第12話 ギャル、議会占拠
「えっ、だってさ、ミラ思うの。お金で信用なくすのって、いっちばんダサいし、渋谷でそういう人いーっぱい見てきたんだからね?」
「渋谷基準かよ!?」
そしてミラは、壇上のピンクボードにふわふわのペンでさらさらと書いた。
\【カイきゅんはお金返そ♡プロジェクト】/
「はい! 金の切れ目が縁の切れ目! だからこそ、しっかり解決して、カイきゅんも、もんじゃも、仲直りしようね! いぇええええ~~~い☆」
「ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」
カイルは崩れ落ちそうなほどの衝撃を受ける。
ルードヴィヒは椅子にもたれながら、ニヤリと口元を吊り上げた。
「ふん……あのギャル、なかなか世渡り上手じゃないか。カイル王の肩ばかり持たずに、貴族側とも角立てずに中立の立場を取るとは……」
そしてカイルに鋭い視線を送る。
「にしても……カイル王。まだまだだな。人の心、掴むってのが全然できてねぇ。ギャルに寝首かかれるとか、権力を持つ王として終わってんぞ? OK~?」
「ぐっ……!」
カイルは唇を噛み締め、小さくつぶやく
「おのれ……この会議で反乱分子を炙り出し、地方貴族を味方につけ、ルードヴィヒ派を一掃するつもりだったのに……無駄な〝返金〟の話まで持ち上がってくるとは……! 富国強兵を進めるこの大事な時期に、なんたる出費だ!」
恨めしげにカイルはミラを睨むが、ミラは「カイきゅん、やってやったぜ☆」となぜか親指を立てていた。
ルードヴィヒはそれを見て、肩をすくめる。
「まぁまぁ、落ち着けって。とにかくよ、今んとこGPPPは賛成も反対も半々って感じだろ? だったらさ……今ここで無理に決めるのはやめといたほうがよくね?」
「……なんだと?」
「この政策、ちょっと寝かせとけ。いま無理やり通したって、どうせ後でグダグダになる。だったら一旦保留にして、ちゃんと整理してから進めたほうがマシだろ? OK~?」
「さっきから、その〝OK~?〟がめちゃくちゃ腹立つんだが、もじゃん!!」
カイルの怒りが爆発するも、ルードヴィヒは、挑発するように髭をもじゃもじゃと見せつける。
「ふふふ……これで形成は五分五分。いや……王室に痛手を負わせた今、実質的には我の勝ち……! 議論を引き延ばすことで、その間に貴族院の基盤を整え……いずれ、王を完全に封じてやる……!」
そんなルードヴィヒの内心の勝利宣言が流れた直後――
「……あ、てかさ!!」
ミラの高らかな声が議場に響いた。
「ミラ、ずっと思ってたんだけどさぁ~……」
突然、壇上から手を上げたミラが、議場を見回しながら言った。
「この政策ってさ、ギャルとかオシャレとか、女の子たちがいっぱい楽しみたいってやつじゃん? なのにさ、この議場……〝おぢ〟しかいないのって、ぶっちゃけ、変じゃね???」
ざわ……っと、議場がざわつく。
ルードヴィヒがしぶしぶ口を開いた。
「ま、まあ……それは……そうであるが……。と、とはいえ……議会というのは慎重に進めるべき場であり……そ、そうだな、一度市民の意見も聞く場を設けてだな……とにかく、この政策については一旦、延期ということで……」
「……いや、いいよ?」
ミラは満面の笑顔でくるりと振り返ると、手をピンと挙げた。
「今、女の子たち、速攻呼ぶから~!」
「「え?」」
カイルとルードヴィヒがまたハモった時、ミラが大声をあげた。
「バリカ~~ン!♡ キュウリ~~~!♡」
すると、議場の扉近くに待機していた二人が、元気よく手を振って現れた。
「議会しゅーーごーー! ってみんなに伝えておいてー!☆」
「はぁ~い♡」
「任せてください、ミラたん♪」
ウインクするミラの声に、二人はすぐさま扉の外へと消えた。
……そして、数十秒後。
次の瞬間、扉が大きく開かれる。
「いえーーーーーい!!」
「フーーーー↑↑!!」
「議会なう☆」
「やば~うちら政治家じゃん♡」
――ネイルが煌めき、ヘアアイロンで巻かれた髪が揺れる。タペストリーのようなカラフルなミニスカートのギャルたちが、どっさりと雪崩れ込んできた。
あまりにも突然の出来事に貴族たちは驚愕する。
「「な……なんだとーーーー!!」」
またもや、カイルとルードヴィヒの声がハモった。
「な、なんたる不敬……! この神聖なる貴族院議場に、民草が無断で踏み込むとは……!」
ルードヴィヒは椅子から身を乗り出し、怒りをにじませた声で叫ぶ。
「陛下……まさかとは思いますが……これは貴殿の御意志によるものなのですか!? ギャルなる奇矯な一団を引き連れ、議会を――襲撃するおつもりで!?」
「ま、待て、誤解だ! 俺はそんな命令はしていない! これは……完全に、あのギャルが勝手に……というかもう、ギャルは勝手なことしかしないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
カイルの困惑がさらに深まる中……ギャルたちは議場の荘厳さに、まるでお菓子の家を見つけたかのようなテンションで目を輝かせていた。
「なにここ~! 天井めっちゃキラキラしてるんだけど~!」
「ヤバ、あの紋章かわいすぎる~!」
「ねえ、あそこ立ってみ? 映え……じゃなくて! なんかイケてる感じする~!」
金の装飾や巨大なタペストリーを「かわいい~!」と連呼しながら、そこかしこを歩き回ってはしゃぎ出す。
カイルはこめかみに手を当て、眉間をぎゅうと寄せた。
「……ああ、もう! そこ! 静かに! というか、滅多なことで触らないの! ああ、もう……それは歴史あるもので……って、おい! ギャル共!」
しかし、当然のように誰も聞いていない。
その光景に、ついにルードヴィヒが椅子から身を乗り出して怒声を響かせた。
「――ほら見ろ! これが貴族の館での所業か! この国の民が、ギャルという名
の混沌に飲み込まれている証だ! 尊卑の秩序は崩れ、規律は風前の灯火! この愚策〝GPPP〟を実行されれば、ギャル文化のせいで、必ずや王国の根幹が崩れることとなろうぞ!」
その声の響きに、カイルもぐっと言葉を詰まらせる。
「ぐっ……た、確かに……個人的な気持ちを考えれば……ギャル文化は……」
歯ぎしりが止まらない。
「やはり、烏合の衆に、秩序など……もはや夢物語か……」
言葉が漏れそうになった――その時だった。
パン、パン、と場内に響く軽快な拍手音。
「――はーい、ストップストップ☆」
ミラだった。
笑顔だが、明らかに空気を支配するような迫力のある表情。
ギャルたちのざわつきがぴたりと止まり、まるで軍の号令でも受けたかのように綺麗に並び直す。
「今ね、ミラたち大事なお話してるから♡ 静かにしよっか♪」
何気なく言ったような言葉。
しかし、次の瞬間――
「「「「「はーーい♡」」」」」
驚くほど整った返事。と、すとんと揃った姿勢で、ギャルたちは並列した。
「「「「「な、なにぃ!?!?!?」」」」」
貴族も兵士も、そしてカイルも、目を剥いた。
あの烏合の衆どもが……たった一言で……!?
「ふふっ……でもねぇ、ギャルってさぁ~……意外と上下関係、マジ厳しいんだよ?」
ミラが笑いながら、腰に手を当てて言った。
「先輩がメイク崩れてたら、速攻で直してあげるし、荷物持ちもするし! 〝ギャルサー〟の中じゃ、上の人の指示に絶対従うのがルールなの! だからね、ミラもあんまり舐められないように気をつけてるんだー♡」
「な、なに……!?」
ルードヴィヒの手が震え、椅子の肘掛けをギュッと握りしめた。
「……ば、馬鹿な……ギャルというのは……自由奔放、礼節なき刹那主義の象徴……そう思っていた……! だが今、目の前の少女は、あの軽薄な言葉の裏に――まるで、古き貴族の騎士道のごとき〝忠誠〟と〝礼節〟が備わっているというのか!? なんなのだ……ギャルとは……なんなのだこの民族はぁぁぁぁぁぁ!!」
ルードヴィヒの額に、ありえぬ戦慄の汗がにじんでいた。
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