第20話 聖女精鋭部隊と双子の妹

 ドワーフ城から街に戻る際に、坑道の拡張と門の建設を進めていた父上をひっぺがして同行してもらう…離れたくないと泣くんだもん。

 街に戻ると母上と獣人族族長のピッコアさんに集まってもらい、これまでの経緯を説明してドワーフ族・ダークエルフ族、人間族の人達が移住して来る旨を伝えた。

「あらあら、アキノは随分と無茶をしていたのね」

 母上…口調は優しいのですが、眼が怖いです。

「アマルナ女神が桃の栽培をアビーさんに依頼したんだけど、ジャングルの気候だと難しいらしいんだ。ピッコアさん、街の農園で作ることは出来ないかな」

 ここは、女神案件で乗り切るしかないと僕は判断した。

「アマルナ女神様から直々のご要望という事は、きっと深い考えがあってのものなんでしょう」

 狐人族のピッコアさんが良い感じで言ってくれてるけど、女神が単純に桃が好きなだけだと思うよ。

「頼んでもいいかな?」

「もちろんです。元々獣人族のアビーがお受けしたのですから」

「良かった」

 僕は、肩の荷と母上の怒りの矛先を変えられてホッとした。

「ところでアキノちゃん」

 おおっと、母上のちゃん付けは危険信号です…しかもヤバめです。

「話しにあったエルフ族の聖女候補団ですが、女神様を舐めているんですかね。エルフ皇の観心を得るために行動する、というのは聖女候補としてどうなんでしょう」

「私も、聖女本来のお役目を履き違えていらっしゃるとしか思えません」

 母上に温厚なピッコアさんまでが同調しちゃったよ。

 2人とも笑顔なのに眼が笑っていなくて、こめかみに血管が浮き出ちゃっていますね。

 激ヤバな指令が飛んで来そうですよ。

「界霊の聖女である母さんはこの地を離れられません。ですので、エルフ族の小娘達をここへ連れて来なさい。直々に聖女の訓練を授けましょう」

「母上、話し聞いておられました?エルフ族とダークエルフ族は仲が悪くてですね、この地で相見えるのは時期尚早かと思うのですが…」

「そんな事は聖女にとって何の意味もありません。アマルナ女神様に奉仕する資格があるのなら全力で努力するのみ。種族間のイザコザなどで停滞させるのは不敬なんですよ」

 僕には甘々な母上がこと聖女の事となると、海兵隊の鬼教官に見えるのは何故なんだろう。

「ハッ、了解しました母上。直ちにエルフの森へ急行致します」


「てな訳でさぁ〜時間下さいなんて言ったのに、面目ないよ」

 僕は、ドワーフ王ナダムの執務室のソファーに座って愚痴り中。

「ワシは、アキノにも逆らえない者がいてホッとしたがな」

「お兄ちゃんはマザコンですからね」

 横に座って余計な情報を滑り込ませて来たのは、双子の妹のミレイである。

 そろそろ聖女候補として実地訓練に出る時期だと、母上が同行を許可したのだ。

 僕が無茶しない様に見張る、お目付け役を絶対担っていると思う。

 それでも久しぶりに兄妹で行動出来るのはとても嬉しいし、守り人としても好都合だね。

 ナダムへの挨拶もそこそこにエルフ族の街へと向かう。

 幻影樹もなくなり結界もなくなったエルフの森は、本当に無防備な状態だ。

「すいませ〜ん。エルフ皇にお取り継ぎ願います」

 人間族の子供がこんな所まで入り込んで来たのは初めてなのだろう、エルフ族の人達はかなり動揺して右往左往している。

「おーほっほっ、何の騒ぎかしら?」

 出ました、エルフ族の縦ロール集団…あの笑い声はデフォルトなのか。

 僕が前に出ようとすると、ミレイに押し留められた。

「あなた方をお連れしに来ました、私は界霊の聖女エリザの娘ミレイです。同じ聖女候補ですので、1つ良しなにお願い致します」

「人間族の分際で随分生意気な口を利きますわね。子供とはいえ少しお仕置きが必要ですわね…痺れなさいな」

 縦ロールがミレイに向かって杖を向けると、一歩前に進み出たミレイが片手で弾く。

 縦ロールの隣にいたエルフが、白目を剥いてぶっ倒れた。

「あら?エルフ族の聖女候補は、魔法のコントロールも出来ないのですか」

 いつの間に…ミレイったら怖い子。

「くっ!手加減してあげればつけ上がって、皆さんありったけの魔法を撃ち込みなさいませ」 

 気絶している1人を除いた縦ロール9名が、一斉に魔法の杖をミレイに向かって振る。

 火・水・風・土それぞれの属性魔法が放出された。

 ミレイは自分の前に反射魔法陣を展開させると、威力を半減させて縦ロール達に撃ち返す。

 焦げるわ、濡れるわ、飛ぶわ、埋まるわ、とても賑やかだね。

 焦げたエルフと吹っ飛んでケガをしたエルフに治癒魔法をかけるミレイ…ある意味マッチポンプ的な気がするよ。

 麻痺で気絶したエルフも治癒して起き上がらせる。

 さすがは僕の妹、瘉霊の聖女の資質があると言われるはずだ。

「さあ、もう一度かかって来なさい」

 おや?僕の可愛い妹から何やら不穏な言葉が出た様な気が…。

「もう勘弁して下さるかしら。降伏致しますわ」

 縦ロール達が這々ほうほうの体で詫びを入れると、

「チッ、魔法の実地訓練にもならないじゃない。もっと根性入れろや」

なんだろう、ここにも海兵隊の鬼曹長がいらっしゃるみたいだ。

 すっかりブルった縦ロール達は、ミレイの前に直立不動で整列する。

「番号!」

「1ですわ、2、3、4、5、6、7、8、9、10」

「ですわなどいらん!次言ったら、瀕死の状態にしてから丁寧に治癒してやるからありがたく思え」

「イエス、マム」

「では、エルフ皇の皇宮に案内せよ」

「わかりやした姐さん」

 5歳女児の後ろに縦ロール10名が付き従うってシュールな絵面だわ。

 言葉遣いも若干変わってるし。


「ごめんね、エルフ皇。僕もこんなに早く戻る事になるとは思わなかったんだよ」

 合わせる顔がない僕がミクルに詫びると、

「いや、構わんよ。聖女候補の人間族に会えてむしろ光栄である」

と、大人な対応をしてくれて助かった。

 エルフ皇ミクルは聖女候補ミレイの背後に、気をつけの姿勢で待機するエルフ聖女候補団の面々の豹変ぶりに驚きの表情を隠せない。

 そりゃそうだ、エルフ皇の前で発言の許可も得ず騒いでいた縦ロール共が、一言でも余計な口を利いたら命がなくなりそうな緊迫の表情でいるんだもの。

「それで不躾なお願いなんだけど、この聖女候補10名を訓練のためにお借り出来ないかな」

「聖女になるのに訓練が必要なのか?」

 エルフ皇が、そんな話は聞いたことがないとばかりに尋ねる。

「畏れながら申し上げます。聖女とは、アマルナ女神様に奉仕する能力と信仰心を兼ね備えた精鋭部隊であります。故にその能力を磨くための訓練は必要不可欠であります」

 聖女って部隊だったんだ?聖女候補団もあるんだから、あながち間違いではなさそう。

 それにしても、外に出てからのミレイの軍隊化が著しい気がするよ。

「その訓練でエルフ族に聖女が誕生するのなら、反対する理由などない。存分に鍛えてやって欲しい」

 あー!ここぞとばかりに、今までの鬱憤を発散しまくりのエルフ皇だ…気持ちは僕も良くわかる。

「ありがとうございます。ではさっそく、コイツらが焼け野原にした畑を修復させます」

「それは別に構わんがエルフの森も結界がなくなったので、魔物が頻繁に出没する様になっているから注意してくれ」

 エルフ皇の忠告を聞いたミレイは口角を上げて笑みを浮かべると、

「聞いたかお前達、訓練に恰好なお友達がいるらしいぞ。存分に闘え!安心しろ四肢欠損くらいの傷なら、私の治癒魔法の人体実験…いや効果で元通りにしてやる」

などと、マッドサイエンティストチックなセリフをのたまった。

「ハイ姐さん!畑を完全修復し、魔物を駆逐してやります」

「よーし、その意気だ。いい面構えになって来たじゃねえか。ところでその縦ロール、訓練には邪魔だな」

「すいません。すぐカットします」

「よし、ベリーショートでエルフ耳をフルオープンなんて似合いそうだな。お兄ちゃんカットよろしく」

 なんで、ミレイが僕とエルフ皇の好みを知っているんだろう。

《散髪スキルを獲得しました》

 おかげで新たなスキルを得た事だし、ドワーフ職人にカットバサミを作ってもらおうかな。

 僕は形から入る5歳児だからね。

 

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