第17話 ギャルも兵器を持つ♡

「くそっ……! どいつもこいつも……! いや、それのりもまずいぞ……このままだと、王位が脅かされるどころか……〝バカイル〟なんて語呂のいいクソあだ名が定着してしまう……ッ! ちくしょう! いくらなんでもバカイルで歴史に名を残したくないぞぉぉぉぉぉ!!」


カイルは額を抱えた。

するとその時……。


「カイきゅん……見損なったよーーーッ!!」


その声は、広場を揺るがすほどの怒気をはらんでいた。


「この声は……ミラ殿か……」


メガホン越しに叫ぶミラの表情は、普段の〝ゆるふわキラキラギャル〟から一変、怒れる〝正義のギャル〟そのものだった。


「カイきゅんはさ……たしかに最初はギャル文化に戸惑っていた……でも最終的には受け入れてくれる人だと思ってた! GPPPも、ギャル親善大使の任命もしてくれてすっごく嬉しかった! だからミラ……信じてたのに……!」


ミラの声に失望と怒りが入り交じっていた。


「それなのに……それなのに……こんな形で、ギャルから税金を巻き上げるなんて……! しかもそれを……ギャルのアイテムとかを武器とかに変えようとしていることだって……ミラ気付いていたんだからね!? こんなの……こんなの……っ、ぜっっっったいに許さないからァァッッ!!!!!」


その言葉にカイルは、地面を叩く。


「――余所から来た異世界ギャルがぁぁぁッ!! 勝手なことばっか言いやがってぇぇぇ!!」


何度も、何度も……虚空の宮廷で彼は叫び続けた。


「俺にとってギャル文化はなァ……国益のために活用してる政策なんだよッ!!」


王宮の奥、玉座の間でカイルは叫んだ。


「オシャレだぁ!? 自由だぁ!? ……ふざけるな!! 遊んでる暇なんてないんだよォォッ!!! 今、このランツバルト王国は大国に睨まれ、いつ滅ぼされてもおかしくない! そんな危機の中で! 俺はギャル文化に、国家の命運を賭けているんだッ!! ギャルのアイテムを兵器に使ってなにが悪い!! なんの問題があるというのだ!!」


カイルは、ゆっくりと立ち上がる。


「だったら……いいだろう……」


その目に、王としての威光が宿る。


「俺が!! 貴様ら全員を説得してやるぅぅぅぅうううううううッ!!」


タッタッタ――と、鼓動のように響く足音。王の決意は止まらない。


「このランツバルト王国――十七代目当主としての! 王命でなァァァァアアアアアァァッ!!!」


バンッ!!


両腕を広げ、カイルは意気揚々とバルコニーの扉を開け放った。

その目の前に現れたのは――


「もぉぉ~~~! カイきゅんのバカァァァァーーー!!」


メガホン片手に仁王立ち、王宮前で絶叫するのはもちろん――ミラだった。

そのすぐ隣には、明らかにヤバい見た目をした巨大兵器。


まばゆいラメ、パラボラ状の照射口、側面には金色の文字で――



《日サロ・マークⅡ【ギャル・ブラスター煌(きらめき)】》



と書かれてある……。


「な……なんだ、アレは……?」


その時だった。


「説明しよう……!」


唐突にバリカンとキュウリが、ナレーション風で語り始めた。


「〝ギャル・ブラスター煌〟とは、ミラたんが〝冬でも日焼けした~い♡〟と軽いノリで依頼した、魔力式簡易日サロが原型よ!」


「ところがどっこい、技工ギルドがやりすぎた結果――魔力変換効率、照射範囲、出力すべてが戦術級兵器レベルに進化してしまった悲しき兵器……。その初代、日サロ・マークⅠが〝今度こそ安全に!〟と作られた改良型が……日サロ・マークⅡ【ギャル・ブラスター煌(きらめき)】なのですが……より強くなって帰ってしまいました!」


「動力はエーテル水晶炉、魔導核には天然水晶を使用。魔力効率はなんと、従来兵器の320%増し! もはや我が王国最強の兵器と化してますわ!」


そこまで説明したあと、ミラが叫ぶ。


「出てこないなら~~~っ!! これで王宮ぜーーんぶ!! ガングロにしてやるんだからねぇぇぇぇぇッ!!」



――バンッ!!



カイルは、そっと、無言で……静かに、扉を閉じた。



「いや、お前らもギャルの美容アイテムを魔改造して戦術兵器にしてるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」



その叫びは、誰に届くこともなく――カイル王の精神だけが、ゆっくりと崩れ落ちていった。


「なんだよアレ!! いつの間にあんなヤバいもん作ってたんだよ!! というか、あんなあぶねえもん、王である俺に簡単に向けるって……どんだけ殺意あるんだよあいつら!!」


崩れ落ちるようにその場にひざをつき、カイルは床に額を押しつけて嘆いた。


「くそ……まさか、ここまでしてギャルたちが、オシャレのために戦うなんて……。ちくしょう……俺は……俺は、そこまであいつらを怒らせてしまったのか……? 俺は……どうすればよかったんだ!?」


――その時だった。


「……お兄様」


その声に、カイルはビクリと肩を震わせた。

振り返ると、そこには、マスカラが無くなり、元の淑女になった、ルシアの姿があった。


彼女は静かに歩み寄る!

王妃のように清楚で、それでいてどこか決意のこもった表情。

その時だった。

そっと、背中に柔らかな感触が伝わる。

カイルが振り向くと、ルシアが優しくぎゅっと抱きしめていた。


「もう……いいのです、お兄様……」


その声は震えながらも、芯のある優しさに満ちていた。


「お兄様が、ずっと一人で頑張っていたこと……ルシア、わかっていました。本当は私も王女として支えになりたかった。でも、私は……あのとき……お父様とお母様が亡くなって……自分のことで精一杯で……全てのご負担をお兄様に背負わせてしまいました……。こんな弱い私を……お許しください……」


カイルは、何も言えなかった。


ただ、小さく――「ルシア……」と名前を呼ぶ。


ルシアは顔を上げ、まっすぐに兄の目を見つめて言った。


「これからはルシアも、お兄様の〝味方〟として、一緒にこの王国のために身を尽くしていきます。だからこそ……私達を頼ってください」


「私……達……?」


「きっと……バリカンさんも、キュウリさんも……そしてミラたんだって。こうしてあえて厳しくすることで、お兄様に――〝伝えている〟んです。あなたは一人じゃないって」


「……そうなのか……」


カイルは、遠くに見える《日サロ・マークⅡ【ギャル・ブラスター煌】》を見やった。


「……あの兵器の射程圏に俺を王宮ごと入れるのは……いささか厳しすぎる気もするが……」


「それは、お兄様が弾圧しろなんて言うからです」


「……まぁ……確かに……」


「でも……それくらい、みんな言っているんです。『なぜ私たちを頼らないのか』『なぜあなたは、一人で背負おうとするのか』……って」


その言葉に、カイルはハッと息を呑む。


思えば――まだ自分が王になる前は、バリカンやキュウリと、軍事や政治、世間話に至るまで、ざっくばらんに語り合っていた。

ルシアもいた。両親にも、心から頼っていた。


だが、王という立場になってから――いや、権力を手にしてからは、自分の弱さを見せてはいけないと、自らを律するようになった。

実際には、それはただ、孤独を選び続けたに過ぎない。

反感を恐れ、裏切りを恐れ、疑心の中で、いつしか誰にも相談できなくなった。

そしてその果てに、自分に忠告してくれた腹心すら、遠ざけてしまった。


「……愚かだな」


ようやく、カイルは己の過ちと向き合った。

その唇から漏れた言葉は、悔恨に満ちていた。


「……そうか……一人で抱え込む必要なんてなかった……。もっと……周りに聞いてみてもいいんだ、もっと……仲間に頼ってもいいんだ……」


ゆっくりと、彼は立ち上がった。


「……ありがとう、ルシア。俺……ようやく、気づけた気がするよ」


「お兄様……!」


王の表情には、久しぶりに柔らかな光が宿っていた。


「……民たちの言葉に、耳を傾けようと思う」


そう言い残して、カイルは静かに門の方へと歩き出した。

その背中を、ルシアは微笑みながら見送る。


門までの道のり――彼は唇を噛みしめながら、胸の内をかみしめる。

俺は、かけがえのない民の命を……自らの手で踏みにじろうとしていた……


そのとき――城門前の広場では、相変わらずの大騒ぎだった。


「おい、見ろ!」

「あれ……!」

「王が……カイル王が出てきたぞ!!」


一斉に視線が集まり、静寂が降りる。

カイルは立ち止まり、ぐっと息を吸った。


覚悟を決め、堂々と胸を張って――


「皆に――詫びなければならない!! このような騒動を起こし、不安にさせてしまったことを……!」


そして、大きく両手を広げて――王は叫んだ。



「みんな、ごめーーーーーーんっ!! マジ、めんご~~~~っ♡」



なんか、カイルが思う〝ギャル〟っぽいイメージで謝罪をしはじめた。

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