交換告白が実るまでpart.6 告白の裏側

 考えてみて、ふと思う。何か、何かとっかかりを知っているような気がして。

 残念そうな栗実さんの顔を直視しつつ、考えていく。


「これが交換告白の真実だと思うんだけどさ……一つ、気になることがあるんだ」


 礼太郎が顔を前に出す。彼も気になるに違いない。だって、彼の推理の中には僕の考えていることなど微塵もなかったのだから。


「……何ですか?」

「どうして、この真実を納得できるの?」


 一つ間があってから、彼女は唾を飛ばさん限りの勢いで話し始めた。


「ど、どうしてって、ちゃんと導き出された答えなんでしょ? そりゃあ、こんな早く真実が分かるだなんて思ってはいなかったんですけれども……言われてみれば、納得ができるなぁ、と」


 その物憂げな発言に、また僕は選択を迫られた。

 彼女の心を動かしかねない一言。秋風さんが少し体を揺らしながら、心配そうにこちらを見つめている。

 ただ、言うべきだ。判断は早い方が良い。


「あのさ! もしかしたら、なんだけどさ。僕達にヒント、出してたよね?」

「えっ?」

「お金の話だよ。グルメ紀行をしているって途中で教えてくれたでしょ?」

「あ、あれはコノハちゃんに情報を知っているかってことで教えただけだよ? 別に……」


 それにしては、あまりにても適格すぎる。あれがあったからこそ、僕達は謎が解けたように思える。

 何故か。何故彼女がそのような発言をしたのか。

 その真相を僕は語る。


「……僕の想像で申し訳ないんだけどさ。交換告白の真実を知ってたんじゃないかなって思うんだよ」

「な、何を言ってるの?」


 彼女の酷い焦燥。胸を抑えているあたり、何かやましいことがある。

 ただ彼女の心を独りぼっちにはしておきない。秘密を隠すことで辛いことだってあるはずだ。

 前の礼太郎みたいに。彼も相談できない苦しみを抱えていた。

 すると秘密を暴いた僕は礼太郎みたいに嫌われるかもしれない。「ずかずか人の気持ちを見抜いてんじゃないわよ」と怒られるかもしれない。

 分かる。礼太郎の近くにいるから、よく分かっている。

 一目惚れした人に嫌われるのは、今まで積み上げたものが全て崩れる位ショックだ。できることなら、安定に何も言わずに過ごしていきたい。

 ただ、その状況で栗実さんは幸せな学園生活を送れるのだろうか。一人で嫌なことを抱え込んでいくのだろうか。

 僕は何をされたって、そんな学園生活、嫌だって言える。


「……あのさ、告白を提案したのも君じゃないかって思うんだよね」


 一つ一つ喋るごとに心が痛い。今にも嫌われているのではないか、と彼女の表情を見て感じてしまう。


「ちょ、ちょっと待って。そうだとしたら、さ。どうして相談したの? 相談する必要なんて一ミリもないよね?」


 その理由、僕だったらと考える。


「それは君が知りたかったからじゃないかな。そのやり方で自分は間違っていないのか。それで共感する人が欲しかったんだよね。そのやり方が普通かどうか。それとも倫理的に間違っているものなのか。非難されることが怖くはありつつも、非難されないかどうか知りたかったんじゃないの?」

「……そ、そんな……何で、そんなことまで……」

「いや、ただの想像なんだけどね……でも違っているかもしれないし」


 彼女は嫌そうに僕から目を逸らした。

 その一瞬、分かってしまったんだ。ああ、僕等の道はたがってしまった、と。夢は逸れてしまった、と。

 心が崩れそうになると同時に彼女は告げる。


「……矢継先輩の努力は見て、分かりましたよ。恋するために自分の外見を使う内嶺先輩とは違って……。どうしてもA先輩を手に入れたいって気持ちが痛い程伝わってきましたから。でも、どんどんそのせいで。たぶん、お互いA先輩が好きだってのに気付いてたと思うんです。だから、どんどん二人の関係が曇ってしまって、いるのが辛くなってしまって……」

「……だから、交換告白をしたんだね。一時的にその状況を避けるために」

「ええ。そうですよ。あんな辛そうに、言いたいことも言えないあの関係、嫌すぎましたから。まぁ、今も本音は言えないだろうけれども。イライラが少なくなっただけマシだとは思いますが……」

「言いたいことも言えないのは、やっぱ嫌だよね」

「……そうだね」


 栗実さんはそう言い残して、身を翻した。ほんの少し「ありがとうございました」とだけ言って、部屋を出て行った。

 あのままでいいのか。

 でも、彼女が一人で抱える問題にしては大きすぎる人間関係のような気もする。


「あれで、少しは僕に相談できるようになればいいんだけど……な」


 そんな僕に対して、菜月さんから小言が入った。


「あそこまで真相を明らかにして良かったの? アンタがあの子のことを心配なのは分かるけど……本当に嫌われたのかもしれないわよ?」


 そこで庇いに入ってくれたのが雪平だった。


「……仕方ない。どうしても、この男は人が一人で何か抱えているのを我慢できないタイプなんだろう。こればっかりは……どうにもできない。あの子が少しでもいい方向に物事を考えてくれるよう、願うしかない」

「……礼太郎と一緒のタイプで。損ばっかりね」


 僕の判断が間違っていなかったか。

 これから彼女はどうするのか。先輩に対して、どんな姿を見せるのか。

 今は分からない。

 ただフラれたような状況に関して。


「あのさ、大丈夫だよ。後から春雨くんの想い伝わると思うからさ。それまで待ってようよ」


 秋風さんが気に掛けてくれていた。

 礼太郎も、だ。


「まぁな。しっかし、本当にあそこまで考えていたとは、な。俺は交換告白の真相しか見ていなかったのに、な……。そこまでの考える力がありゃあ、きっと大丈夫だ。俺なんかよりも、な」

「そんな卑屈にならないでよ」

「ああ……卑屈と言うよりは……な。言いたいことがあるんだ」


 えっ、何。

 このまま僕は解雇だとか?

 と何故か理由もなくネガティブなことを考えていたのだが。逆のような話だった。


「あのさ……ここまでの判断を見るに、お前の考え方が一番正しい道に進めるような気がするんだ」

「いや、まぁ、偶然だと思うけどね」


 何だか段々と温かく、くすぐったくなってきたところだ。

 ショックを受けている僕に違う意味で二重のショックが降りかかる。


「学園喫茶のリーダーをやらねぇか?」

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