語らい時に夕闇が迫る

岸亜里沙

語らい時に夕闇が迫る

「テトラポットの中には、人間の死体が埋まってるんだよ」

防波堤に座り、海を見ながら喋っていると、君が言ってきた。

僕は、また君が変な事を言い出したと思い、返事をしなかったが、君は気にせず、話を続ける。

「人柱って言うのか、生贄いけにえって言った方が正しいのか。だけど人の念がこもった物は、凄いパワーを秘めているんだ。だから港を守る為に、テトラポットの中に死体を埋めたんだ。お父さんが教えてくれた」

僕は海を見つめたまま、無言で君の話を聞いていた。

君は話を止めない。

「海って怖いよね。今までどれだけの人が海で死んだんだろう」

水平線に沈む真っ赤な夕陽が目に滲みて、僕は目を瞑った。

だけど君は目を見開いたまま、どこか遠くを見るように話す。

「海は僕たちの故郷。そして墓場なんだ。海の前では、僕たちは無力。消えてしまう」

君が何を伝えたいのか、僕には分からない。

だけど君の目が、哀愁と恐怖を映しているのは分かる。

長い沈黙に耐えかねて、太陽は僕らの前から姿を消した。

辺り一面を、あまりにも脆い闇が支配する。

「さあ、僕らの番だ」

君は立ち上がり、僕に手を伸ばす。

「行こう。海が呼んでいるよ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

語らい時に夕闇が迫る 岸亜里沙 @kishiarisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説