桜はなぜ散るのか
藤橋峰妙
第1話
吐き捨てた言葉だった。
ぼんやりと薄れた視界の先に、大人たちの姿が見えた。
いつも綺麗に手入れを施されていたハゲ校長の盆栽が、何かの力に引きつけられて、悲鳴を上げながら床に散らばった。
パラパラと舞い始めた窓の外。硝子窓にパタパタと水の礫がぶつかり始める。
今日の夕方は雨の予報だったな。
ガン、と誰かの膝が机にぶつかった。先生が机に脚をぶつけた音だった。痛がる様子はない。
――あーあ。
咲良は高台の公園の桜を、脳裏の奥に思い浮かべた。
八重咲きの豊満の桜の花びらが、頭の底に敷き詰められていくように、散る。やがて咲良もそうなっていくのだ。
誰でも良いから、このこころの、ぽかりとあいたドーナツの穴のような空白に、何かを満たしてほしい。そう叫びたくても、咲良にはできなかった。
「あなたに、何が分かりますか!」
だから、その言葉を誰が叫んだのか、はじめのうちは分からなかった。どうせと決めつけた心が、痺れて、自分だけ一人取り残されていた。
言葉は、咲良に向けられていなかったのに、咲良をぎゅっと掴んでとびこえた。
後から遅れて脳が働いた。心が締め付けられた。薄ぼんやりとした視界が、なぜか滲み始める。なぜだろう。鼻の奥がツンとした。
桜は散るだろう。咲良ももう散りかけている。それを止めるすべはないのに。それを惜しむ人が、いるのだろうか。
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