淀み
な。
第1話
雨、降り続く。
空から落ちてきた雨粒は、電柱に、信号機に、或いは高層ビルの外壁に、当たる。
当たる、とそのまま滴って地表へと流れていく。
他の雨粒とその過程で合流する。
合流の過程で流れがたまる場所もできる。
ああ何たる混雑であることか!
悪態をつく。
古い2階建ての戸建ての外壁に落ちた彼は、そのまま地表7メートルを壁伝いに降りていく。
すぐ横には雨樋から垂直に下る塩化ビニールのパイプが見える。
その中では、いくつもの雨粒がまとまって流れている。
外が見えないまま地表へ落ちていく彼らは可哀想だ。
一直線へと地上へ、そのまま排水溝などに流れていくのだろう。
排水溝、なんと情のない響きであることか。
流れながらふと見やると、壁にある窓から家の中が見えた。
窓の中では少女が薄暗い外をぼおと眺めている。
そのつまらなそうな顔たるや。
彼は何も声をかけずにそのまま流れていく。
近づいてくる地表。アスファルトで補装されている。
アスファルトには絶えず雨が降りしきっている。
行き所のない雨はただただ低きに流れるだけである。
彼は、自分もそうなるのだろうと覚悟をした。
地上についたとき、彼はもう彼を失っていた。
たくさんの集合体に紛れた彼は、もう彼ではなくなっていたのだ。
そうして、誰の意志でもない大きな塊は、自然の法則や、或いはほかの、例えば嗚咽を漏らしたくなるような力によって、やっぱり低きに流れるのである。
やがて雨が止んで、日が差し、少女が玄関から外に出る時分には、
劣化したアスファルトの割れ目から、小さな緑の芽が顔を覗かせるであろう。
やあ、こんにちわ!
淀み な。 @plcplrr
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