第16話 閉じた部室、その中で——

昼休み。

俺は旧校舎側の2階にある文化部エリアに足を運んでいた。


文芸部、美術部、将棋部。

活動している部はどれも静かで他との交流もほとんどない。

部室前の廊下にすら、人の気配は薄い。


今日の検証対象はそのうちのひとつ——文芸部。


---


扉が半開きの部室の中を覗くと、一人の女子生徒が机に向かってノートに何かを書いていた。


知り合いではない。たぶん二年。

丸眼鏡と地味なセーター。下を向いたまま、こちらには気づいていない。


(ちょうどいい)


「……少しつき合ってもらっていい?」


【対象:文芸部女子】

【支配開始】

【残り時間:10分00秒】


彼女は何の抵抗もなく立ち上がり、こちらを見つめた。


---


「まず俺の方へ歩いてきて。三歩くらいでいい」


コツ、コツ、コツ。


短い足音と共に、女子生徒が歩み寄る。


「椅子に座ったままスカートの裾を整えて。指先をそろえて膝の上に置いて」


すぐに実行される。

その動作には儀式のような静けさがあった。


---


「机の引き出しを開けて、中に入ってる本を一冊取ってみて」


彼女は文芸誌のような冊子を手に取る。


「その本を自分の胸に軽く押し当てて。“これが好き”って言ってみて」


「……これが、好き」


無感情な声。

でも表情は確かに“微笑”の形をしていた。


---


「俺のこと、どう思ってるか言って」


「……どんな命令でも、従いたくなる。少しだけ……気持ちよくなるから」


(……感覚、入ってきてる?)


命令の精度と深さが“反応”を引き出し始めている。


---


「制服のリボンを自分でほどいて。ゆっくり」


彼女の指が静かにリボンをつまみ、ほどく。

胸元がわずかに緩む。


「じゃあ……自分の性癖をひとつ、口にして」


少しの沈黙。


「……誰かの命令で、体を動かすのが好き。

 自分の意志じゃないのに、感じてるのがいちばん……好き」


(……命令下で性癖を“吐かせる”。しかも、それが内容と一致している)


支配は行動だけじゃない。

内側までも、引き出している。


---


【残り時間:00分04秒】


「戻れ」


【支配終了】


ぱちっと目を瞬かせた彼女は、自分の制服の乱れに気づいて、慌ててリボンを直し始めた。


「……え? なんで……?」


周囲を見回し、ノートに視線を落とし、もう一度きょとんとする。


「……変な夢でも見てたかな……」


(性癖は話した。記憶は曖昧。だが、羞恥の気配は——ある)


支配の深度が、静かに広がっている。

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