炎蒸と過冷却W密室事件part.13 選択
「そ、そんな理由で……そんな理由じゃなくて……」
俺が口を動かしているところで、何かの言葉を見つけようとしているところで彼女は叫んでいた。
「そんな、じゃないわよ! そんなじゃ! そうやって人の心を勝手に見透かして、分かった上で踏み潰して……楽しかった?」
「ああああ……」
その後のことはよく覚えていない。ただただ視界が真っ暗になって。俺は逃げたのか。それとも、そのまま熱中症で意識を失ったのか。
今となっては真実も分からないし、分かりたくもなかった。
「と、ここまでの話が俺が探偵を辞めた理由って訳だ……借りてた部室も高等部への進学とかの話で有耶無耶になって、な」
「なるほど……そんなことがあったのか……」
僕が思ったこと。あまりにも理不尽すぎやしないか。礼太郎はただただ、真相を知ろうと頑張っただけだ。笑い者にしようとした、訳ではない。
その先でどんな真相が待っているか。氷室さんが胡桃さんのことを本気で嫌っている訳でないと証明しようとしただけではないか。
そのことについて、菜月さんは告げる。
「アンタは頑張ったんじゃないの? やることやりきって、ただあんな下らないこと言われただけなのに……」
そこからの流れについては、秋風さんから説明があった。
「あの後は……探偵としてはやめちゃって……。それでも、礼太郎くんを頼ろうとする人も何人もいたんだよね。それをどうしても見過ごせなくって……。でも、推理をしてまた何か言われることが怖くなって……」
僕は礼太郎達の気持ちを考える。
この場はきっと、喫茶店を兼ねた相談室、いや、探偵部なのかもしれない。彼がいつか、心を取り戻すことを願った。
きっと、少しだけだけれども。今は良い方に向かっているのではないかと思いたい。拳をぐっと握りしめたところで秋風さんが手を添えた。
「ありがとね」
「えっ……?」
「だって礼太郎くんがあそこまでなったのレインくんのおかげだよ。前の事件も色々動いてくれたでしょ? きっと君が動いてくれることが凄い心強かったんだと思うよ」
「……えっ、あっ、いや……」
本当に僕は役立てたのか。
ここに来るまでは自分の価値に自信が持てなかったというのに。ここまで褒められて良いものかと困惑する。
それでも、僕の力で彼が前の行動力を取り戻していると思いたかった。
自分の力を今は信じたかった。
下を向いている菜月さんにも秋風さんの言葉が注がれた。
「あの時、何も言えない私の代わりに……言ってくれたの覚えてる?」
「えっ、アタシ?」
「あの時さ……」
次に語られた秋風さんの言葉は菜月さんが言っても不思議ではないものだった。と言うか、菜月さんが実際に喋っているような気がした。
それは礼太郎を頼れる探偵だと信じているからの言葉。仲間の証。
『何言ってんの!? 全力でアンタの命救おうとしたのに。全力で真相調べて、アンタの寂しいって気持ちがどうにかできるようにしたのに。アンタはまるでこいつを分かっちゃいない! こいつはただただ、みんなで馬鹿できて笑えるような青春を送りたいってだけ! そこに誰かを陥れようだとか、そんなのないに決まってるでしょ! アニメだかドラマだか知らないけど、ごっちゃにすんなっ! 勝手な思い込みで勝手に最高な結末を用意して、それが裏切られたからって人のせいにすんなよっ!』
芯のある、彼女らしい言葉だ。当事者ならきっと、その言葉が奥深くまで刺さっていただろう。
菜月さんは目を震わせて「えっ……」と。
「一字一句ちゃんと覚えてるよ。何だろう。あの時のカレンちゃん、凄くかっこよかったから、かな」
「あ、アンタの方が凄いわよ……」
そして秋風さんは雪平さんにも頭を下げる。
「で、友継くんもありがとうね。こうして、学園喫茶をやってみたいって言った時、すぐに協力してくれたよね。だからこそ、今があって……」
彼もまた照れているのか。無表情だけれども。頭に手を当てている様子を見て、それを菜月さんがふふっと笑っていて。何となく雪平の感情も見えてきた。
実際その後氷室さんと胡桃さんがどうなったのか。僕は菜月さんに尋ねていた。
「二人の関係性とかはどうなったの?」
「疎遠になったけど……二人共勉強をして、会える時間が少なくなって……それに加えてサプライズの誕生パーティーまで用意してたから、関係性があやふやになってたみたい。その後、あの二人も話し合って仲直りはしていたみたいだけど……でも絶対にあの子達のことは許せないから」
「そ、そっか」
「いつか分かり合える日が来るのか」と言いたかったが。まだその時ではない、と言葉を飲み込んだ。
秋風さんが皆の良いところをまとめてくれたおかげで雰囲気が明るくなっていく。
ただ雪平が口にする。
「そういや、まだあの問題が残っているな……どうするか……サンドウィッチの問題が」
「ああ……」
彼の話に呼応するように項垂れる礼太郎。
困るものだ。
本当に真実を告げるべきか。それとも。
そう思ったのだが。今までの話を聞いていて。こうして学園喫茶ができたのなら、と僕は考えていく。
「……真実を告げてもいいんじゃないかな、って思う」
「えっ?」
秋風さんが本当にいいのと尋ねるような、不安そうな顔になる。
しかし、だ。
「この学園喫茶ってお残し厳禁っていうルールがあるでしょ?」
「あ、あるけど……」
「だったら、そうだよ。やっぱり真実を告げるべきだ。だって礼太郎や秋風さんがここがいいって思ったのは、そういうことでしょ?」
「どういうこと? そういうことって?」
「まぁ、夜ならふざけて訪ねてくる人も少ないだろうし、その上その人の食べ方や飲み方には人の本性が出ることもある。特に残すとか残さないの意味って、それって作ってくれた人の想いを汲み取る行為でもあるからさ……」
その言葉に菜月さんが同調した。
「確かにそういうの嫌いね。SNSで残す奴とか……うん。学園喫茶がそういうのを見極めるための場所ってのも説明としては間違ってないわね」
「うん。僕が読み取れるここの意味……そこからして、サンドウィッチのカードゲーマーは食べ物を卑怯な真似に利用してまで勝利を掴もうとしていた……そんな疑いがある相手に憧れさせたままでいいのかって思うんだよっ! だから、僕は真実を伝えたい! 彼を止めるためにも!」
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