学内バトルと暴かれる真実

第18話 模試という戦場

「時間になりました。筆記用具を置いてください」


教師の合図と同時に、教室に張り詰めていた緊張が一気に緩む。

静寂を切り裂くように、ペンを置く音、机に突っ伏す者、深いため息。

学年全体で行われた一斉模試が、ようやく終了を迎えた。


「ふぅ……終わった……」

周囲の生徒たちが口々にそう漏らす中、天城悠真は無言のまま、配布された問題用紙と解答用紙を丁寧に重ねていた。


模試――それは単なる学力を測る場ではない。

この学園では、戦闘技能と並んで学力もまた、生徒の評価に直結する要素。

その成績は、学内ランキングにも影響を与える。


「さて、どうなるかな……」

悠真はそう呟きながら、自席に腰を沈めた。


彼にとっては久しぶりの“見せ場”だった。



数日後。

掲示板の前は騒然としていた。


「おい、見たか!? 一位、天城悠真だってよ」

「えっ、誰それ? 聞いたことなくね?」

「俺、同じクラスだけど……マジで? いやいや、絶対ミスだろこれ」

「ていうか理央様じゃないのか!?」


ざわめきの中心にあるのは、学年上位者のリスト。

そこには確かに、1位:天城悠真(2年C組)という名前が刻まれていた。


2位:白雪理央(2年C組)

3位:星乃美羽(2年A組)

4位以下には、これまで常連だった名だたる秀才たちが並ぶ。


だが、1位だけが――異質だった。


「……やるじゃない」


白雪理央が、表情を変えずにそう呟く。

一見、いつもと変わらぬ無表情。だが、目の奥が微かに揺れていた。


彼女は誰よりも知っている。

悠真の力を――彼が、過去にどれほど理不尽な扱いを受けてきたかを。


(この結果は偶然なんかじゃない。彼は、確かに実力を持ってる)


理央は再確認するように目を閉じた。

「私も……負けてられないわね」


一方で、星乃美羽はと言えば、明らかに顔を引きつらせていた。


「……嘘でしょ。あいつが一位……?」


嘲って切り捨てた“過去の男”が、自分の遥か上に立っている。

それは、美羽にとって想像すらしたくなかった“現実”だった。



「なあ、天城って……前はあんなに目立たなかったよな?」

「陰キャだったのにな。なんで急に?」

「まさか、チート使ったんじゃ……」


教室の片隅で、声を潜めるように囁かれる陰口。

しかし悠真は、それに耳を傾けることなく、机に座ったまま窓の外を見つめていた。


特別な感情はない。ただ――


(これが、俺の“地力”だ)


中学時代、何を言っても信じてはもらえなかった。

努力も、誠意も、結果も。すべて「見下される側の言い訳」だと。


だが今は違う。


ここには――実力だけがすべてを覆す、真っ当な舞台がある。


「悠真」


ふと名前を呼ばれ、視線を横に向けると、白雪理央が静かに立っていた。


「……模試、一位。おめでとう」

「……お前に言われると、何か気恥ずかしいな」

「そう。……でも、正当な評価を得られたこと、誇っていいと思う」


普段は無表情な彼女の言葉に、ほんの僅かに温度があった。

悠真は小さく頷き、答えた。


「ありがとう」


たったそれだけのやり取りだった。

だがそれは、静かに始まる“波”の第一歩だった。


悠真という存在が――学園にとって“異物”であることが、誰の目にも明らかになった瞬間。


そして、それは同時に。


これから彼が、どれだけ“狙われる”存在になるかをも示していた。


(静かな戦争は……もう、始まってる)


悠真はそう呟きながら、窓の外で揺れる紅葉に目を落とした。


次なる舞台――“体育祭”が、静かに近づいていた。

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