あの日。ガラスに残る小さな手。

綾川のゑ花

第1話

ショーウィンドウにつく小さな手形。

あぁ、キラキラ。かわいい。おとぎ話に出てきそう……。

毎日見たって飽きないくらい素敵。

背伸びしないと見れないショーウィンドウ。

届かない服を見つめる。

「大きくなったら絶対着るの!」自慢げ話している私。

あぁ、早く大人になりたいな。

あの服をきるの!絶対着るの!

ツインテールを揺らして、くるくる回って、私の歩く場所はどこでも舞台。


小学校で、ツインテールってお子様だよな。って話を聞いた時。もうツインテールをしなくなった。


中学校で、自分のこと下の名前で呼ぶのまじぶりっ子だよね。それを聞いた時、私って言うようになった。


高校で、もうフリルとかレースとかリボンとか若すぎて着れないよね。それを聞いた時、あぁシンプルな服着ようって思った。

大学には、当たり障りのない服装で行った。

平均的な私。

これでいい。これがわたし。

シンプルザ・ベスト。

これが座右の銘。


公園で、1人でターンをしている少女を見かける。ツインテールで、リボンだらけでレースな服。

正直。あぁ、もうできなくなるよ。そう思った。


そう思った自分に嫌気がさした。

私も好きだったじゃん。なんで、こんなふうになってるの。

フリルか……もう長らくきてない。


家に帰りアルバムを開く。

あぁ、私の好きな物。

かわいい服。可愛い髪。あぁ好きなものが詰まってる。


どこで間違えたの?

もう戻れない。

もう変われない。


でも、あの少女は。

このまま貫いて欲しい。

お願い。私の分まで自分の趣味を。


可愛いドレスを買う。

変だと思われてもいい。

公園で少女に声をかける。

「服かわいいね。お姉さんも昔好きだったの。この服昔憧れてたの。あなたに来て欲しいな。私の分まで。」

「この服かわいい!絶対大人になったら着るね!」

その言葉に、全てが許された気がした。

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あの日。ガラスに残る小さな手。 綾川のゑ花 @ayano_yume

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