第22話 第十三章:同じ未来を描く日(前編)

冬の朝。

美咲は、仕事で使っていた小さなノートをめくっていた。

中には日々のメモとともに、ふとした隙間に、優の言葉が書き留められていた。


“言葉にできない想いは、誰かに伝えたい想いなんだと思う”


その一文を見て、美咲はふとペンを取る。

新しいページの上に、静かにこう書いた。


“もし未来に、あなたと暮らす部屋があるなら――

その窓には、朝の光がちゃんと差していてほしい”


一方、優は年末年始の帰省中、ふと立ち寄った書店で、暮らしの雑誌を手に取っていた。

表紙は「ふたり暮らしの間取り特集」。


「……べつに、誰かと住む予定なんてないのに……」


小さく笑いながら、雑誌をそっと戻そうとしたそのとき、

画面に通知が入った。


【From: Misaki】

「もし一緒に暮らすなら、何県がいい?」


そのメッセージを見た瞬間、胸の奥がふっとあたたかくなった。


第十三章:同じ未来を描く日(後編)

春。

ふたりは、お互いの住む場所を行き来しながら、

「これから」の話をすることが増えていった。


「一緒に暮らすって言っても、籍を入れるわけじゃないし、

家族としてどう扱われるのかとか、現実的な問題も多いよね」


「うん。

でも、“制度の外にいる”ことに怯えるより、

“あなたと暮らしている”って事実を信じていたいって、最近思うんだ」


ある日、優が切り出した。


「……もし来年、私が異動できたら、一緒に暮らす部屋、探してみない?」


その言葉に、美咲は目を丸くしてから、ふわりと笑った。


「……ねぇ、それ、プロポーズに聞こえるよ?」


「えっ、そんなつもりじゃ……いや、ちょっとあったかも」


「じゃあ、受け取ってもいい?」


「……うん。よろしくお願いします」


ふたりの未来は、“恋人”という言葉の上には築かれていない。

けれど、互いの人生に、確かに「あなたが必要だ」と言える絆でできていた。


第十四章予告:「わたしたちだけの名前」

ついに始まるふたりの同居生活。

それは新しい幸せの形であると同時に、

世間と、自分たちの中にある「普通」への問い直しの時間でもある。

名前のない関係に、ふたりがつける“わたしたちだけの名前”とは――?

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