第25話 ギャルは誘う

「そ、そもそもだッ!」


カイルが指を突き上げ、額に汗をにじませながら叫ぶ。


「そのギャル雑誌……《R☆B》のアンケート結果は本当に信頼できるのか!? 所詮は大衆向けの娯楽誌! そんなもので民の支持率など計れるわけが――!」


しかし、バリカンがさらりと切り返した。


「陛下。お言葉ですが、《R☆B》は、今や王都だけでなく地方にも定期配達されてますし、保存用・観賞用・布教用と3冊以上買う熱心な読者も少なくありませんわよ? 国外にも購読希望者が殺到して、リズノーラ連邦では海賊版が出回るほどの人気です」


「な、なんだと……!?」


さらに、キュウリが資料を広げながら追い打ちをかけた。


「そして、出版元に確認したところ……ランツバルト王国の人口は50万人にもかかわらず、《R☆B》は国内外シリーズ累計で――3億部を突破したそうです」


「なっ!? さ……さ、さ、さんおく……!?」


「ちなみに、これは人類諸国圏が千年以上信仰してきた《アストライア正典》――つまりあの〝神聖アスト聖書〟の累計発行部数を、超えております」



「この国のギャル雑誌、聖書より売れてるのォォォォォ!?!?!?」



もはやそっちのほうがなんか宗教問題的にヤバイような気がしてきたんだが……と思うカイルだったが、ひとまず直近の自分の支持率に目を向けることにした。

いずれせよ、《R☆B》の支持率にはかなりの信憑性があると思っていいようだ。


「……となると、まずいな……」


カイルは顎に手を当て、眉をひそめた。


「支持率が……2割もいかないとは……」


その呟きに、キュウリがさらりと返す。


「ジャパーンの政治家なら、即・退・陣ですわ」


その瞬間、カイルの脳裏に――バチッと電流が走る。


あのミラが率いた、ギャル市民革命未遂。

そして、「カイル王、たいじーんっ!!」の地鳴りのように響いた退陣コール――このままだと……あれが……再来する……ッ!!


「ひいいいっ! あの地獄だけは……二度とごめんだ……!」


ガクガクと震えるカイル。手元の書類を取り落とす。


「そ、そもそもどうして、こんなにも俺の支持率は低いんだ!? その原因はなんだ、ミラ殿!?」


「ちょい待ち~」


ミラはソファに腰かけながら、手元の雑誌をペラリとめくった。


「まずは、男の人の意見ね……えっと、まずは……〝しょせん、親の七光りの坊ちゃん。ソーメイだった先代の国王陛下よりも短気で短絡的。王の資質なし〟」


「ぐ……なんか心に刺さるな……」


「〝GPPP政策などばかりを優先する男差別主義者、エセ騎士道、女好きの変態〟」

「おい……女好きは完全に偏見だろうが!」


「――〝なんか女殴ってそう〟」


「おい!! もっとやばい偏見が飛び出してきたぞ! なんだよ、女殴ってそうって!」


「ええっと……次は女の子の意見ね……」


ミラは雑誌をめくりながら、さらりと読み上げる。



「〝顔はいいけど、性格が最悪。増税とか意味わかんない〟、〝まだ20歳のくせに考え方がおっさん臭い〟、〝いつも王服ばっかでオシャレに無頓着〟」

「も……もういいって!」


「〝家事とか絶対にやってくれなさそう〟、〝なんか痛い。いきなり天に向かって両手広げて語り出すし、一緒にいたら恥ずかしそう〟、〝クズ男の気配がする〟」

「だからもういい! もういいって!!」


「〝理想ばっかり語るけど、現実を見てなさそう〟、〝なんか上司にいたらウザそうなタイプ〟、〝いつも剣持ってるのに戦ってるとこ見たことない〟〝しゃべり出すと長い。しかも声がちょっとデカい〟、〝我が国の未来は! とか言い出すとマジで――」

「もういいだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


カイルが思わず叫ぶ。


「どんだけ言いたい放題なんだ女たちは! っていうか、政治への意見というより、完全に俺の男としての評価じゃないか!!」



「――〝なんか暴力で女を支配していそう〟」

「結局、女からも、女殴ってそう言われているじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!! ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」



カイルはギリッと拳を握りしめた。


「俺は……ランツバルト王国の王であり、騎士道精神を尊ぶ者……! 国家の第一の騎士として、貴婦人には最大限の敬意と礼儀をもって接してきた……! それを〝女殴ってそう〟などと――なんたる偏見だ!!  この愚民どもめぇぇぇ!」


「え~ほんと~? ミラ、カイきゅんにレディーファーストとか紳士的なことされたこと、一回もないんだけど~?」


「そ、それは……タイミングがなかっただけだっ!」


「ふーん、まあいいけど。ミラ、暴力振るう男だけはマジ無理だからね?」


「だ、誰が暴力など……!」


と、言いかけたその瞬間――カイルの脳裏に、過去の〝ミラ暗殺計画〟の記憶が稲妻のように走る。



「み、未遂だし……け、結局、手は出してないし……」



俯きながら、誰にも聞こえないように、カイルは小さく呟いた。

キュウリは《R☆B》の支持率データをじっと見つめながら、深いため息をついた。


「はぁ~……しかし、まぁ、国民の皆様は本当によく見ていらっしゃる。実に的確なご意見ですわ~」


「的確なのっ!?」


カイルが思わず突っ込む。

横でバリカンも大きく頷いた。


「まったく。ルックスがいいから、かろうじてクズ男好きな女の子のウケはギリ保ってる感じだけど……いずれにせよ、この数字は重く受け止めた方がよろしくってよ、クズきゅん」


「誰がクズきゅんだ! 絶対にそのあだ名広めるなよ!!」


カイルは額に手を当て、苦悩の表情を浮かべる。


「しかし……ここまで支持率が低いと……もはや手遅れなんじゃ……一体、俺はどうすれば……」


その時、ミラが勢いよく立ち上がった。


「ダメだよ、カイきゅん! 諦めちゃ!」


「ミ、ミラ殿……?」


ミラはカイルをまっすぐ見つめて言った。


「カイきゅんはちゃんと国民と向き合ってきた!? ミラ、カイきゅんが、渋谷二号店とかに来たところ一度も見たことないんだけど!?」


その言葉に、カイルはギクリと肩を震わせた。


「た……たしかに……俺は……いつも王宮で政をしているばかりで、民と正面から向き合ったことなど、一度もなかった……。いや、それ以前に、自分の威厳や権威を示すことで、民の声を封じてきた……それが〝統治〟だと、思い込んでいた……。だから、民と会話をすること自体……威厳を損なうと拒否していた……」


ミラはふんっと小さく鼻を鳴らし、どこか呆れたように言葉を継いだ。


「ほらね? 国民は、カイきゅんのことを〝ちゃんと〟知らないんだよ。偉そうで、冷たくて、近寄りがたい〝俺様王様〟だと思ってるだけなんだよ」


「……っ」


その瞬間、カイルの胸に、鋭い痛みが走った。

自分はずっと――この国を思い、守ってきたつもりだった。

だが、その〝思い〟は、最も大切にすべき民の存在を、見下し、無視するかたちでしか表現できていなかった。

それを……ミラに聞かされてようやくカイルは気付いた。


「……なるほど……これでは、支持率が下がるわけだな……」


うなだれるカイルの肩を、ミラがポンと軽く叩く。


「だからさ、カイきゅん。今度は、カイきゅんの方から歩み寄る番だよ!」


「……俺の方から……?」


カイルが顔を上げると、ミラはにっこりと笑い、両手でハートマークを作ってみせた。


「うんっ! カイきゅんがどれくらいこの国のこと――そして、ここに住む人たちのことを〝好きピ〟かってこと、ちゃんと伝えてあげなきゃ!」


「す、好きピって……なんだそれは……ったく……」


相変わらず、突拍子もないギャル用語が飛び出してくるが……それでもどこか救われたように、カイルは微かに口元を緩めた。


「で……俺はどうすればいいんだ、ミラ殿」


沈んだ声でそう問うカイルの胸中には、重い焦りが渦巻いていた。

この低迷した支持率を回復するのは、もはや至難の業。

自分なりに考えても、答えは見つからなかった。だからこそ――この難題に、彼女の意見を仰いでしまった。


だが、そんな王の深刻な問いに対し、目の前のギャルは、あっけらかんとウインクしながら、親指をグッと立てた。



「決まってんじゃん♪ いこーぜ、渋谷二号店っ!!」

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