【PV 115 回】君と数式でつながる世界 ― AIと青春の20の物語
Algo Lighter アルゴライター
プロローグ「君と、数式でつながる世界で」
春の風が校舎の角を撫でていく。窓際の桜が花びらをはらりとこぼすたび、空気がほんの少しだけ、やわらかく震える。花びらは重力に引かれるようでいて、まるで風の指示に従って舞っているかのように、くるくると宙を描いていた。
「この落ち方、黄金比に近くない?」
スケッチブックにシャーペンを走らせながら、瑞希がぽつりとつぶやいた。
隣の席の陽斗は、少し首をかしげて花びらを見た。最初は冗談だと思ったけれど、彼女の目は本気だった。線を引く手が、まるでその舞を“記録”するかのように静かに動いていた。
春。それは、なにかが始まり、なにかが終わる季節。
そして――風陽高校では、今年から「アルキメ・ネット」が導入された。
生徒一人ひとりに連携されたAI学習アシスタント。各教科のAIたちは異なる名前と性格を持ち、スマホやタブレット、時には黒板やスピーカーの奥から現れて、彼らの問いに答える。まるで、もう一人の“見えない先生”がいるみたいに。
瑞希に割り当てられたのは、視覚的思考に特化したAI『アルファ』。
「ねえ瑞希。さっきの花びら、螺旋軌道の中でも“ロジスピラル”に近いよ。自然界に多い形で、黄金比φ=1.618...が関係してる」
青い光のラインが、瑞希のタブレットに映し出された。
「……うわ、また勝手に出てきた。でもありがと。ちょうど描いてた。」
瑞希はそう言って、タブレットに視線を戻す。落ちた花びらのひとつを線で囲み、黄金比の比率で構図を整える。
一方、陽斗はと言えば、花びらには関心がないふりをしてスマホを開いていた。
「おい、俺のAI……なんか、数学とか教えてくれていいから。できれば“あいつが今何考えてるか”の確率も出してくれよ」
ディスプレイに現れたのは、関数モジュールのAI『ミネルヴァ』。
「碧さんが今朝、校門前で陽斗さんを見た瞬間、視線の揺れが0.3秒。顔の向きに対する角度は3.4度内側へ。好意の微弱な兆候とみなすなら、現在の関心確率は38.2%。ただし観測回数が不十分です」
「うわ、数字で返すな……」
陽斗は笑いながらスマホを伏せた。
彼らの高校生活は、ちょっと変わっていた。
だけど、それは“特別な誰か”だけの物語じゃない。
ある日は、数学が絵になる。ある日は、数式が感情の形をしている。
誰かの気持ちを知る方法が、確率や分布という名で説明される。
この世界では、数学はもう「正解を出すためのもの」じゃない。
世界の見え方を変えてくれる、もうひとつの“言葉”だった。
πが導く走り方。
確率が描くめぐり逢い。
フラクタルが伝える、目に見えない美しさ。
そう、数式は無機質な記号なんかじゃない。
君が君を理解するための、物語のもうひとつのカタチだ。
そして、AIたちはそれをそっと照らしてくれる灯火のような存在。
これは、そんなAIと、ティーンエージャーたちの20の記録。数式でつづられる、かけがえのない“青春の式”の物語。
さあ、数式で、君の心をほどいてみよう。
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