小説家にさえなれればいいわたしと、わたしさえいればいい彼女。
さーかい
第1話 小説家にさえなれればいい。
4月25日。
そういえば今日はライトノベルレーベル、GF文庫新人賞の最終選考発表日だったと気づき、わたしはスマホを操作して選考のページにたどり着く。
<三次選考通過(順不同)
『××××』天宮マユ>
そこには他にも5作品ほど名前が連ねられていたが、本名の
一次選考発表から何の連絡もなかったため察してはいたけれど、しかして三次選考通過。
つまり、またしても最終選考落ち。
無機質なフォントに、わたしはつい乾いた笑みを浮かべる。
約500作品のうちの5作に選ばれた、という愚かな解釈も出来るだろうが、わたしはそれが全くの意味がないものだと知っている。
いや、意味がないとは言葉足らずか。
上位何パーだなんだと考えて、自分のメンタルの安定を促せる人ならば、それも有効な一打なのだろう。しかしわたしはそうではない。いくら最終選考に残ったって、いくら上位何パーセントだとして、その結果小説家になれないのならそんなものに価値はない。そんなものはないのと同じだと、そう思ってしまう。
だからわたしにとって、その考え方には意味がない。
これが、真に正しい答え。
「……はあ」
嘆息。
いつもなら、わたしのかわりに受賞した作品と作者、編集部のコメントを確認するところだが、今日はなんだかそんな気分になれない。
……小説書かなきゃ。
わたしはスマホを閉じ、ふらふらとした足取りでパソコンの前に座ろうとして――スマホが震動した。
「……」
ぱっとスマホの液晶を確認すると、そこには一つのメッセージ。
『まゆ、今日の講義は休み? 偏頭痛? 体調でもわるい? だいじょうぶ?』
疑問符ばかりのそのLINEに釣られるように、わたしは部屋にある壁掛け時計を見やる。
『7時53分』
ああ、そうか。この時計、先週止まってそのままにしていたんだった。
ともあれ、現在時刻などどうでもよかった。
今日は一限から講義があり、その一限は朝9時からの開始。
そして、今こうして
けれどやはり、そんなものはどうでもよかった。
LINEのメッセージに既読もつけず、わたしはスマホの側面にあるボタンを長押しして電源を落とすと、ベッドへ振りかぶって文明の利器をぶん投げた。
刹那、肩がピキっと電流が走ったかのように痛む。
……あ、攣ったかも。
「……いったぁ~」
わたしはしばしその場で悶える。やがて痛みが引いていくと、いつの間にか涙目になってしまっていた目をこする。
なにやってんだか。
慣れないことをするからだとおもう。
人には誰にだって、向き不向きというものがあるのだ。
わたしはそれを、十二分に承知している。
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