第3話
石造りの遺跡の奥に鎮座していた“それ”は、一見すればただの円柱状の金属塊に見えるかもしれません。ですが、わたくしの目は誤魔化せませんわ。古代魔文明――いえ、“失われし時代”の名残を知る者なら、誰もが驚愕するはず。
自己成長型魔具中枢核──理論上は存在しても、現代においては再現不可能とされている“幻の技術”。それが、目の前に、ほぼ完全な形で存在しておりましたのよ。
「……はあ、なんてすてき。美しゅうございますわ。まるでわたくしのために眠っていたかのような佇まい」
わたくしはレンズ越しに、表面の魔紋と構造層を確認する。魔力の結節点に一致する光脈が、明確な意志を持って“呼吸”しておりましたわ。
「この子……自らを守るために、長い間眠っていたのね。まるで、わたくしと同じですわ」
空気は薄く、ほんのりと鉄と油の匂いが混ざる。それがまた、わたくしの中の技術者魂を大いに揺さぶってまいりますの。
わたくしは腰から工具ポーチを取り出し、《ミゼリ・デバイス》をインターフェースモードに切り替える。次いで、魔力の制御モードを“協調型共鳴制御”へとスライド。すべてがわたくしの手の内ですわ。
「よろしい。起動手順、開始しますわよ」
レンズを通した情報は、すべて脳裏に鮮明に焼き付きます。遺構内に走る光の配列、断線した回路、魔力遮断装置の破損箇所、そして──中央の制御スロットの異常なまでの精度。
わたくしは慎重に、魔力を“挨拶”のように送る。
最初は微かな振動。次いで、鈍い音と共に構造体がゆっくりと浮き上がった。
そして──開眼するかのように、コアが中心から開き、光の柱が天井へと突き抜けた。
「……ふふ。ごきげんよう。わたくしの魔力が、お気に召しましたのね?」
遺跡全体が揺れ、わずかに崩れた瓦礫が音を立てる。だが、恐怖などございませんわ。この反応、制御は可能。寧ろ、期待以上の反応速度。
すると──周囲の魔導機たちが、一斉にうっすらと目を開けた。
「……! これらは……無人式防衛機構!? しかも全個体に個別制御番号が……っ」
わたくしは息を呑む。
魔導工学者としての全知識が、今この瞬間に報われた気分ですわ。完全自律型。意思共有式。旧世界では国家単位の防衛に用いられたとされる、それらが今、わたくしの魔力に“応じた”のですわよ。
その瞬間、わたくしの中に確信が芽生えました。
この地には、かつて国家を支えた“古代の技術体系”が、そのまま眠っていたと。
わたくしが、それを再起動させる唯一の存在だと。
この力をどう使うか。答えはひとつしかございません。
「領地の再建? ええ、もちろんですわ。けれどそれだけではつまらない。これはわたくしの、わたくしによる、わたくしのための革命でしてよ」
見渡す限りの魔導兵器たちが、静かに起動音を鳴らす。その光景はまるで、廃都に女王が君臨したかのようでした。
そうですわ。王都を追われ、嘲られ、役立たずの烙印を押された令嬢が、今、辺境の地で“王”となる。
誰も気づいていない。けれど、これが“始まり”ですわ。
わたくしの自由と知識が、この世界を塗り替えるための、最初の一歩でしてよ。
ああ、愉快。愉快でございますわね。
「リゼ、この遺跡、すべてを“運び出す”手段を考えますわ。今日からここは、わたくしの“研究所”にいたしましょう」
「……は、はいっ……! でも、その、魔導兵器たちは、敵じゃ……」
「わたくしに“忠誠”を示したものに、敵意を向けるなど失礼極まりませんわ。彼らは、わたくしの可愛い“部下”でしてよ」
ふふ、と笑う。そのとき、ちょうど地上からの光が斜めに差し込みました。
金属と魔法の反射で、室内が虹色に染まる。
その光に包まれて、わたくしはゆっくりと右手を掲げた。
「全機、起動許可を下しますわ。“命令受信可能”状態へ移行なさいませ」
全機体が、一斉に起動音を鳴らし、わたくしへと頭部を向けました。
その瞬間、わたくしの心に“確信”が降りてまいりましたの。
これから始まるのは、わたくしによる、わたくしだけの“自由な創世”。
──さあ、王国の皆様、ご覧なさいませ。わたくし、エリス・フォン・グリムヴァルトが、今度は“世界”をお造りいたしますわ。
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