スンドゥブチゲの甘いアリバイpart.8 追跡
あまりにも早い解散宣言に呆気に取られるばかり。「夜まで食べ歩きするんじゃないのか」との疑問はあったものの口に出せず。視界から勝俣が消えていく。
その後で秋風さんが重い声でポツリ。
「怪しいー」
「えっ」
「あんなの怪しいでしょ。ってか、あれで満腹になるってどんな満腹虫垂してるって話よ。まだまだ全然足りないでしょ! せめて野菜炒め食べたかったなぁ……美味しいんだよ。あそこの! 野菜たっぷりで! お肉もニンジンもキャベツも玉ねぎもぎゅっと焼肉のたれみたいなので濃縮されてて……!」
彼女の指摘はごもっとも。全員が定食を頼んでいたのであればまだしも。一人前を三人で分け合った形だ。最初にスンドゥブを食べたとは言え、結構動いたのだ。また空腹感が顔を出し始めている。
疑問を疑問のままにしておけない性格なのか。それとも勝俣の嘘が気になったのか。
彼女はとんでもないことを提案し始めた。
「ねぇ、追っ掛けてみない?」
「お、追い掛けて……!? えっ、そんなことしていいの?」
「だって、アイツ今から何をするか分からないのよ? すっごく気になるじゃない!」
「そ、そう?」
「もしかしたらあの感じの奴に彼女がいたとしたら……!? 気になって授業中しか眠れない!」
「それはただ、夜更かししてるだけじゃ……」
何だか彼女の目が異様に輝いている。と同時に彼女が手にしていた電話から声が聞こえてきた。
『これは調べてみる案件アリね。もし弱みなんかを握ったら、即刻利用して、ちゃんと働かせるわよ!』
「いいねいいね! カレンちゃんの言う通り!」
全く良くないと思われるのだが。何せ、二人はやる気満々。怠けものの彼を何とかしようとすることで頭が一杯だ。
「だから、ある意味、これは部活動!」
「部活動って犯罪行為の免罪符じゃないってことは覚えといてよ。万引きやって、部活動ですって言わないでよ?」
「その線引きはできてるって!」
何故か菜月さんからは『本当かしら?』ときつい言葉を貰っていて。それは聞かなかったふりをしたのか、元気な秋風さんが「じゃ、今から私達は探偵だよ」と僕を鼓舞し始めていた。
確かに後ろから対象の人物を追うのは、探偵も一緒。相手にバレないようにコソッと動くのだ。
幸い話している間に勝俣が行方をくらますなんてことはなく。学校に進むまでの道で彼の姿を発見。電信柱にくっついている秋風さんからはドギマギと心臓の音が流れ出していた。
「てっきり話している間に見失ったかと思ったよ。くれぐれも静かにね」
その発言に対し、菜月さんはこちらに告げる。
『大丈夫なんじゃない? 隠密行動とか得意そうじゃん』
完全なる嫌味ではあろう。クラスの中で目立たない僕。そこに対抗してくれたのは秋風さんだった。
「いやいや、大丈夫だよ。結構クラスの中の笑いを取ってるムードメーカーだったりするんだよ? カレンちゃんには難しいんじゃないのかな。この子、ある意味バズりまくりの才能あるんじゃないかな」
フォローにしては、大袈裟ではないだろうか。
『う、嘘っ!? 嘘でしょっ! 嘘って言いなさいよっ!』
そしてその返答としても、あまりに滑稽ではなかろうか。ある意味、ノリのいい一面があることを知って、安心するような気もした。
「それに目立たないってことはカレンちゃんが何をされたとしても、絶対に誰もその犯行すら気付かないかもしれないのと同義よ」
「僕、そこまではしないからね!?」
菜月さんはすっかり秋風さんの言葉に圧されて黙っている。その合間に勝俣がコンビニに入っていく。その様子を外から眺めるだけでは不十分。
「もしかしたら、コンビニで働いている子、目当て!?」
その目論見は当たっていたのか。コンビニの店員をしていたのは、僕達のクラスメイトであり、鈴見さんの近くにいたカースト上位の女子だった。
「な、何の話をしてるんだろうね?」
話している間にささっと、コンビニの中に入る。そして他の買い物客と同じようにお菓子コーナーから勝俣の様子をじっと窺っていた。
僕達に当たる視線がかなり痛い。勝俣より僕達の方が怪しいのだが。敢えて秋風さんには言わないようにする。
あまり近づくこともできないため、何を話しているのかうまく聞こえない。「写真」とか言っているから、事件のことを密かに調べているのかもしれない。同時に「中学の頃だとか」の話まで。あまりクラスメイトの方が良い顔をしていないのが少しだけ気になった。
事件の調査だとしたら、何故勝俣だけでやるのかが分からない。僕達も当事者なのだから、連れてきてくれたら良いのに、だ。
僕達は勝俣が外に出たのと同時に動いていく。しかし、秋風さんはセルフレジで何故か菓子パンを買っていた。
「ほら、探偵にはアンパンと牛乳が必要でしょ?」
「それ、刑事じゃ」
『いいから早く追いなさいよ』
勝俣が何処に行くかと思えば、事故現場らしき場所だった。鶴本は階段から落ちたと聞いた。
どうやら他の人からも鶴本の帰る道を聞いていたらしい。
その階段にはスロープもあり、自転車も登れるようになっている。その真上で立ち止まる勝俣。近くの電信柱をじっと見つめていた。
秋風さんはそこを不審に思う。
「ま、まさか、あそこにマーキングするつもりなんじゃ……」
「んな訳ないでしょ。犬じゃないんだから」
菜月さんの方はビデオ通話で顔を映していた。逆にこちらも見えているらしく、勝俣に恋人らしき影がないことに対して、不満を覚えている様子でもあった。
『どうやら恋愛系統のことじゃないのね。それにしても、自転車の邪魔にならない?』
「なりそうだね」
僕が反応すると同時に自転車がベルを鳴らしている。しかし、気付かない様子。
『なら、一回ぶつかってもいいと思うの』
「おいおい」
最中、その話が聞こえてしまったのか。階段の真下にいる僕達に対し、勝俣が声を掛けてきた。
「おい、見えてるぞ」
「えっ?」
その時刻。確か、ほぼ鶴本が事故に遭ったと思わしき時間。
目が眩むよう光が僕達の目に入る。当然、勝俣は影で真っ黒だ。
「こっちからは全然見えないんだけど……!」
「……だよな」
「えっ?」
そう言うと、彼は静かに降りてくる。アンパンを食べながら、後ろに引いている秋風さん。
「えっ、いつからバレてたの?」
菜月さんに関しては電話を切って逃げていた。
「いや、バレバレだよ。最初から……でもまぁ、集める手間は省けたか。今から学校に帰るぞ。レシピを作るんだ」
レシピ。
そして彼の深刻な顔の意味は僕がよく知っている。あの夜、見た謎が全て解けた時の勝俣のものだ。
つまるところ、彼はこう言ったのだ。「事件の謎は全て解けた」と。
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