第2話 スキル持ち、散る
「この先が……《機鋼の迷宮》か……」
一行のリーダー、カイン=ドレスタンは眼前の黒鉄のゲートを見上げてつぶやいた。背には
彼の後ろには、精霊術士の少女ミレイと、盾役の戦士グラントが控えている。三人とも幾多のダンジョンを踏破してきた実力者だった。
「今回の報酬は破格。迷宮の中枢に眠る《遺産》を回収できれば、王国から勲章も夢じゃない」
カインは歯を見せて笑った。
だが、ミレイは眉をひそめる。「……この迷宮、魔力が……薄い。まるで空気が死んでるみたい」
「ビビってんのか? 魔法が効かないなら、剣で押し通せばいいだけさ」
グラントの軽口が空気を和らげたが、実際に一歩足を踏み入れた瞬間、三人は異変に気づくことになる。
天井に設置された無数の赤いセンサーが一斉に点灯。警告音とともに、床が滑らかに動き出し、三人を強制的に分断するトラップが作動した。
「しま――!」
カインの言葉が終わる前に、彼の前に“それ”は現れた。
脚部にキャタピラを備え、両腕にプラズマカッターと多連装ガトリングを装備した殺戮兵器――《カタプレファクター・β型》。全長二メートル超、ドーム状の頭部に設置された単眼カメラが、赤く光っていた。
「ターゲット・ロック完了。排除行動を開始します」
機械音声の直後、火線が走った。カインは瞬時にスキルを発動、《獣神化》によって加速し、弾幕を回避する。
「ハッ……やるじゃねぇか!」
背後からの火力を回避しつつ、魔剣を振り下ろす――が、斬撃は鋼の外装に阻まれ、火花を散らしただけだった。
「クソッ、どんな硬度してやがる!」
一方、ミレイは別室で透明な拘束フィールドに閉じ込められ、魔法を中和するナノ粒子の散布を受けていた。どんな詠唱も、空に消える。
「……これが“魔法殺し”のダンジョン……?」
そして、盾役のグラントは、無人の回廊を進んだ先で、高速で飛来する金属球――徹甲弾により即死した。
脳天を撃ち抜かれ、首から上が消えた。
操作室にいるアリシアは、まるで実験を眺める科学者のようにモニターを注視していた。
「獣神化……身体能力は高いけど、動きにパターンがある。次は誘導型EMPを使いましょう。魔法依存の子は、すでに無力化済み」
球体ドローンが応える。「確認:反撃不可能。対象の排除確率、97%」
「97じゃダメ。100にしなさい。私の迷宮では、“死に損ない”は出さないの」
彼女の声に、一切の情がなかった。
探索者は、英雄ではない。
彼女にとっては――ただのデータ。
科学の糧にすぎない。
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