第20話 その頃、自宅では——

——俺の部屋。夕方。


布団に寝転がりながら天井を見上げる。

カップ麺の空き容器と積みっぱなしのゲーム雑誌。

だらけた空気の中、頭の奥だけが妙に冴えていた。


(10分。もう間違いない。感情が残ってる)


---


命令中に見せる表情、終わったあとの指先の動き、沈黙。

あれはただ従ってるだけじゃない。

スキルの外側にある“何か”が引っかかってる。


(じゃあ、もし……このまま使い続けたら?)


---


「……誰かの気持ちを壊すことになるかもしれないな」


自分でも驚くくらい、静かな声だった。

独り言のつもりだった——のに。


---


「そう思ってるなら、私でよかったら相談に乗るよ」


---


声がした。

カーテンの向こう。ベランダの隙間から。


俺は反射的に体を起こして、振り返る。


窓の外には、制服姿の少女が立っていた。


無表情。

でもその声はどこか優しかった。


---


「……桐島?」


「うん。鍵、開いてたから」


窓をそっと開けて彼女は何も言わず部屋へ入ってくる。


そのまま壁にもたれかかり、目だけで俺を見る。


---


俺は何も言えなかった。

何も問い返せなかった。


桐島 陽乃はしばらく黙っていたあと、

少しだけ視線を逸らすように言った。


---


「誰かに話すって、大事だよ。

 ……それが言葉にならなくても、

 誰かが聞いてくれてるだけで、楽になることもある」


---


俺はゆっくりと頷いた。

ありがとうも、ごめんも出てこなかった。


でも桐島はそれで満足したように、

ベランダへ戻る準備を始めた。


---


「じゃあ、またね。……無理しないで」


その背中に俺は何も言えなかった。

ただ、静かに見送った。


---


——音もなく、日が暮れていく部屋の中。

俺は初めて、“誰かに話す”という選択肢を考えた気がする。

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