第28話 ギャルはバーで輝く

カイル一行は、賑わう渋谷二号店のメインストリートを進んでいった。


だが、その道中――。

不支持派の民たちは、カイルを見るや、恐れおののくように距離を取り、遠巻きに睨みつけてくる者すらいた。


「増税王め……」なんてそんなひそひそ声が聞こえてくる。


一方で――。

カイルの私服姿は、これまでの「威圧的な王」というイメージを一変させ、特に若い女の子たちの間では、急速に好印象を得つつあった。


「ねぇ、バカイルめっちゃかっこよくね?」

「ねー! 普通に顔面優勝してんだけどー、バカイル!」

「写メ描き、お願いしてみよーよ、バカイルと!」


遠くからそんな声が耳に飛び込んできた瞬間、カイルはぴくりと反応した。


「おい……」


肩を震わせながら振り返る。


「なんか若い子たち、当たり前のように俺のことを〝バカイル〟呼びしているんだが!?  不敬罪で引っ捕らえてやろうかな!!」


そのとき、隣にいたバリカンが、慌てて口の前に人差し指を立てた。


「しっ、カイきゅん! 口を閉じて! 黙っていればイケメンなんだから! 黙っているだけで、好感度が上がるんだから! むしろ、喋るたびにマイナスになってるんだから!!」


「おい、それはどういう意味だ!!」


反論しようとするカイルだったが、キュウリも口の前に人差し指を立てる。


「しっ、カイきゅん、これは戦略です! 〝イケメンなのにバカ〟――そのギャップが、今一部の女の子たちにぶっ刺さってるんですよ!! バカイルってあだ名も、その象徴ですから、ファン獲得のために受け入れましょう! 今のところ数は少ないですけど!」


「需要が少ないのに、バカが定着される現実を受け入れられるか!」





その後も、カイルたちは街をぶらぶらと巡幸していた。

だが、夕刻を過ぎたころ――。


「すみません、わたくし、これから勉強会がありますので……お先に失礼いたします!」


ルシアがぺこりと頭を下げた。

おそらく、外交官になるための勉強だろう。

最近のルシアは、暇さえあれば講師を招いて缶詰状態で猛勉強している。

遊びたい盛りの年頃なのに、よく頑張っているものだ、とカイルは内心で感心していた。


だが――。


「えーっ、つまんなーい!!」


ミラが、思いっきり不満そうに頬を膨らませた。

それに対して、ルシアは慌てて両手を振った。


「わ、わたくしも残念ですが、是非、ま、また遊びましょうっ、ミラたん! なえぽよ~!」


……その言葉に、ミラの表情が一瞬だけ固まった。

そして、真顔でズバッと言う。


「ねえ、ルーシー。 〝なえぽよ〟の意味、ちがうからね?」


「えっ……?」


「それだと、ミラと遊ぶのが嫌だったみたいに聞こえるからね? 〝なえぽよ〟はガチでテンション下がったときに使うんだよ!」


「あ、あわわわっ……す、すみませんっ!」


ルシアは顔を真っ赤にしてぺこぺこ頭を下げ、そのまま慌てて立ち去っていった。

その後ろ姿を見送りながら、カイルはぽつりと呟いた。


「……ミラ殿は、ルシアにやはり少し厳しい気がするが」

すると、ミラは肩をすくめながら、きっぱりと言った。


「だって、ルーシーには〝端ギャル〟にはなってほしくないからね!」


「……端ギャル?」


「中途半端なギャルってこと! にわか知識でギャル名乗ると、マジ舐められっから! 弟子には厳しく教えないと!」


「……いつの間に師弟関係に……」


カイルは深いため息をつきながら、静かにツッコミを入れたのだった。


すると、その時――。


「陛下……アタシ、ぜひ寄ってほしいお店があるんですけど……」


バリカンが、どこかそわそわとした様子で声をかけてきた。


「ん? まあ、別に構わないが……どこに行きたいのだ?」


カイルが首をかしげると、バリカンは嬉しそうに笑って、ぴょんと手を挙げた。


「――こちらですっ!」





案内された先は、渋谷二号店でも特に飲み屋が賑わうエリアだった。

その一角に、黒を基調としたシックで落ち着いた雰囲気のバーがあった。看板には、金色の文字で――《ノワール・エスプリ》――と美しくしたためられている。


「ここ、アタシの行きつけのお店なんですよ!」


胸を張って誇らしげに言うバリカンに、カイルは興味深げに目を細めた。


「ほう……なかなか高級感があるじゃないか。特にこの黒と金の色合い……俺は、結構好きだぞ」


その素直な感想に、隣のミラがぷっと吹き出す。


「きゃははは!! カイきゅんの色の趣味、なんかヤンチャな男の子っぽい~! イメージ通り!」


「黙っておけ!!」


鋭いツッコミを入れながら、カイルはバーの前に立つ。

そこには、清潔感あふれる男たちがずらりと並び、背筋を伸ばして出迎えた。


「いらっしゃいませ、バー《ノワール・エスプリ》へ!」


揃った挨拶に、カイルは満足げに頷く。


「ほう……こいつらはなかなか、王に対しての敬意というものをわかっているな。この店、気に入ったぞ、バリカン!」


「ありがたき幸せっ♡」


バリカンはぴょんと跳ねながら頭を下げた。


「まあ、そんなに固くなるな。今日は無礼講で構わないぞ?」


カイルが余裕たっぷりに言ったその瞬間――店の前で整列していた男たちの眉がぴくりと動いた。


「……陛下、よろしいのですね……」

「無礼なことをしても……」

「あんなことや、こんなことをしても……」


「ああ、そうだと言っていて――ん? あんなことや、こんなこと……?」


何も警戒せずに頷いたカイルだったが――次の瞬間、男たちが一斉にクネクネと腰を振り始めた。そして――



「カイきゅーーーーーーーーーーん!! いらっしゃぁぁぁぁぁぁぁい♡」



茶色い声が渦を巻き、男たちが一斉にカイルに抱きついてきた!



「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」



王の悲鳴が、渋谷二号店の夜空に木霊した。





ワイワイと盛り上がる店内。

その中心で、ミラがニコニコしながらカイルに説明を始めた。


「こういうのはね、〝ゲイバー〟って言うんだよ!」


「ゲイバー……?」


聞きなれない単語に、カイルは眉をひそめた。


「マジでゲイの人たち、めっちゃ良い人たちばっかりだからさ~! ミラ、だーい好き!!」


元気いっぱいに言い切るミラに、キャストたちが一斉に歓声を上げた。


「もうっ、ミラちゃん、ありがとーーー♡」

「アタシたちもギャルだーいすき♡」


そのうちの一人が、笑顔でミラにグラスを差し出した。


「はい、ミラちゃんのために特製~! アセロラジュース、もちろんノンアルコールよん♡」


「ありがとーーーっ!!」


ミラは満面の笑みでグラスを受け取り、ストローをくわえた。


「マジうまーーーっ!!」


その言葉に、店中がさらにパァッと明るい空気に包まれる


「なるほど――このバーは、そういうバーか……」


店内を見回せば、男のキャストに、男の客。

ちらほらと女客も混じってはいるが、明らかに〝男性同士〟の華やかな世界だった。

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