座った。
涼子「遅れてごめん。あまりにもおもろいもん見てたら出るの遅れてしもた。」
涼子の前に座っているのは、大阪の媒体各社では名の通ったフリージャーナリストの末次匡だ。
ウエイターが水とおしぼりを持ってきて注文を取りに来た。
涼子「ホットお願いします。」
ここのコーヒーは値段はさておき美味しい。たばこOKも魅力のうちだ。ソファもくつろげるしテーブルの間隔が広いので、会話を聞かれる心配が少ない。
末次「涼子さん、おひさですな。おもろいもんて何ですのん?」
涼子「ないしょ。末次さんあいかわらず活躍してはりますなぁ。TVのニュース番組にも出演しはって、賢そうな事ばっかりくっちゃべってますなぁ。」
末次「またまた、からかわんといてください。今政治がぼろぼろでっしゃろ。悪口言うてるだけで儲かりますねん。今はネタに全然困らんほど問題が多いですからなぁ。ほんで、涼子さん何かええネタ持ってきてくれる言ってましたけど何ですのん?」
ウエイターがホットコーヒーを持ってきてくれた。涼子はブラックで一口含み、口の中で転がすように飲み込んだ。『美味しい』。
涼子「これ。」と言ってSSDを末次に渡した。
末次「この中におもろいもんが入ってますんか?」
涼子「まあ見て。後は末次さんに任すわ。圧力に負けんよう世間にさらしてほしいねん。」
末次「まあ、私あんまり欲がおまへんから圧力があっても気にしませんねん。『干せるもんやったら干してみ。』と言う感じのスタンスでやってきてますよってその辺は大丈夫と思っといてください。」
涼子はこういうスタンスの末次だからこそ信頼し、情報を流している。しかし、いくら末次がツッパても公表せんかったり、かなり端折ったりするテレビ局や新聞社もある。
顔が広い末次にとってはそう言うところは少数派で圧力を物ともしない媒体とのパイプを多数持っている。
末次「報酬はいつものように私の取り分の30%でよろしいか?」
涼子「かまへんよ。ただいつものように現金で、領収書無しでたのんます。」
末次「了解です。これ見てまた報告しますわ。」末次はレシートを持って先に出て行った。早く見たいのだろう。涼子はアイコスを一服し、これからどうなるかウキウキした気分を抑えきれず、一人ニヤついてしまった。他の客に見られたら『変な女』と思われると思いすぐに真顔に戻し、もう一服し、コーヒーを飲み干し店を出た。
夜の仕事も年末のかきいれどきで、ここんとこ毎日出勤している。今日は今年最終日やから気合い入れて頑張らなと思いながらミナミの行きつけの美容院により、セットとメイクをしてもらい駐車場に戻り一旦車をマンションの駐車場に入れ、そのまま近くのパスタ専門店で軽く食事をすませタクシーでお店に向かった。着替えのドレスはお店のロッカーに何着か前もって用意している。
涼子が、年が明けのんびり部屋でおもろ無い若手芸人ばかり出ている3時間もあるバラエティ番組を見ていると、急に画面が変わりニュース特番に変わった。チャンネルを変えても、どの局もニュース特番に変わっている。末次が協定を結ばせて、同日同時刻に放映することになっているのだ。
『萩原大阪府知事と大手ゼネコン、国土興産・OMC・田島3社の大阪万博埋め立て産業廃棄物不法投棄の闇』と題した緊急特番ニュースが始まった。1局には末次がジャーナリストとして出演している。どの局も『ご縁』での編集された音声付き映像が流れている。かなり生々しい。そのあとアナウンサーが法務局での登記改竄が時系列で映像と共に解説している。その後に編集された病院・印刷会社の解体工事映像、運搬しているダンプ、埋立地に廃材を投棄している映像が流れる。全局圧力に屈しず放映を決断したのには、あまりにもリアルで生々しい証拠が揃っていたからだろう。アナウンサーや出演しているタレント・ジャーナリスト・元政治家・元官僚などが口飛沫を撒き散らしながら弾劾の言葉を怒鳴り散らしている。おそらく、ネットニュース、週刊誌、ネットTV等もこのニュースを掲載、特番として流しているだろう。
ニュースでは近いうち知事の記者会見が行われるだろうと伝えている。国土興産・OMC・田島各本社前には報道陣が詰めかけている。日本中にこのニュースが駆け回った。
翌日の午後1時から萩原知事の記者会見が開かれた。質問は一切無し、知事は事実を認め、辞任・離党を決断したことを述べ、党は何も関係ないと無意味な言い訳をし、約5分程で退場した。出席していた記者たちの怒号は10分ほど続いたが、結局記者会見の映像は10分程で終わってしまった。萩原知事が所属していた大阪の地盤を強固にもち、国政にもこれから力をつけようとしていた革命党はこの事件のおかげで、大阪府民はもとより、国民の信頼は地に落ち、府議選・市議選とも議席数はほぼ0に近い数になるだろう、国政は無理ではないかとジャーナリストは口を揃えて述べていた。
国土興産の社長国光は身体の不調を訴え入院している。田島の田島社長は社長を辞任し、外資のコンサルタント会社の人間をCEOに迎え、会社組織の一新に邁進していく覚悟ということで幕を引きたがっている。OMCの小林社長も辞任し、副社長の轟が社長となり、あらゆるコネ先にお詫び行脚をし、会社継続に邁進していた。
仕事始めの日に国光・田島・小林に逮捕状が出、刑に服することとなった。
萩原元知事は、収賄・謄本改竄・産廃不法投棄に関係しているという証拠が出ず嫌疑不十分となり無罪となった。萩原は無罪となった事により、再度大阪府知事選挙に出馬するという。
その後、万博埋立に関するニュースは無くなった。病院・印刷会社の産業廃棄物不法投棄はその後どうなったかは世間が知る由もなくうやむやに消えてしまった。
涼子は思う『私ら勝ったのか、結局負けたのか』と。
完
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