主の帰りを待つ異形たち

はらぺこ・けいそ

醜い世界

ここは、王の玉座だ。今ここに座り臣下を指揮する者はいない。かつて、ここに座っていた王は世界の王と呼ばれNPCだけでなくおおくのプレイヤーから尊敬されていた。


廃課金だけでなく、その戦術に誰もが感動した。だが、彼らは消えていった。NPC達はその理由を知らない、だから戦慄した。なぜ帰ってこられないのだと、我々が不甲斐無いばかりに見捨てられたのだと、そうとらえてしまった。


実際には、サービス終了によるものだというのに、しかしNPC達には伝わるわけがなかった。その純白の城に住まう異形たちは待つことを選んだ。何年も何十年も待とうと決めた。


だが、それすら叶わなかった。なぜなら、その城が何もない辺りが沼地と呼ばれるような場所に転移させられていたのだから。ここは何処なのかとNPC達は驚いた、すぐに王の剣であり盾である騎士団があたりの探索へ出ることが決まった。


世界の王と、世界を渡り歩いた彼らでさえ知る場所ではなかった。夜をしばし待つと、知らない星の数々だった。目印のはずの一番星に世界の王が愛した紫色の星さえも見つかることはなかった。


王の臣下は嘆いた、どうして我らがこのようなことになったのですかと、世界を恨んだ。そこで、どこからか生贄を捧げ神に願いを叶えてもらおうと、そんな提案が聞こえてきた。


騎士よりも早く、隠密よりも早く、メイドたちがその声に反応した。それはアリかもしれないと。少しでも可能性があるならその手に乗ってみようじゃないかと、神など信じていないが上位の存在がいることは確認できていると。


上位の存在、彼ら彼女らがいうソレはゲームの製作陣営であって神ほど万能な存在ではないということを知らない。


それでも、信じたかった自分たちを愛してくれた主の帰りを待とたかった。迎えに行きたかった。臣下である故、主を待つものだと思っていた。でも耐えられなかった、だから、迎えに行きます、そういって行動に移し始めた異形たちであった。


手始めに、村一つ滅ぼそうと言い出した。今の彼らにはストッパーがいない王がたしなめ止めていたが今の彼らは暴走列車のそれだ。善良な人間に手を出すことにためらいを抱かない。騎士も隠密もメイドでさえ王を護るべく強いだから、早かった。村など最初からなかったかのように皿知恵と一晩で変わっていた。それに気が付くのはしばらく後のことだ。


臣下はそれを生贄にささげた、特殊な魔方陣を用いたやり方だ。しかし反応は皆無だった。プレイヤーの存在しない今、生贄を使いその効果をプレイヤーに与える儀式系の魔法は無効化される。だから、意味もない、だが臣下は違った生贄が足りないのだと考えた。次の日は違う村を滅ぼそうと考えた。



翌日、夜に村を襲うことになった。そこにためらいなどなかった、あるのは王の帰りを待ち望む臣下の希望の心だけだ。


夜になった、村を滅ぼすのは早く悲鳴すら聞こえない。生贄にささげる死体をまた魔方陣に乗せた。反応はない、否、、反応することなどないのだ。だが気づかない気づくことはない臣下である彼らは盲目となっていた。王の帰りさえ、あの方さえいればと、次の村を襲うのだった。



そのころ、ほかの村や都市で村が消えていることが広まりつつあった。しかし、消えた村がどうなっているのか知る者はいない。



つぎは、都市を滅ぼそうと動き行動を始めた。いつまで続くのだろうか、生贄が足りないと動く臣下の歩みは止まるのだろうか。都市を滅ぼすのは直ぐにけりが付きそうだ。なぜって、我らが騎士団長が動くのだから、彼もまた王の帰りを待つ一人なのだから。道を外すことを許してほしい、そんなことは言わず堕ちるところまで堕ちようと一人部屋で、お酒を飲むのだった。普段は飲まないいいお酒を飲み覚悟を決めた、婿の民を殺し贄にすることを決めた騎士団長がそこにいた。


都市一つだ、何も難しいことじゃない、そうつぶやいた騎士団長は動いた。一人で都市を壊滅させるため歩き始めた。都市の町並みは騎士団長の知る都市とは違い発展していた。我々風に言うと現代的と表現できるだろう、しかし大きな城壁があり何かから守るためのものに見えた。騎士団長が都市に入ろうとすると腰に銃をこさえた兵士がとまれと銃を構えた、しかしそんなこと知らず前に進むフルプレートの黒騎士。止まらない騎士団長についに引き金を引いた兵士、そこには血濡れた騎士団長はいなかった。


なぜって?彼らは飛び道具向こうの装備を付けているから、王の配下はメイドでさえ最高品質の装備を持つ。そして今始まったのだ現代VS異世界の異様な戦争が始まった。


銃が聞かなかったと気づいた兵士は銃を撃ち続けた。そんなものが効くことはなかった。鬱陶しい銃声に嫌気がさしそのこぶしで兵士二人の胸を貫いた。銃声に気が付いた兵士たちが次々と出てきた、しかし銃など効かない騎士団長は銃を気にせず兵士を殺しつくした。それに時間など大してかかっていないだろう、おびえだす住民もいただろう、しかし騎士団長の前には無意味だった。スキルを使用した、異世界出身の彼らに備わっている超能力のような力だ。騎士団長は天変地異を起こした。地震を起こし地面を隆起させ火災を起こした。


助は来ないだろう、都市一つ一つが離れているこの世界じゃ助が来るまで時間を要する。移動手段はあれどむやみに動けない、なぜあの都市だけが地震に見舞われているのか、専門家たちでさえわからなかった。


その日、都市がなかったかのように更地となった。文字通りに何もない平野となったのだ。この日を境にこの世界の原住民たちは異世界よりの来訪者を異形と呼び恐れた、なんせ銃が効かないのだから。更地となった都市からは死体すらもなくなっていた。もちろん生贄にするため騎士団長が持って帰ったからだ。


生贄は、儀式に使われ消えていった。まだ足りなかった、もう嘆きはしない何故って生贄はまだまだいるのだから。王が望まぬとも臣下が望んでしまった、歪んだ愛がこの喜劇を生んでしまった。しかし止められるものは、もういない。だから、臣下は進んだのだ次の年を更地にするべく。



一方で、原住民は対応に困っていた。現代兵器ともいえる銃を使っても死なない鎧にかすり傷すらつかないのだ、どうすることもできない、そうだ、原住民にはどうしようもできないのが現状だった。



騎士団長は、いくつもの都市を滅ぼした。この業は自分だけで背負おうとした、そんなこと騎士たちは看過できなかった王のために自分が納得するために、また彼らも剣をスキルを使用するのだった。


そして眠りから覚めた、悪魔たち。王の直属の部隊で彼ら悪魔への命令権は騎士団長にすらない。悪魔たちは激怒した、使えるべき主の行方が分からず暴れた。味方同士の喧嘩はご法度だ。だから悪魔は外の世界で暴れた、原住民の悩みがその日また一つ増えた。近いうちに知ることになるだろう、悪魔と騎士の目的は同じであることを狂った悪魔と騎士は身内であることを。



世界はまだ知らないだけだ、この物語の終焉は近く儚いものになるということを。



とある人間が世界を一つ覗いていた、覗いている世界は混沌としていた原住民は殺され、異界より現れた悪魔と騎士は原住民の屍を儀式に使い慕っていた王の償還を試みた。何度も失敗をした、成功するわけがないことを人間は知っていた。


なぜって、世界の王こそがこの人間なのだから。



人間とは、醜く、自らが大切にしたものさえ壊してしまう。



オワリ



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

主の帰りを待つ異形たち はらぺこ・けいそ @keito0390

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ