第11話 約束
「
『そ、そうね・・・さっきは待たせちゃったし、ごめんなさい。』
上のほうから光が射し込んで、水草が優しく揺れる。湖のあちこちを泳ぎ回った後だと、ますます居心地が良く思える場所へ、私達は戻ってきたけれど・・・
・・・まあ、水空さんの力を借りた時の青空を、少し感じていたらしい、
「ううん、気にしないで。色々あったけど楽しかったし、水潤にお姉さんのことが伝わって、本当に良かったよ。」
『あ、ありがとう、イズミ・・・』
水潤が、繋いだままの私の手を、ぎゅっと強く握ってきて、そのまま会話が止まってしまう・・・何か、言ったほうがいいかな。
「そうだ、水潤。人間は、お家・・・自分の場所に戻ってきた時、ただいまって言うんだよ。」
『た、ただいま・・・・・・? そうだ、イズミも、陸に戻らないといけないよね。』
その言葉は、水潤が私をここに喚び出した目的は、ひとまず果たされていることも、思い出させてしまったようだ。
「ねえ、ここにいる私は、精神の半分くらいだったよね。それなら、水潤ともっと一緒にいてもいいよ。」
『えっ・・・! う、嬉しいけど、ずっといるのは、きっと良くないわ・・・陸にいたイズミは、ちょっとふらふらしてたから。』
「そう・・・じゃあ、またここに来るから、いつでも喚んでね。それから・・・・・・・」
私が帰る話にならなくても、水潤が落ち着いたところで、ちゃんと聞いておきたいと思ったことを、切り出す。
「水空さんと私のおばあちゃんが、旅をしていたところ、水潤は行ってみたい?
もしかしたら、お姉さんのことをもっと思い出せる・・・今よりもお話できるようになる、手がかりがあるかも。」
『・・・っ! 行きたい! ・・・ううん、やっぱりだめよ。私は水が無いと、消えちゃうと思うし、だからお姉ちゃんも、陸には連れていってくれなかったの。』
大きな声を出した水潤が、その後すぐに、下を向いてしまう。私が借りた力と、流れ込んできた思い出みたいなものからすると、水空さんは『空』とも相性が良いから、人の飲み水くらいの水があれば、陸でも平気だったんだろうな・・・
だけど、その辺りのことは、何も考えずに言っているわけじゃないよ。
「普通なら、そうなんだろうけど・・・今、私が住んでいる里に、すごい水魔法士さんが来てるんだ。
実は私も、水魔法の才能があるって言われたし・・・その人に教わって、たくさん勉強すれば、水潤を湖の外に連れていけるかも!」
『えっ・・・! ほ、本当? 私も、一緒に行けるの?』
「うん。すぐにとは言えないけど、出来るように頑張るから。あっ、本当に外に出る前には、練習も必要だから、たくさん会いに来るよ。」
『嬉しい! イズミ、私はずっと待ってるから、いつか陸に連れていって!』
水潤が声を上げて、私に飛び付き、全身をぎゅっと押し付けてくる。それを感じていると、とても愛おしくて、ずっとこうしていたい気持ちになった。
『それじゃあ、イズミを陸に還すわ。本当は、もっと一緒にいたいけど・・・』
湖の底から見える空には、日が暮れかけた時の色が、交ざってきたように思える。水魔法の勉強をするお話は、早めにしたほうが良いし、私の体が元気を無くして、病気になったりしていないかも、本当は少しだけ心配だ。
それでも、湖の中をたくさん一緒に泳ぎ回って、これからしばらくの間、離れなきゃいけないのは、やっぱり淋しいよね。だから・・・・・・
「ねえ、水潤。人間には、とても大切な人同士でする、特別なことがあるんだ。私が必ず、ここに戻ってくる約束として、それをしない?」
『うん! するわ!』
「じゃあ、少しだけ、じっとしててね。」
私よりもちょっと背の低い、水潤の身体を抱きしめて、すぐ傍に顔を寄せ・・・お互いどきどきした気持ちなのを感じながら、そっと唇を重ねた。
『・・・・・・!』
水潤が、少しびっくりした顔になって、それからすぐに、幸せそうに目を細める。私も、柔らかくて、すごく温かいものを感じて、夢を見ているような気持ちだった。
『イズミ・・・・・・大好きよ。』
だんだんと慣れてきた水潤が、自分から押し込んでくるようにして、私もそれを受け止めて、ちょっとお返しするうちに・・・
口をぴったりくっつけている今、聞こえるはずのない声が、伝わってくるのを感じる。
私も同じように返したら、水潤がまたちょっと驚いて、何が起きているのか分かった後は、たくさんの気持ちを伝えあって、私達はやっと、唇を離した。
『イズミ・・・これ、すごく好き。こんなの、初めて。』
「うん、私も・・・! 初めてだったけど、水潤としか、するつもりはないよ。」
お互いに照れた顔で、少し声をかけあって・・・私達は、一緒に上のほうを見た。
『もうすぐ、暗くなっちゃうわ。陸の夜は、人間には危ないんだよね?』
「うん。ここにいる私が戻る時も、そうなのかは分からないけど・・・」
『じゃあ、今度こそ・・・またね、イズミ。』
「うん。またね、水潤。」
水潤の手が、ちょっと光ったように見えると、自分の身体が浮き上がって、陸のほうへと進んでゆくのが分かる。
少しずつ小さくなる姿に、ぶんぶんと手を振ったところで、ちゃぷんという音と共に、私は湖を離れていった。
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