幽閉O~霊祓い師大道寺林太郎3~
大谷智和
1
地上12階。エントランスのすぐそばには子供たちが遊べる小さな公園のあるマンション。かつて子供たちの元気な声がこだましていたであろうこの場所も今ではすっかり閑散としている。入居者もすっかり減り、周囲に作られていたスーパーマーケットも利用者の減少を理由に閉店してしまった。あるとすれば寂れた個人商店かもはや営業しているのかすら怪しいパチンコ店くらいである。そんな立地のこのマンションにわざわざ住もうと考えるような物好きは今時存在しないだろう。
不動産会社の部長を務める鈴木は部下の江田と共にこのマンションに来ていた。周囲には何もないということは知ってはいたが現地に来てみないとわからないこともある。
「・・・しかし本当に廃れているなあ。本当に札幌圏なのか?」
鈴木は江田に質問した。
「はい。しかし3年ほど前から妙な噂が立って以来入居者は減少の一方でして」
「妙な噂?」
江田は鈴木の耳元に口を寄せた。
「・・・出るっていう噂ですよ」
その言葉に鈴木は懐疑的だった。
「江田、お前その噂本気にしているわけじゃないよな」
「私も眉唾物だと思っています。なにしろその情報源がネット掲示板ですし」
「全く・・・そんな嘘か本当かもわからないものに右往左往するなんて、日本人も情けなくなったもんだな」
鈴木はため息をつきながら持っていた水筒のお茶を飲んだ。
「でもここはうちの再開発に必要な場所だ。じきに新しいショッピングモールを作ってここいらを今以上に発展させるんだ」
「そうですね」
「そうすればまたこのマンションの人気も上がるだろう。もし成功すれば、お前のボーナスも倍になるからな」
「はい」
二人はマンションの敷地に入った。辺りには暇を持て余した老人がベンチに腰かけており、子供用遊具も錆びついてろくに遊べそうにない。
「昔は、みんなここに希望をもって住んでいたんだ。それなのに・・・時の流れっていうもんは残酷だなあ」
「はい」
「近くにスーパーがあればもう少し住みたい人も増えるというのに、立地としては申し分ないのだがな」
そう言って鈴木は踵を返した。すると彼の額に何かがぶつかった感触を覚えた。誰かが我々を煙たがって石でも投げつけてきたのだろうか、そう思いながらも前に進もうとすると再び同じ感触を覚えた。
「部長、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。とにかく会社に戻ろう」
だが今度は江田も何かにぶつかった。その拍子に持っていたペットボトルをおとしてしまう。
「お、おい江田、お前もか?」
「というと・・・部長も」
江田は試しにペットボトルを前方に投げつけた。するとペットボトルは二人がぶつかった場所辺りで何かにぶつかり、そのまま地面に落ちた。不思議に思って江田は目の前に手のひらを当てると何か壁のようなものに塞がれている感触を覚えた。
「・・・部長、まさか」
「これが・・・出るって噂の・・・いや、きっと疲れているんだ。江田、明日は有給取って病院に行ってきなさい」
「いえしかし」
「ふん、これでも俺は霊感は無い方だ。それにホラー映画もそこまで怖くないし」
そう威勢を張って鈴木は前に進もうとする。だがまたしても見えない壁に塞がれて出ることが出来ない。すると江田が突然大きな声を上げた。
「・・・ぶ、部長!後ろ!」
鈴木は振り返った。そこには得体の知れない人型の何かが佇んでいた。
「・・・オマエカ、スズキ」
鈴木は悲鳴を上げながら江田を置いて一目散に逃げだした。無我夢中だったので彼は江田がどうなったのか気にする暇もなかった。しばらく逃げてようやく「何か」を振り切ると鈴木は江田を呼んだ。
「江田ぁ!どこだぁ!俺を置いていくなあ!」
すると目の前に先程ベンチに座っていた老人を見つけた。鈴木は藁にも縋る思いで老人に声をかけた。
「す、すみません、眼鏡をかけた若い男を見つけませんでしたか?」
だが老人は返事をしない。
「クソ、一体全体どうなってるんだ」
すると老人が突然立ち上がり、鈴木の首根っこを掴んだ。
「ユルサナイ、スズキ」
老人は先程の「何か」と同じような口調で鈴木に話しかけた。
「た・・・助けてくれぇ!」
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