第2話 ~外界~

「いや〜でも、マジで死ぬかと思いました……視聴者さんに大変なグロ映像をお届けすることになってたのかもしれません……しかし今の時代に剣を使ってる人なんて初めて見たかもしれませんね!」


「へ?」


 少年はまたもや浮遊型カメラ?に向かって話し始める。俺は配信は観ていたがそれをやろうとは思わなかったし、特にコメントも残すタイプじゃなかったのでこの時間はちょっと気マズく感じていた。だが、今回は少し引っ掛かる言葉が少年の口から飛び出し、俺は思わず呆けた声を出してしまった。


 少年の言い方が悪いのか?”今の時代に”その言葉を俺的に解釈すると、やはり相当前から地球はこういう状態ということに。それとも……いや、深読みし過ぎか。正史でも剣は使われて来た……少年はきっとそれと比較してそう言ったんだろう。


「おじさまって、まだ人類が魔物に対して刃物を使ってた時代の人?それにしては若いと思うけど……」


 待てよ……俺が転移したのは大体十年前。だが、人類が魔物に対して刃物を使っていた時代とまで言われてしまうと、やはり半世紀以上前の出来事に聞こえる……。いや、もしかしたらこの世界とあっちの世界では時間の流れが違うのか?


 俺が顎に手を添えながら考え込んでいると、少年が心配そうに声を掛けてきた。


「どうしました?もしかしてどこか具合が……」


「いや、大丈夫だ。俺はもう行くよ」


 とにかく外に出てみたら分かることだ。少年が来たということは入口があるハズ、そこまで行けばきっと出られる。考えるのは後だ……こんな情報源が限られた暗闇で思考していても仕方ない。とにかく行動だ。そうすれば必ず道は開けるのだからな。


 俺は少年に別れを告げ、彼が向かってきた道を歩き始める。少年の方はそのまま奥へと進んで行く、途中まで声が聞こえていたが歩き始めて数十メートル、声はもう聞こえない。


「今度こそ出口の光か……?」


 更に歩みを進めると人工物のように精巧に掘られた石の階段があり、その上からは光が差していた。今度こそ……と思い三十段程度ある長い階段を駆け上がるとすぐに外へ出られた。


「お疲れさまでした!」


「え、屋内?」


「?……どうかされましたか?」


「いや、なんでもない……です……。い、いやぁ!疲れたなぁ」


 洞窟から出たら鬱蒼とした森林くらいは覚悟していたのだが、不自然に冷えた清潔感のあるオフィスに出た。流石に洞窟の入り口の傍は少し砂っぽいが、それ以外は至って普通。すぐ横には受付の様、人が立っていて彼女に話し掛けられた。その人は俺の反応を見て心配の声を掛けてくれたのだが、ここでなにか言ってもどうにもならないことはさっき知ったからな。とにかくここを出るのが最優先だ。


 俺は戸惑いながらも真っ直ぐ進み、この建物の出口と思しき自動ドアから外に出た。


「うっ……暑ッ」


 外に出ると突然の直射日光に目が眩み、先程まで冷えていた屋内に居たせいかやけに外が暑く感じる。俺はそれとは別に驚いて上を見上げる。手で顔に日陰を作りながら周りのデカいビル群に圧倒される。


 俺の転移した異世界は木造や石造の平屋が多く、高くても二階までの建物しか無かった。いや、確かに大聖堂はデカかったが、それとは別に中身までしっかり役割が詰まったような重厚感をこの周りのビルから感じる。


 後ろから出て来る人が俺を見ている気がするがそれよりも何だこの都会は……。さっき出てきた建物もこれ何メートルくらいあるんだ?上を見上げ過ぎて首が痛くなってきた。


 それに俺の転移前住んでいた場所は田舎で、異世界よりかは三階建てとか四階建てとかはチラホラあったが、これほどまでの都会には行ったことが無かったため、それも合わさってかしばらくぼけーと眺めていた。


 これじゃあ完全にお上りさんじゃないか……なんか段々と恥ずかしくなってきたな。


「ふぅ……これからどうすっかなぁ」


 当面の目標は俺の実家があった静岡を目指すことになる予定だが、そのあとの予定は全部壊れたかもな。まさか俺が住んでいた地球がこんなことになっているとは思ってもみなかった。


 というかそもそも俺お金持ってねぇ。てっきり転移した際に居た実家に戻されるのかと思っていたが、全くの見当違いで洞窟に飛ばされた。交通費もネカフェ泊まる金も無い……。学生時代は数千円あるのに「俺一文無しだわ」と冗談で言っていたが、マジで一文無しを経験することになるとは……。それにここは何県だ?いや、日本語が通じたから勝手に日本だと思っていたが、ダンジョンやらの被害でもしかしたらどこかの国と併合した、なんてこともあり得るかもしれない。そもそも島国だ、もし島内でダンジョンが多数現れたら逃げ場はどこにも無い。


 ダンジョンの影響は凄まじい、大抵が土の下に出来ることから気付いた時にはもう遅いみたいなことになりやすく、実際異世界ではダンジョンが原因で一国が滅びたりした歴史がある。土地の管理方法や地質学もかなり進んでいて、それらはダンジョンによって発展してきたということを聞いたことがある。それくらい対策されているということは、ダンジョンにはそれくらいの影響力があるということでもある。


「ていうか俺、こっからアルミ缶拾いかぁ?」


「あれ、さっきのおじさまじゃないですか。大丈夫ですか?」


 建物の横のベンチで一文無しから抜け出す方法を考えながら途方に暮れていると、自動ドアから出てきた少年に声を掛けられた。彼の衣服は砂に塗れていて顔に傷が出来ていたのにも関わらず、こんな萎れたおっさんの心配してくれるなんて……なんて優しい少年なんだ。


「おぉ……やぁ少年」


「なんかテンション低いですね」


「はは……まぁ、ね。ところでなんか割りの良い仕事知らない?」


 俺はこの世界での働き方を知らない。そもそも俺が飛ばされたのは働くのが嫌過ぎて大学卒業後ニートしてた時。しかも高校はバイト禁止だったし、大学は近所の大学通ってたからお金もほとんど要らなかったからバイトして無かったし……。俺は異世界でのお金の稼ぎ方は知っているが、この世界でのお金の稼ぎ方は微塵も知らない。そして電話する金も無いので少年にすがるしかなかった。


 正直推定年下にそういうの聞くのは俺的にはダサいが背に腹は代えられない!このまま無一文で人生終わりたくない!


 まぁ今の住所不定の状況でもバイトは出来るだろうが先ずは住居だ。そのためには金が必要だし……。ここに来て金に悩まされるとは、異世界じゃ魔物の素材とか報酬金とかで金持ちの部類だったのになぁ~。


「えーっと……おじさまはダンジョン探索者じゃないの?」


「ん?違うぞ」


「え!じゃあなんでダンジョンの中に?それにあんなに強かったのに」


「あんなに強いって言ってもたった一回見せただけじゃないか」


「うーん…探索者じゃないんなら…いや、絶対おじさまの実力なら雇ってくれる人居るって!とりあえず一緒にダンジョン協会に行ってみない?なにか仕事が見つかるかもしれないよ!」


「分かった。俺は松本英樹まつもと ひできだ」


「英樹さんですね!僕は柿崎透かきざき とおるです」


 ダンジョン協会―――少年・透が言うにはこの世界にダンジョンが現れた際に、自衛隊などよりも先にダンジョンに赴き、その制圧を行った一団らしい。


 透に連れられ、あの建物から数キロ離れた場所にあるダンジョン協会に足を運んだ。一見するとただのビルだが、ここにはダンジョンのエキスパートたちが集っているとのこと。


 自動ドアを通り中に入ると奥のカウンターに居た受付の人と目が合う。その人はニコッと笑うと。いや、瞬間的に俺の横に移動しただけなのだが速過ぎる。気配だけしか追えなかった……。というか一受付の人が持って良い力じゃない気がするんだが。


「あら?まさかアナタ眼で追えちゃいました?デスクワークで身体が鈍ってるのかしら?」


「いや、完全に消えるならまだしも、ただの高速移動なら気配だけを読めばなんとか……」


 その気配が追えるかはまた別問題なのだが実際そうだ。多分転移の魔法とかはマジで瞬間移動してるから追跡は無理だろう。いや、まぁ魔力の残滓とかを辿って時間を掛ければ追えるのだろうけど……って、また余計なことを考えてるな。


「ジュース飲みます?自販機のおでんって私好きなんですよね~」


 受付の彼女はポケットからおでんと書かれた缶を取り出して俺の顔に近付けてくる。


 なんか苦手なタイプだな。


詩多々芽したためさん!毎度ビックリするから止めてくれませんか?」


 俺が若干引いていると横から透が止めに来た。


 したため?って言う名前なのか……どうやって書くのだろうか。


「あらごめんなさい……でも、他人の反応が面白くて止められないのよ~柿崎かきざき君の反応は特に面白いし!ところでアナタ見ない顔だけど……新人さん?」


「あぁ、この人はですね」


「俺は松本英樹だ。探索者ではないから見ない顔なのはしかたない……今日は仕事を探しに来たんだが」


 正直世界から見ても俺は見ない顔だろうな。この場合あまり長く喋るとボロが出る可能性がある。まだこの世界での俺の立場が分からないからな。 


「詩多々芽さん!この人は探索者ではないのにかなり強いんですよ!実際僕を助けてくれましたし」


「確かに私の移動も見えてたみたいだしね!でも柿崎君の推薦でも、先ずは実力を見て見ないことには。とりあえず私について来て」


「またあの移動……」


「正直僕も苦労するんですよね……あの人ほとんど痕跡残さないし」


 再び彼女の残滓を追い一室に辿り着いた俺たちは彼女に説明を聞かされる。その部屋は殺風景だったが何重にも閉じられた扉の奥に鎮座していたので、なにか仰々しい雰囲気を醸し出していた。そして更に部屋の奥には洞窟の入り口が存在していた。


「ここはね、ダンジョン協会が設けた探索者の最終試験場なの!つまりこのダンジョンに潜って攻略出来たら晴れて探索者ってわけ。じゃあ準備は良い?」


「え、いきなり?!なんか、こう……手続きとかって」


「いい?私たち探索者はただでさえ人手が足りないの!それなのに人を選んでたらキリが無い……そこで私たちダンジョン協会は考えた。実力だけを見る!身分や年齢、ましてや性別なんて関係無いの!強ければ良い!で準備は?ダンジョンを突破し探索者となり一財産を築く準備は?」


「準備は出来てる。とにかくやってみるよ」


 勇者だった頃の金策はダンジョンだった。そうだ、得意じゃないか。俺が元の世界に求めてた生活じゃないが金が無ければ何も始まらない。逆に良かったかもしれないな、なんせあの世界での出来事が無駄に終わらない。ただの妄想で終わらないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る