第7話 炎熱の牛鬼
『鬼だと!?』
『嘘でしょ…』
俺とお菊さんが驚愕していると村人は泣き叫んだまま走り去って行った。遠くに見える村は今も火の手が上がっており微かに人の悲鳴や叫び声が聞こえて来ている。
『どうするお菊さん…。』
『いや…逃げないとだけど…村の人達が…みんな殺されちゃう…』
お菊さんはもうパニック状態に陥ってしまっている様で涙を流し震えていた。くそ…どうする。このままお菊さんを連れて逃げる事は可能だが、あの村の住人は間違いなく全員殺される事になるだろう。俺に何か出来る事は…。
戦う事…。
俺の魔法なら鬼に対抗出来るんじゃないのか?
お菊さんは前に言っていた。俺の魔法は将軍直下の軍隊クラスだと。
そう思ったら俺はお菊さんの肩を掴んで言っていた。
『助けに行って来る。』
『へ…助けに?え…ダメ…危ない…』
お菊さんは俺の腕を掴み引き寄せ行くなと言うが、流石に何もせずに見過ごす訳にはいかないだろ。何せ俺には力があるんだからよ。
『お菊さん。ここで待っててくれ。絶対に動いちゃダメだ。いいか?ここに安全な結界を張っていくから。』
橋山はそう言うと手を広げ集中し始める。
すると荷車の周りにまるでバリアの様な淡い光を放つ結界が出来上がるのだ。
『結界?え…なにこれ…。』
『ここに居れば取り敢えず安全だ。俺の魔力で作った結界だからな。いいか?もしもこの結界が消える様な事があったら全力で逃げてくれ。』
『え?それって…』
橋山はそれだけ言うとお菊をその場に残し、全速力で村の方へと走り抜けて行った。
橋山が向かって行くと、村から大勢の人間が散り散りになり逃げている様子が見えて来る。悲鳴が上がり爆発音がすると火の手が上がった。
よし。あそこか。
橋山はその火の手が上がる方向へと全速力で駆け抜けていく。すると建物は破壊されている物があるが、今の所死人は確認していない。
そしてその姿をようやく見つけた。
牛の顔を持ち筋骨隆々とした逆三角形の二足歩行で、全長約三メートルはあろう体躯に。大きく太いこん棒を振り回しながら、野球のノックをするかの様に火球を撃ちまくっている。
なんだあれはミノタウロスか!?
俺はその圧倒的な迫力に思わずたじろいでしまったんだが、それどころではない!牛の化け物がこちらに気がつくと、そのデカいこん棒で火球を打ち込んで来やがった!!俺は慌てて火球を放ち相殺する!!
『危ねぇッ!!いきなりなにしやがんだ!!』
俺がそう叫ぶと牛の化け物はまさか相殺されるとは思わなかったらしく動きを止めていた。
これ今がチャンスだろ!!
俺は手を前に出すと一気に魔力を込めた風の刃を牛の化け物に目掛けて撃ち放った!!
『!?』
すると、牛の化け物は驚き反応しようとしたのだがもう時既に遅し。風の刃は牛の化け物の腹部を通り抜け背後の建物を真っ二つに切り裂いたのだ。
牛の化け物は何が起こったのか分からずにキョロキョロしていたのだが、腹部から身体がズルりと横にズレるとそのまま下半身だけを残して倒れ伏したのである。
おいおい…一撃かよ…。
お前もビックリしたろうけど、俺の方がビックリしてるからな?
橋山が唖然とする中、怪物の倒れ伏した上半身と残った下半身が黒い霧となり霧散していく。するとその場には赤く光るピンポン玉程の石と小さな巾着袋だけが残されたのであった。
『これもしかして妖石か?さっき見たやつにそっくりだが。それにこの巾着袋って…まあ、取り敢えずこいつの他には居なさそうだな?』
橋山は妖石と巾着袋を拾うと、そう呟き来た道を戻って行く。途中お菊が心配している事を思い出し慌てて全力疾走で。
『お菊さーん!倒して来たぞぉー!』
『え!?倒した!?何を!?』
橋山が手を振りながらそう叫び帰って来ると、お菊は素っ頓狂な声を上げる。
『何か顔が牛でよ、どデカい二足歩行のこん棒持った奴が一匹だけ暴れてたんで成敗して来たぞ。』
『顔が牛で…二足歩行って…それ牛鬼じゃないの!?』
『あいつ牛鬼って言うのか?倒したらこんなのだけ残して消えちまったけどよ。』
橋山がそう言いピンポン玉程の赤く光る石を見せるとお菊は悲鳴を上げたのだった。
『橋山さん!?貴方本当に倒して来た訳!?牛鬼を!?何そのデッカい妖石!!』
『え?これデカいのか?さっき見た奴より小さくないか?』
『さっき見たのは悪鬼の奴でしょ!?あんなのと比べないでよ!!普通は大きくてもビー玉くらいよ!!しかも赤いし!!ちょっと待って…頭が混乱してる。』
『後こんな巾着袋も落としたんだけどこれってもしかして。』
すると巾着袋を見たお菊は頭を抱えてフラフラと倒れ込んでしまったのであった。
『とにかく!逃げましょう!村人に見つかったら厄介な事になりますから!』
お菊にそう言われた橋山は荷車を引いて一目散にその場から逃げ出した。
◇◇◇◇
『入ったな…。』
『…。』
取り敢えず村からは大分離れた所までやって来た橋山とお菊は、巾着袋があれなのかを確かめてみる事にしたのだ。すると、巾着袋を荷車に向けてみたら勢い良く吸い込まれてしまったのである。
『え?これ出す時どうするんだ?』
『さあ…知りませんよ。』
『お!出たぞ!』
荷車を出したり入れたりしてはしゃぐ橋山をお菊は呆れた様にジト目で見つめていたのであった。
『橋山さん!!大変な事ですよこれは!!』
『いやでもよ?取り敢えず多分死人は居なかったみてぇだから良かったじゃねぇか。』
『まあそれはそうなんですけどね。はぁ。まさか牛鬼を一撃で倒して来るなんて思ってもみませんでしたよ。それに収納袋にこんな大きな妖石まで持って帰って来て。今頃あの村は何が起こったのか分からずに大騒ぎでしょうね。』
お菊はそう言うと呆れ顔で笑っていた。
陽が落ちる前にお菊の家へと帰宅した二人が、先程あった出来事を両親に説明すると再び大騒ぎになった事は言うまでも無い。
『牛鬼を一撃で倒すとはなぁ。』
『やっぱり橋山さんは凄いわね。ふふふ』
お菊の両親は初めこそ驚愕しては居た物の、橋山ならばそれも納得だと素直に受け入れてしまったのである。それを見たお菊はまた呆れていたのだが。
『取り敢えず誰が倒したかなんて分かりはしないだろうから大丈夫だろ?』
『まあ村の人達はみんな逃げてたんでしょうけど、橋山さんが村の中に走って行くのは見てますよね?』
『ああ…それは確かに見られてはいるかもな。でもみんなパニクってたから詳しく覚えても居ないだろ?倒した後は周りに誰も居なかったからな。』
取り敢えず心配なのは目撃者である。橋山が牛鬼を倒したところなど目撃されてそれを役人にでも報告されると、あの辺一帯で橋山探しが行われる可能性が高い。しかし橋山の見立てでは倒した所は誰にも見られては居ないと言う事で、お菊も取り敢えず一安心していた。
『こう言うのを世に出さなければ大丈夫だろ。』
『それは絶対にダメですね。大騒ぎなります。』
ピンポン玉程の赤い妖石と収納袋を見つめながら二人は意見を合致したのであった。
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