第17話 発明家
橋山はその日、ネリタ山に展示されている悪鬼の妖石を改めて観に来ていた。
やはり大きさと言い、この淡い光りと言い、牛鬼の物よりだいぶ力が込められているのが感じられるな。こう言うのを名匠が鍛錬して妖刀が出来上がるんだろうな。
橋山がしみじみとそう妖石を見つめていると。
『流石は伝説の悪鬼の妖石ですねぇ。これだけの内包量があれば、かなり大きな物を動かす動力としても使えそうなんだけどなぁ。』
いきなり隣からそんな物理学的な発言が飛び出して来たのである。ギョッとして見てみると、そこには眼鏡を掛けてボサボサ頭をした若者が、妖石を虫眼鏡で拡大しながら観察していたのであった。
『お兄さん。今動力と言ったかい?』
『はい?ええ、言いましたけど?』
『この悪鬼の妖石を何かの動力に使えるって考えてるのか?』
橋山がそう質問すると、青年は眼鏡をクイッとしながら自慢気に言うのだ。
『ええ!勿論です!これだけの凄まじい魔力が込められている妖石ならば、大きな乗り物の動力として間違えなく使えると思います!大空を飛ぶ事も可能だと私は思いますね!』
おいおいおい。何だこいつは…とんでもない事を言い出してくれてるぞ?
その青年が自慢げに語る言葉は、橋山が求めていた事そのものであった。魔道具の動力として妖石を使うと言う。
『おい、お兄さん。あんた一体何者だい?』
『僕ですか?僕はエドゥで発明家をしております、平野川現代と申します!今日はこの悪鬼の妖石を見に遥々エドゥからやって参りました!』
平野川…現代…だと?まるでどっかの発明家みたいな名前じゃねぇか。
その既視感に橋山は目を丸くしていた。
『エドゥって言うと、将軍様のお膝元だよな?』
『ええ!そうですね。そのエドゥからです。旦那さんは地元の方ですか?先程から熱心に妖石を見ておられましたが。』
『ああ、俺はネリタの者ではなくて、東のツバキの方から来てるんだ。』
『ああ!それはそれは遥々と。ネリタ山へは参拝に?』
『いや?行商のついでにな。この妖石をもう一度観てみたくてよ。しかし驚いたね。あんた発明家かい。』
『まあ、自称と言う奴ですけれどもね。未だに大きな発明を成した事はありませんから。』
青年はそう言うと頭をポリポリと掻いていた。
『まあ乗り物の動力になるって言うのは一気に飛躍し過ぎてる気がするが、妖石を何かの道具の動力には出来ると思うかい?例えば竈門代わりに簡単に火を付けられるような生活道具とかよ。』
『竈門代わりになる生活道具としてですか…可能だとは思いますよ?ただ未だ解明されていない魔法の理論を厳密に紐解く必要はありますけどね?それさえ出来たら何でも作れると思います!僕は今それをやっている最中ですので!』
『お兄さん!魔法の理論を研究してるのか!?』
『はい!しておりますよ。余りにも曖昧なこの魔法には必ず法則と理論がある筈ですからね!僕はそれを必ず解明してみせます!』
おいおいおい。遂に天才を見つけちまったんじゃないのか?こいつは凄い奴だぞ!!
橋山と平野川はその場で意気投合をし、魔法の理論を話し合いながら参道の方へと向かって行った。
『なるほど…術式ですか。しかし魔法と言うものは想像して魔力を込めると発動する物ですからね。術式と言う概念では無いと思うんですよね。ただ!それを妖石を通して具現化する事は可能だと思うのですよ!現に妖怪の力を利用した妖石付きの武器がある訳ですからね?それと同じ要領で妖石へ炎を出すと言う命令を出せれば…。』
『俺の言ってる魔導コンロは出来上がるって訳か。』
『はい!その通りです!いや!しかし橋山さん!貴方の想像力は素晴らしいですよ!何故そんな発想が生まれるのか!僕は感動しております!!』
いや、全部元の世界の受け売りの知識なんだけどな?笑
『ああ、すまん荷車を預けてあるんだちょっと待っててくれ。』
橋山はそう言うと預けておいた荷車を引き取りに行った。
『ややややッ!?何ですか!?その荷車は!!え!?どうなっているんですか!?ここがこうで?これが?なんと!!』
すると、橋山が引いて来たリアカーを見て平野川が大騒ぎを始めたのだ。眼鏡を何度もクイクイとしながらリアカーを観察している。
『これは橋山さんが作られたのですか!?』
『あ?そうだが。中々良く出来てるだろ?乗ってみるか?』
『是非!!乗らせて下さい!!』
橋山はそう言うと平野川を荷台へと乗せて参道を歩いてやったのだ。
『素晴らしいですよ!!橋山さん!!全くお尻が痛くありません!!この重なった板ですね!?これが地面からの衝撃を吸収する構造になっている!』
『凄いな。正解だよ。初見でそれを見破るとはやはり君は天才かもな。笑』
橋山がそう言うと平野川は頭をポリポリと掻きながら照れていたのだが。
『橋山さん!!この技術!!是非エドゥで使わせて頂けませんか!?もちろん!!発明したのは橋山さんと言う事で発表させて頂きます!!』
『あー。それは勘弁だな。これを利用したいなら勝手に使ってくれて構わねぇよ。俺の名前は出さなくて良い。』
『はい!?それでは…盗作になってしまいますが…。』
『ああ、全然構わねぇよ。平野川君の発明って事で発表しちまえば良いだろ?笑』
『それはいけませんよ!!僕にも発明家としてのプライドが有りますから!!』
『まあ取り敢えずこの技術を使うのは勝手だが、俺の名前は一才出さないでくれ。頼むな。』
橋山がそう言うと平野川は何とも言えない顔をしていたのだが、技術の発展の為には是非使いたいと言う事で、自分がある方の荷車を見てそれを元に発想をしたと言う事にするらしい。
まあ俺の名前が出ないのなら好きにやって貰って構わねぇからな。
『いや、しかし本当に勉強になりました!態々ネリタまで来た甲斐がありましたよ!お師匠と呼ばせてくれませんか?』
『いや、勘弁してくれ。笑』
『いやいや!今度是非橋山さんのお宅の方へも足を運んでみたいと思います!絶対に何かもっと面白い物があると僕は思っていますからね!?』
『まあ、うちの方へ来ることがあれば遠慮なく寄ってくれ。面白い物があるかも知れないからな?笑』
橋山がそう言うと平野川は、嬉しそうな顔をして一礼をすると去って行ったのであった。
いやしかし、面白い出会いがあったな。あいつなら恐らく魔道具を開発してくれる筈だよ。
橋山はそんな期待の星に希望を託しネリタを後にしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます