7話 死ぬときゃ誰だって死ぬよ

エレナ・シュトーレン


スキル適正 S


身体強化 S

肉体再生 B

斬撃耐性 C

打撃耐性 S


「ほう、強いな武器は篭手で飛んで殴る感じ?」


「それもあるけど波動を出したりして敵を吹き飛ばしたりも出来るよ」


なるほど、あれだけの跳躍が出来たのはただ地面殴っただけでなく波動を出したのか。


「おお、それじゃあダンジョンに行くか、ほら一緒にジャンプして」


「え、え?」はいせーのっ」


――


形は20m近くのピラミッドだ、発生場所の森に生えている木々とは違う黄緑色、ダンジョンとは何処もUnityで現実へ適当に置いたオブジェクトみたいに異様だな、それが実際に人へ危害を加えるものだから不気味にすら思えてくる、この世界に作者が居るのなら俺達の痛みや苦しみまで考えることすらはなからせず、それどころかただ単純に傍観しながら楽しんでいるのだろうな。


東西南北に縦横3m程の四角い扉がある、扉は軍が拵えたもので元々あった穴から中のモンスターが出てこない様に塞いだのだろう、警備の兵士がいるのがその証拠だ。


「あんたらダイバーだな、スペックを確認させてもらうぞ」


あなたのブレインデバイスの操作を許可しますか?


はい いいえ


そんなのが目の前に現れたのではいを押す、キスカが鶏を保護した時にもやったから分かる、その時は「スペックみせて」ってめちゃくちゃ軽く言われたが。


「…………よし、いいぞ」


兵士は暫く画面を見ると振り向き、扉のロックを解除した。


今回のダンジョンはBランクだが、攻略に難航しているようだ、でも俺達Aランクが2人来れば余裕だろう。


「ねえ、何でまたジャンプしたの?」


「後で編集すんだよ、ここは攻略期限を過ぎてるから報酬ウハウハだぞ!さあ行こう」


――


「なんか目が回るな」


中は大きなトンネルの様に丸い通路が続いている、所々トンネル同士が重なって枝分かれしているようでドーナツ型の通路が幾つも連なっているのが主の構造なのだろう。


「居た」


「キキキキ………」


何か声が聞こえる、トンネルの向こうに。


恐る恐る見てみると、何人か倒れていて、その上に確かに何かがいた。


「助け……」


誰かのか細い声が途切れた、倒れた人の上に緑色の小さな人間が胸に座り、手に持ったナイフで顔や首を何度も刺していた。


グロい、だが嫌な事に慣れてしまっている。


「グアー!!!グアー!!ブッティ!ブッティ!!」


それはゴブリンの様に見えていたが振り返った瞬間度肝を抜かれた、ナメクジの様な長い2本の触覚を振り回し粘液を垂らしながら4つの口を勢いよく開き、意味不明な事を叫びながら俺に飛びかかった。


俺は柄を握り赤い刃が飛び出した、ゴブリンは腹を貫かれると体が焼かれ死んだ、この新しい剣はただの刃ではなく俺のスキルに依存して強くなる剣だ。


「シャアアアア!!シャアアアア!!!」


遠くから無数のゴブリンが現れ雪崩込む。


「まだいるのか」


エレナが篭手で殴り潰し波動で吹き飛ばす、反対側は俺は炎の剣で燃える壁を作り出す、それでも焼かれようとも刃を突きつけようとされ撃ち落とし切り倒すのが間に合わず突破されてしまいそうだ。


「こっちは持たないよ!」


エレナの波動もゴブリン同士が腕と腕足と足で組み合うようにして押し込もうとしている、表面はネットの様にしてその中に押し込んでイワシ漁みてえな構造にしてそのまま押し潰そうとしてやがるのか。


「やばい」


網の役割をしていたゴブリンの腕と足が引きちぎれる、何がやばいって前回のヤンキー達と違ってコイツらは互いに絆があり結託する、そして敵を殺す為なら己の犠牲も厭わない、モンスターが人間より恐ろしいのはこういった所なのか。


「帰還の羽使うか?」


「大丈夫」


最悪の場合を備えてダンジョンの入口に戻れる羽がある、俺はそいつを握りながらまだ足掻く。


「そんな事言ってられないだろおおお!」


ゴブリンの塊が俺達を押し潰そうとした瞬間、後ろから三角形の光る矢が飛び込みゴブリンの頭を一気に貫いた、続けざまに動かなくなったゴブリンの表面が凍って地面に叩きつけられると真っ赤な氷塊となり飛び散った。


「おい!大丈夫か!?」


三角の青い棒を持つ丸刈りの男と、フェドラハットを被った白髪の男が現れる。


「ありがとう、助かったよ」


「君達が噂のAランクだね、あっ君!エレナちゃんだよね!復活したの!?」


フェドラハットは興奮した様子で驚いている、最初見た時はちょっとカッコイイと思ったのに今はなんかキモイな。


「えっ!そうです、今この人のチャンネルで活動してます」


「ほ〜、おいお前!もしエレナちゃんに何かしたらタダじゃ済まさねえからな?」


そうどやしながら俺の額に人差し指を突き付ける、お前の方がよっぽど何かしそうだろ!


「いやこいつとはそういう関係じゃねえから!ただのパーティーメンバーってだけだから!」


「へえ、そうなんだ…」


エレナ?何でしゅんとしてる訳!?


「まあとにかく俺は武雄なよろしく」


「俺はジャック・トライアングルだ」


丸刈りの男が右手を出し握手を交わす。


「ふん、俺はフェルマータ・フロスティアだ……フェルって呼んで」


男のツンデレに需要など無い。


――


「君達あの数を抑えたのは凄いね、俺なんてCランクだよ、フェルはBランクだけど」


それでも一般人レベルのFランクに比べたらかなりの化け物なのだ、道中軽々と敵を倒して回ってるし。


「ここの近くにスポーンポイントがあるんだと思う、またスポーンする前に取らないとさっきの波が押し寄せてくるぞ」


どうやらモンスターごとにコストなるものが存在するらしく、レンガでのドラゴンは強かったのか産まれるまでに時間がかかった為ボスにまで行き着く事が出来たが今回はそうはいかない、先にスポーンコアを叩かないとボスに辿り着く前に大量のゴブリン共にジリ貧でやられる。


それにあの時はサラと特にツルギがバッサバッサ倒してくれたが今は居ない、俺とエレナがあの2人の様にならなければならないんだ。


「道が変わったぞ」


今まで曲がり角だけだったのに直線の道がある。


「見つけたぞ!」


奥の地面に三角柱の緑に光る石が埋まっていた、モンスターはいない。


「行け!早く取れ!」


エレナがいの一番に石へ走り掴み、波動で地面を叩き割り抜き出した。


「やったぞエレナ、お手柄だな」


「えへへ」


「かわいい「モンスターだぁ!!!」


ジャックは叫び矢を飛ばす、フェルはトンネル中に氷の棘を生やしゴブリンを突き刺す、突き刺さった肉を掴み更に進撃を進める。


「スポーン位置を調整しやがったのか」


俺が剣から炎を出し棘を溶かして落下させた隙に剣を突き刺す、エレナも石をリュックに詰めて波動を飛ばした。


「今の内に通路に出て!」


全員飛び出そうとした、他のゴブリンよりも2回り以上は大きな奴が現れた、ここに来てボスか、待ち伏せをしていやがったのかよ。


「ぁ


歩みを止めた瞬間、そいつは口を大きく開け何かを撒き散らした、フェルが氷を出しそれを受け止めた、が


「ああああああああああ!!!!」


氷は急速に溶かされ漏れ出た液体がジャックに掛かると同時に痛烈の声を上げる、顔が煙に巻かれたちまち叫びを上げ無くなり、倒れてしまった。


「嘘だろおい!ジャック!」


俺はボスの腕を切り落とす。


「ヒエエエエアアアアアアイイイイェィィィイマアアアアアア!!!!!!!!!」


「今の内に出るぞ!」


全員通路に出ようとした瞬間、ゴブリンの波が押し寄せた。


「きゃ


エレナが呑まれてしまった、助けに行こうにも無理だ。


「エレナ!エレナァ!クソックソオオオオオオ!!!」


ボスは顔の溶けた亡骸の前に立つと、傍らに落ちた武器を手に取って、口を震わせ雄叫びを上げた、他のゴブリン達もそれに合わせ不気味な声で満たされた。


――


「お前にとってあの2人はどんな奴らだったんだ」


エレナに合流するために走りながら俺は聞く。


「あいつとは酒場で会った、同じスキル革命戦争の難民として仲良くなったんだ、エレナは離れた妹に似ていたから好きになっただけだ」


「ちょっと待て、戦争があったのか?」


「なんだ?知らねえのかよ」


「俺、異世界人なんだ」


「はぁ?」


その瞬間ボスゴブリンが転がりながら飛び出しあるものを向けた、それはジャックが持っていた物だった。


「てめえ!返しやがれ!」


「ヒヒヒヒヒヒ」


現れたのはぐったりとしたエレナを掴んだあのボスだったのだ、しかもこいつ腕が戻ってやがる。


死ぬときゃ誰だって死ぬよ、この時ツルギの言葉が脳に過ぎった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る