『ツッコミ令嬢、惑星規模でツッコミ中。』

茶葉13g

プロローグ それは神の気まぐれか、少女のため息か

 この世界は、かつて“神々”によって創られた──。


 そんな大仰な伝承が残っている割には、今日も王都は騒がしい。


「ぬおおおおおっ!? またポータルが暴走したぁあああっ!」


 空中でくるくると回転しながら降ってきたのは、ベアト家の若き当主、クレア・ベアトである。転移装置からの登場失敗は、これで三度目だ。


 地面に着地する前に、石畳の柱に《見事に》激突する。


 ドン!


「いてて……ちょっとミレーヌ第一王女! またヘンな設定にしたでしょ!? 私、今度こそ真っ直ぐ出られるって信じてたのに!」


 地面で涙目になりながら叫ぶ彼女に、頭上から拍手が降ってきた。


「おはようクレア。今日も着地が華麗だったよ」


「黙れ王太子。一言でも笑ったら殴るわよ」


 王立学院前の転移ゲートポート。ここは未来の王族や貴族、天才技術者たちが集う学び舎──なのだが、今そこにいる二人は、もはや完全に日常風景の一部と化していた。


 片や、王国の未来を担う若き王太子ヘレン。

 片や、辺境伯家の次期当主にして、全力ツッコミ担当のクレア・ベアト。


 誰が予想しただろう。この二人が、のちに世界の運命を左右するなんて。


 ──けれど、物語の始まりなんてそんなものだ。


 


 それはある日のことだった。


「……なんか、魔素の流れが変じゃない?」


 学院の実験棟で、クレアがふと呟いた。


 普段なら、精霊(≒低級AI)は気まぐれに反応するだけの存在なのに、その日はまるで……怯えているように震えていた。


 講義では何も起きなかった。装置も正常だった。けれど、彼女の本能が告げていた。


(これは──“ただの不具合”じゃない)


 その時、誰も気づいていなかった。

 遥か地下深くで、《何か》が目覚めようとしていたことに。


 世界樹の根の奥底で、テラフォーミング船団の遺産が、眠りから目を覚ましつつあった。


《……起動……準備完了。権限確認──未接続。記録領域、過負荷……修復不能……補助モジュール要請──》


 それは、かつて“神”と呼ばれた存在。惑星管理AI《ノエシス》。


 今ここに、一つの時代が終わり、

 そして──少女の物語が始まろうとしていた。


 


 クレア・ベアト。十五歳。王立学院生徒。ツッコミ属性。特技は落下芸。


「……だから私は聖女なんかじゃないっての。どちらかと言えば《被害者》よ、完全に」


 そんな彼女の目の前に、光の渦が開いた。


「なにこれ……え、なんでポータルが《喋って》るのよ……!? あ、やだ、巻き込まれ──うわあああっ!?」


 叫びとともに、彼女の姿は消えた。


 世界の命運を背負った少女は、今日も元気に空を飛ぶ。


 


 ──ようこそ、ルミナス王国の物語へ。

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