12話 もう違う

「君達も来たのか」


「別件のSランクダンジョンをぱぱっと終わらせて来たよ」


サラは空を飛びながら六角錐の虹の槍で骸骨を串刺しにしていく。


「ケイラがうるさいから仕方なく行った、お前らこんな雑魚に何てこずってんの」


こいつはまた人をコケにして。


「ごめんて久々のダンジョンで体がなまってただけさ、もうウォーミングアップは済んだし」


ピカキンが初めて真剣な顔をする、鎧の真ん中の蓋を開けると光が飛び出し剣と身体中を包んだ。


「せっこ」


「ひどいなこれ制御大変なんだよ?」


「おーい!誰か助け


骸骨に囲まれた男が尻もちを付き後ずさり、武器を振り下ろされようとした瞬間、周りの骸骨が全て金粉となって砕け散った。


「中ボスは間合いが長すぎて当たらなかったか」


するとマミーは鎖を掴みピカキンに飛びかかる、雑魚がやられて明らかに挙動が変わった。


「じゃ、後は任せたよ諸藤くん、雑魚は僕達が倒すから」


カイはそう言うとピカキンと共に後ろへ飛び祭壇に立つ。


「え!なんで俺!?」


俺は他のダイバーの近くにいたもので当然Aランクダイバーは一目散に逃げカメラだけは俺の周りに飛ばして撮影だけはきっちりやりやがる、マミーが鎖をしならせると、鉄球を豪速球で俺に飛び込んだ。


「諸藤くん」


エレナは篭手を出すが俺は制した、柄を両手に刀身を燃やし片膝を上げる、後はタイミング通り剣を振るうのみ。


「おいおい嘘だろ」


“すげえ”


“ホームランだ”


「へへっ俺がただ粉微塵になって吹っ飛ぶと思ってたか!?」


俺に触れる瞬間であの紫色にしておけば良かったのに甘く見ていたな、遠くへ飛ばされた鉄球を戻そうとする前に腕を炎で燃やし武器を落とす。


マミーは両手を紫色に光らせがむしゃらに腕を振るう、切られた腕が断面なら伸びあんなに燃やした腕が焼け爛れているにしても素早く動いている、再生能力というのは厄介だ、それは俺らダイバーも同じだが。


「おら!くたばりやがれ!」


俺は股の間を滑り抜け頭まで真っ二つに切り裂いた。


“こいつランカーか?”


“いいや、確かAランクだったはず”


“コノヤロウは諸藤 武雄って変な名前のダイバーだ”


“へえ、登録してみよ”


「クソ、まだいんのかよ」


斧、ハンマー、杖、周りに群がる無数の骸骨、置物の様に立つのみでどんな能力かも分からない。


「この数は僕のスキルじゃ倒しきれないかもな、プリズムブレイクはもう少し頑張れそう?」


「当然」


ツルギは一言だけ残しいつもと同じく斬りかかりに行った。


斧を下へ振り上げると氷の山が直線上に飛び出すが飛び越え、杖を上に掲げると氷の一部が粉砕されるが氷の破片と風の刃を全て避ける、彼女は必ず敵の背にいる時にはその敵は細切れになっているのだ。


「相変わらずすげーなおま「ツルギちゃん危ない!」


四角い物体がツルギの体を乗せ空を切った、小さな体は鞭を打つような音とともに凄まじい速度で壁へ激突し大きな穴をぶち開けた。


「またかよ」


レンガでの事を思い出す、そんな暇も無くハンマーが再び振り回され俺の方へ飛んで来る。


「あ?」


体を仰け反らせ避けた時、更に強い風が深い殺意と共に俺のシャツがたなびかせた。


「避けろサ


サラに真っ黒な歪んだ三角形の刃が飛び込む、俺は咄嗟に彼女の肩を押し退ける。


「がっ」


腹に突き刺さる鎌、サラが槍を俺をぶっ刺した張本人に飛ばしそうとも黒いマントを翻し躱されてしまう。


ようやく鎌から振り離され壁に叩きつけられる、腹に異物感が感じ吐き気を抑えながらサラの方へ這いずる。


こいつ、マミーじゃなくて死神なのか?だがあの黒い布に覆われている、だが腹の部分は相変わらずあばら骨が剥き出している。


サラは空を飛び変わらず槍を飛ばし続けるが当たらない、それどころか槍が死神を避けている、加えて少しでも隙を見せればハンマーの攻撃が飛び出す、撃ち落とされオシャカになるのは時間の問題だ。


「大丈夫かい?」


鎖が飛び出し俺の腹を巻いて宙へ投げ出されると同時に片腕が少し伸びていたカイも上へ舞う、腹に加圧されたのでついでに止血もされた。


「ありがとう」


「いえいえ、再生が終わるまでそこにいて下さい」


遠くからピカキンとサラが敵にビームを撃ちまくってる様子を俺はカメラを飛ばしながらみる、傷はもうすぐで塞がりそうだ。


「全然当たんないよ」


その時虫2匹が並行しマミーの元に飛び、間に光る糸のようなものが形成されたと同時に通過する。


「ホタルちゃんナイス!」


ハンマーのマミーが真っ二つになり倒れると黒い布が解れ、死神の方に飛んで行く。


「後はこいつだけか」


布は死神の胸に張り付いて巻かれていく、やはり中ボスが倒されればそいつの能力が継承か返却か分からんがボスに与えられるようだ。


「あと一匹なら俺達も攻撃しようぜ!」


別フロアに隠れていたBランク達が顔を出し武器を向ける。


死神の周りに紫色のドームが展開し全ての攻撃がかき消える、ドーム越しに奴の背中から布が4本伸びているのが見える。


「馬鹿!隠れ


ドームが消えた瞬間、叫ぶ俺の言葉も間に合わず炎氷風雷無数の魔法が飛び出し大勢の体が弾け飛んだ、正直言って今何が起きたのか分からなかった、気付けばバラバラ死体が転がっている、全ての魔法の質量が重すぎる故だろう。


「ちっくしょう……」


自分もあれのようになるかもしれない、突きつけられる恐怖心、レンガに居た頃なんて生ぬるかったのが実感させられる。


「おー、これはLクラスに片足突っ込んでるね」


「Lでも精々3つくらいしかスキル持ちは居ないからL+くらいかなー、ん?どうしたの諸藤くん」


ピカキンとカイは魔法の雨を避け剣撃とチェーンを死神にぶつけながら涼しげな顔で話す、人が死んでるのに余裕すぎるだろこいつら。


地面から骸骨の手が飛び出し現れる、だが地面は一切の傷が付いておらずまるで死神の挙動を合図にプログラムされたモーションが行われただけのよう。


「アイツやべえ!」「俺らじゃ歯が立たねえぞ!」


BランクどころかAランクダイバーが全員顔に苦悶の表情を浮かべ雑魚を攻撃で散らしながらやっとこさ退避する、サラですら雑魚を倒す事しか出来ていない、なんせその雑魚も今までの魔法と武器を持ってる奴がうじゃうじゃ現れるからな。


“おい!ボスが逃げてるぞ!”


“魔力切れか?”


ふと画面を見た時、ひとつのコメントに目が止まる。


「本当だナイス、追いかけるぞ!」


俺が飛び出した瞬間、ピカキンが既に死神の前に居て剣を振り抜いた体制で立っていた。


「君の敗因はただ1つ、スキルが多いだけで弱すぎた」


すると死神の両足がちぎれ鎌を落とす。


「あれが弱すぎるって」


「さっ帰るか、あとはSランクでよろしく、諸藤くんこれならTシャツ代になるでしょ」


は?あとよろしくって、倒してねえのかよ!どっか行きやがったし。


「おいあいつら!戦利品がしょっぱいのが分かった途端いつもそれじゃねえか!」


「まじかよお前ら逃げろ!」


“逃げなきゃ死ぬぞww”


Aランク達がキレ散らかしBランクはそそくさに退避する。


「一つだけ、僕の攻撃は再生を阻害するだけで両足が治りきったらみんなしんじゃうよ」


「しぬ?」


耳打ちが聴こえた、彼が言ったことに理解出来ぬまま振り返った時にはピカキンとカイはそこに居なかった。


死神が体を起こす、2本の布を突っ張らせ震える腕をゆっくりと上げ指を差した、俺に向けて。


「オ、オマエラヲ、コロシテヤル」


死神の言葉に背筋が凍り付く、これまで感じていたアレの能力に知性、それが備わっている事を確信する事で力だけで支離滅裂な物しか言わなかった奴らとは違うベクトルの恐怖がどっと襲う、アレをここで倒さなければ国が滅びるんだ、キスカもサラも殺されてしまう。


これまで配信を見過ぎたせいでモンスター達は強者として生まれたダイバーという存在にただ殺される玩具としてすら見ていた、ピカキンの言っていたそのたかがSランクですらそれどころかFランクでもこの世界の人々を蹂躙させる素質がある、それを知ってしまった今までの考えからは、もう違う。

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