第11話 無慈悲な機械に無慈悲な“処理”を
二人の間に流れる穏やかな雰囲気をぶち壊しにするかのように、決勝戦後に優勝者と戦う予定だった前大会チャンピオンが、リングの天井を突き破って降り立った。
かつての名を捨て、完全に感情を失った存在──カイナとツヴァイを生み出した科学者がさらなる才能の誇示のために、今や自らの肉体をもサイボーグへと改造して無慈悲な戦闘用メカと化して戦いの舞台に立っている。
タローはグウェンに「おっと、この続きはこれに勝った後にしましょう。あー、安心してください。私は逃げませんからねー。」と告げて下がらせ、サイボーグの方へ向き直った。
「対象、認識。これより破壊する」
その冷たい言葉が響いた瞬間、サイボーグの腕が変形し、無数のロケット砲が発射準備を始めた。観客たちがその威圧感に飲まれてざわめき、場内に緊張が走った。
観客席の中では、カイナとツヴァイが静かに見守っていた。彼らはアンドロイドでありながら、タローとの交流を通じて心の奥にわずかな感情が芽生えていた。何故かタローが勝つことを願ってしまっている自分に気づいた。
「タロー……勝ってください」カイナは小さく呟いた。
「我々の分析で実力が測れない彼なら、きっとやれるはずだ。」とツヴァイも続けた。無感情のはずの彼らが、今はタローに賭けている。
「さて、感情や命の価値が分からない方にはおしおきが必要ですねー。まずは小手調べです。」
その言葉と同時に、タローの頭上に魔法陣が浮かび上がり、雷撃がサイボーグに向かって放たれた。ツヴァイとの戦いで使ったものよりさらに強力な雷撃だ。だが、サイボーグは全くひるまず、冷静にその一撃を受け止めた。体は震えもせず、その装甲には攻撃の痕跡すら残らなかった。
「まあそんな図体してますから、この程度では効きませんよねー。さて、次は何を使いましょうかねー。」
タローはほんの少し考えを巡らせた。しかし、その間にサイボーグの腕はさらに変形し、大量のロケット砲が完全に発射準備を整えた。
タローの目が鋭くなった。ロケット砲を発射させれば、観客はおろか、この闘技場自体に甚大な被害が及ぶことは明白だった。彼の軽い態度は変わらないものの、迅速かつ冷徹な手段でサイボーグを“処理”する判断を下した。
「おっと、それ以上はさせませんよー。あなたのような不届き者には、これをプレゼントしましょう。」
その瞬間、サイボーグの頭上に別の魔法陣が浮かび上がり、暗黒のエネルギーが渦巻き始めた。彼が生み出したのは、小型のブラックホールだった。それはわずかな瞬間でありながら、サイボーグの巨体を空間ごと飲み込んでいく。
サイボーグはわずかにもがく素振りを見せた後、悪あがきのようにロケット砲を発射したが、ブラックホールの引力には抗うことができなかった。次第に機体は崩れ、放たれたロケット砲共々ブラックホールに飲まれて消滅した。
「やれやれ……生前もろくな人間じゃなかったでしょうね、あれは。」
タローはその様子を見届けると、呆れたように首を振りながら呟いた。彼の声には軽い調子が戻っていたが、その背後では観客たちが歓声を上げ、驚きと興奮の中で彼を称賛していた。
カイナとツヴァイも観客席からその瞬間を見届けていた。カイナの無機質だった顔には微かな安堵が浮かんでおり、ツヴァイも目を細めていた。
「タローなら……必ず勝てると思っていた。」
「ええ、そうですね。あれほどの力とは予測していませんでしたが……」
タローは観客の歓声に軽く手を振り、穏やかな表情を浮かべながら地下闘技場を後にした。戦いは終わり、新たなチャンピオンが生まれた。
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