座頭
長万部 三郎太
座頭と申します
それでいて剣の腕が立つというと『物語』が放っておくはずがない。
昔々、ある宿場町に一人の按摩さんがいた。名を
昼間は按摩を生業としていたが、夜は違った。
盲目の蔦之市にとって昼夜は関係がない。
町民が寝静まった頃、静かに目を覚ますと相棒とともに闇夜の町へと繰り出した。
彼は夜ごと宿に忍び込み、旅人の荷から少しずつ金品を抜き取っていたのだ。
このように決して騒がれない程度、かつ確実な稼ぎを続ける蔦之市であったが、
ある晩あろうことかお尋ね者の辻斬りと鉢合わせてしまった。
「こんな夜更けに出歩くとは、ただの按摩じゃなさそうだな……。
その荷はなんだい?」
「へへっ、あたしゃお前さんの顔も名前わかりゃしねぇ。
この場は二人とも黙って左様ならばってことにはできませんかね?」
そもそも辻斬りとは人斬りこそが生き甲斐の外道。盲目か目明きかは関係がない。
男が静かに刀を抜くと、蔦之市は荷を置いて相棒の杖を構えた。
「盲目の剣? お主……」
「座頭と申します」
「……フン、止めた。
お主と斬り合うほど拙者は死に急いではおらぬ」
男は刀を鞘に仕舞うと足早に立ち去った。
蔦之市は荷を拾い、ふうっとため息をついてこう呟いた。
「座頭はただの階級。あたしの名前じゃ御座いません。
あの侍が無知で良かったなぁ、相棒」
蔦之市は一介のコソ泥であり、剣客ではない。
そのうえ相棒も仕込み刀ではなく、ただの杖であった。
(ハッタリ命拾いシリーズ『座頭』おわり)
座頭 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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