急展開

クリスマスパーティーも、年末のまったりとした日常も、初もうでのお参りも――

どれも想定通りの雰囲気で、穏やかに過ぎていった。


家でも、妹という立場に甘えず、一人の女性としてみてもらえるように、距離感に注意した。

あまり近すぎても「妹」になってしまうし、面倒見すぎても「親」になってしまう。甘えたい・構いたいという誘惑はつらいものだったけど、うまくやれていると思う。


来月にはバレンタインデーがくる。例年までは私一人で手作りチョコを作って兄さんに渡していたが、今年は三人で作ることになると思う。


……そろそろ頃合いかもしれない。想定より、先輩たちとの仲が深まっている。そんな雰囲気は感じないけど、さすがに心の中までは読めない。


今週中に告白しよう。


元よりロマンティックなシチュエーションを作り出すのは難しいとわかっていた。  私にできるのは、兄さんに意識してもらって、真剣な思いを伝えることだけ。


……そう思っていた。もちろん思っていただけではなく、告白の言葉も長年温めてきたものを何度も見直し、修正もした。成功してもしなくても、夕食は豪華にしようと献立を考えていたし、……念のため、告白当日の“安全確認”も済ませていた。



《告白前夜》


 いつも通りの、二人での夕食──とはいかなかった。さすがの私も、目が合うたびに意識してしまう。 だから、気づかなかった。普段なら「どうしたんだ?」と声をかけてくれる兄さんもまた、緊張していたことに。


 ぎこちない空気のまま夕食を終え、私は食器を片付け始めた。

 そのとき、兄さんが少しだけ震えた声で言った。


「結衣、このあとちょっと話があるから、えっと……ここじゃなくて、僕の部屋に来てくれない?」


(え……?)


 一昨日、急いで買った下着のことを思い出してぼんやりしていた思考が、一気に現実へと引き戻される。


「わかりました。洗い物が終わったら行きますね」


(兄さんがわざわざ部屋に呼ぶような話題なんて、そう多くはない。進学のことか、両親のことか……)


「あぁうん、わかった……あー、やっぱ手伝おうか?」


(おかしい。洗い物は私がやるって決めてから、何も言ってこなくなったのに……。それにこの空気、なんだか……分岐点みたいな、そんな感じがする)


「もう、終わりますから平気ですよ」


 実際は、手がほとんど止まっていたけど、無理やり笑顔でそう返した。兄さんは気まずそうにしながらも二階へと上がっていった。


(なんてことない話題なら、それでいい。でも、そうじゃなかったら……今日、勢いでいくしかないかも)


 急いで片付けを終え、私は軽く身なりを整えてから、階段を上がった。


「兄さん、入りますよ」


 扉の前で軽く声をかけてからドアを開ける。


「話って、何ですか?」


 覚悟は決めていたけど、心臓の音が自分でもはっきり聞こえる。


「えっと、その……結衣って、僕のことどう思ってる?」


 一瞬、時が止まったように感じた。

 私は目を閉じて、たっぷり数十秒、考えた末に答えた。


「心から愛しています」


(仕方ない。想定していた流れとは違うけど、ここにきて兄さんに嘘はつけない。

まさか兄さんの方から……いや、先輩たちかもしれない。だとしたら、どういう流れで?)


「やっぱりかー。僕もね、薄々感じてはいたんだよ。えっと、これは言えって言われたから言うけど──美羽からさ、結衣が変なことしないうちに、その気があるなら付き合えって。実は僕から告白しろとも言われたけど……あれ?でも、こういうのって言わないほうがよくない?」


「そ、そうですか……美羽先輩が……。いえ、むしろ納得できました。

 ……それより、肝心なことをまだ聞いていません」


 心臓の鼓動がさらに強まる。

 兄さんが一度深く息を吸って、私を真っ直ぐに見据える。


「正直にいうと……結衣はかわいいし、ちょっと好きになりかけてると思う。彼女だったらいいのにと思ったこともある。でも、妹だからやっぱり問題あるんじゃないかって……。だけど、その……ここで断ると、大変なことになるんだよね?」


(きた! やばい、やばいやばいやばいです……! これって、これって、そういうことだよね!? 顔が熱い、口元が緩む、どうしよう、変な声出そう!ここは冷静に返さないとっ)


「いえ、兄さんのお嫁さんが、二人か三人になるだけの話です」


 言い終えた直後、変な間が生まれた。自分でも何を言ったのかわからず、喉が詰まりそうになる。頬は火がついたように熱く、口元はひくついたまま。兄さんの視線をまともに受け止めきれず、視線を泳がせる。


「え?なんで?? えっと、まぁとにかく──どちらにせよ、やばそうだから……その……結衣、好きです。僕と付き合ってください。」


(ああ、なんて甘美な響き……。兄さんの口から「付き合ってください」なんて……! 一番可能性の低いルートだったのに! 頭の中でその言葉が何度もリフレインしてる。これが、神に愛されるってことなのかもしれない。──でも、それではだめ。ちゃんと“未来”も手に入れないと)


「もちろん、付き合います。……けど、“結婚前提”じゃないとダメです。妹のわがまま、聞いてくれますよね?」


 兄さんが目を丸くして固まる。


「え、それって……すぐ結婚とかってことじゃないよね? さすがに、まだ高校生だよ?」


「できるようになったらすぐです。その間に、お母さんとお父さんも説得します。

 それとも……将来、私を振るつもりなんですか?

 それこそ、大変なことになりますよ?」


 兄さんが少し引き気味に笑って、ぼそりとつぶやいた。


「なんか、雰囲気がいつもと違う気が……こっちが素の結衣?」


 私は目をそらして、頬を押さえた。


「う……その、いまさら“やっぱり無理”とか言われたら…………泣きますからね?」

 

 一瞬、もっと強い言葉が喉まで出かけたが、どうにか踏みとどまった。


「それこそ、いまさらだと思うけど。なんか新鮮でいいかも」


 兄さんが、照れたように笑った。

 その表情を見て、たまらず駆け寄り、兄さんをぎゅっと抱きしめた。

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