炎蒸と過冷却W密室事件part.7 密室調査

 俺は額から汗を流し、とんでもない事実から考えられた推測を口にした。


「って、それどう考えても気付かないはずがないじゃないか。あそこまで部屋の様子が変だったら倒れているものだって目に付くはず……人の腕があったことだってすぐに……!」


 カレンは俺に続けて考えられる別の可能性を潰していく。


「目が悪くて見えなかったは言い訳として通用しないわよね……目がいいことで有名だし、その後も陸上部で問題なく探し物をしてたみたいだから」

「探し物?」

「ええ。落ちた誰かのコンタクトを探してたみたいだから」

「聞き込みをしてたのか……大変だったな……」

「聞き込みって言っても、仲のいい子に聞いてきただけよ。こちとら前にアンタの探偵行為に付き合われたら、こんなの苦でもなかったけど」

「わ、悪かったな……」


 更に彼女は細い目を銀ギラ銀に光らせている。


「で、もう一つ。同じ陸上部の中で胡桃ちゃんが見えないなってなってたのは周知の事実だったみたい」

「だったら、中が散らばってたら……」

「普通は気付くでしょうね。なんたって、あの倉庫の中には陸上部が使う砲丸とか、計測機とかも入ってたみたいだから。惨状を見れば、取りに来た誰かが倒れているって分かるはずなのよ」


 氷室が胡桃を閉じ込めた。その事実が頭を回って離れてはくれなかった。

 窓を見ていたのは、何故か。犯人ならば、閉じ込めた人間が逃げていないかを確かめる以外の他にはない。

 コノハはそこで別の問題を提示した。


「で、でも……何であの子は外に出なかったんだろう……? ドアに別に細工されてる様子はなかったよね。あの子の体を見たけど、別に殴られたとかで気絶したって状態じゃなかったと思うんだけども。暑さで意識を失う前に逃げられなかったのかなぁ……」


 倉庫の話をしていたせいか。俺達は事件現場の前に立っていた。目の前には俺とコノハが壊した扉が倒れている。

 緊急事態だったからお咎めは無いはずだ。たぶん。

 少し恐怖を覚えつつも扉を確認し、何もないことを確認した。そして扉の裏も、だ。


「外からは鍵がいるけど、中からはツマミを回すだけでいいってタイプだな」


 コノハはキョロキョロ周りを見渡している。そして素早い動きで中を確認して回っていた。

 やはり彼女の俊敏さと物を発見する力はずば抜けていると思われる。ちなみに校内でロリ貧乳美少女とももてはやされているカレンと知り合えたのも離せるようになったのも彼女のコミュニケーション能力のおかげだ。

 今も彼女は散らかった教室で鍵を発見した。端にあるシンクの中に入ってたよう。彼女は蛇口の水を流し、鍵を洗ってからこちらに見せてくる。


「あっ、あったよー! こんなかにあったってことは、何かのはずみで飛んじゃったのかな……?」


 カレンはじっとコノハを見つめている。そして途中から悔しそうな顔へ。


「ちょ、ちょっと欲しいかも。一家に一人、探し物をしてくれるコノハが」

「え、え、え、いやいや、たまたまたまたま、だよー! って、もしカレンちゃんの家に延々と探し物させられるの?」

「別に散らかってる訳じゃな、ないんだけど……! こ、ここまでの惨状じゃないから!」

「ここまでのレベルと比較するなんて……だいぶヤバいんだね……」 


 彼女の嫉妬や欲望はどうでもいいとして。

 今確実に分かった真実を一つ。


「やっぱ鍵を中に入れたってことは間違いなく密室か……? もし事件になったとしたら……いや、考えたくないな」


 危うく密室殺人になり掛けていたのだが。


「どうしてここが惨状になる前に逃げなかったんだろうね……何か探しものをお願いして……ものが崩れるようにしておいたとか……?」


 別に探しても棚が崩れそうな仕掛けはない。大きな棚は倒れておらず、ボールが転がるようになっていただけだ。

 犯人が胡桃を隠すためにわざと倒したみたいに。

 後からの発見者は推理するだろう。何か探し物をしていた胡桃が何かの拍子で転んで辺りのものをぶちまけて。そのまま熱中症になって倒れてしまったと。

 そこでカレンが告げる。


「でも、信じたくない……」

「えっ?」

「ここまで言っておいてだけど、氷室ちゃんが犯人だなんて思いたくない。あの二人は仲が良かったもの……まるでな、なんだろ……あたしとコノハ……みたいに?」


 コノハはカレンに突き詰める。


「わ、私達みたいにって」

「……うん、結構似てるかもね。何か、ワイワイしたりっていうの……何だろう……本当知りたかったのは、あの子達が今もワイワイしてるかもってのだったのよ……本当はそう。映えなんかよりもそっちを確かめて、信じたかったの。自分の信じた友情は……間違いなく友情でそれはずっと続くものなんだって……そんな簡単にぶち壊されたりしないものなんだって……!」


 カレンの強い気持ちが響き渡っていく。


「カレン……ちゃん?」

「あたし、こういう性格だからね。信じられる人も少なくて……。でも……一回信じたからには……ね。間違ってなかったって思いたいんだ……」


 かなりしゅんとした彼女。いつも、へこたれない彼女がこんな姿を見せるのなんて余程なことだ。

 氷室が犯人ではない。

 一度信じて動いてみるのも良いかもしれない。


「分かった! 氷室が犯人じゃないってことで一旦考えてみよう……で調べてみるから」

「ほ、本当!?」


 信じられないカレンにコノハが告げる。


「本当よ! 今までこの二人で解けない謎なんてなかったんだから!」

「それは大袈裟だろ?」


 いつも謎が解けているからと言って、今回謎が解ける保証はないのだが。

 しかし、俺がここで挫けるのも性格的には変だ。

 一番おかしい、氷室が胡桃を見つけられなかった理由。

 もう一つ忘れてはいけない大きな謎。密室だ。犯人が何処から鍵を投げ入れたのか、だ。

 思考をして眼を落とすと信じられないものが情報として脳裏に入ってくる。

 同時に俺は二人へ指示を出していく。


「じゃあ、カレンは氷室が胡桃を見つけられなかった理由を徹底的に洗い出してくれ! 交友関係もだ。胡桃を恨んで、氷室を陥れそうな人も……」

「えっ、ええ……! 犯人の策略で見つけられなかったってこともあるわよね……!」

「コノハは密室について穴とかがないか色々調べてくれないか? たぶん、その方が早いだろう?」

「探すことは得意だからね! で、礼太郎は……?」


 咳払いをしてから一言。


「あっ、いや……俺は犯人の手掛かりがないか、ちょーっと調べてみるよ」


 俺は彼女達が違う方向を見ている合間に、何故か落ちていた塩飴の袋と水色のブラジャーを拾ってしまっていた。


 

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