第63話 four counts
「うわあ! 超ステキです!」
多彩ちゃんの目がキラッキラに輝いていた。
「はあ……お兄ちゃんステキすぎて心室細動起こしそう……」
「ははは、AEDの場所を確認しないとな」
OUTBEATBOX全員が、黒いスーツに身を包んでいた。この日のために用意したものだ。
スリムがその場でぴょんぴょんとジャンプする。
「すごいっすねこれ! スーツなのに動きやすいです!」
「特注の伸縮素材で作られているからな! 激しいドラミングにもびくともしないぞ!」
ボジオは白い歯を見せる。このスーツはボジオの親父さんの知り合いに頼んで作ってもらった特注品だ。プロのミュージシャン御用達らしい。着心地は確かに良い。俺はパイプ椅子に腰掛ける。
「ふう……」
心配は尽きなかった。
本番2週間前に大幅に曲の構成を変更して以来、4人同時に叩く機会は無かった。
リハで軽くでも合わせられるかと期待していたが、それも叶わなかった。
本番まで残り30分。不安は俺の頭の中でぐるぐると黒い渦を巻いている。
「玄」
顔を上げると、ピエールがいた。
「……大丈夫?」
大丈夫だ。そう言葉にする前に、ピエールの影からサイモンが顔を出す。
「ひょっとしてネガティブモード入ってんのお?」
「そ、そんなんじゃ」
両肩に手が乗った。ボジオだと重さでわかる。
「大丈夫だリーダー。俺達は上手くいく」
強い言葉だった。成功を何一つ疑っていない。
「玄クン、気合い入れましょうよ!」
スリムは天高く腕を突き上げる。
俺は立ち上がる。 右の拳を前に突き出す。他の4人も突き出す。
「ここまでついてきてくれてありがとう」
4人の強い視線が俺に集まっていた。
「SNOW JAM最終審査まで残れたのはみんなのお陰だと思う。何せ、北海道屈指のドラムがうまい順に4人も来てくれた」
「一番は俺だけどね~」
「いや、俺だよ」
「こらこら、その話は後にしろ」
「いっそステージの上で決めちゃいましょうよ」
全員の顔に笑みが漏れる。
4ヶ月前に顔合わせした時は、ここまで来れるとは思ってもいなかった。奇跡という名の細い糸の上を、なんとか落ちずに進んでこれた。
「俺達は頂点を獲るのに相応しいバンドだ。そう思うだろ?」
4人の表情が引き締まる。
「金賞獲るぞ!」
「おう!」
全員の拳が打ち合わされる。
もう、負ける気がしなかった。
「OUTBEATBOXのみなさん! ステージ袖までお願いします!」
スタッフが呼びに来た。
俺達は決戦のステージまで向かった。
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