カップ麺の流儀part.5 究極のレシピ
究極のレシピとはよく分からない。某グルメ漫画を連想しただけだ。
「今、至高のグルメとかそういうのはやっている暇じゃないんじゃ……」
そこに彼は本当に真剣な様子で否定した。
「いや、だって君はお腹が減ってるはずだ」
僕は今、カップラーメンを手にしている。少しだが腹は満たせていると思うのだが。
「えっ……いや、もうそんなには……ってか、僕に試食とか無理だよ!? 味音痴だし」
「いや、答えという最高の料理を待っているんじゃないのかい? 菜月カレン失踪事件の」
「……えっ!?」
言っている意味が一瞬分からなかった。ただ脳内でカタカタ計算することと内容を復唱することで読み込むことができた。
途端にまた感情が溢れだす。その証拠に声が一段と大きくなった。
「えっ! それじゃあ! 謎が解けたってこと!? って、それじゃあ普通に僕達に喋ってくれれば……!」
その話について秋風さんが僕の前に指を出す。
「もうちょっと静かにね……何か推理んなると緊張しちゃって話せなくなるんだって……!」
「えっ? えっ?」
「だから頭の中を真っ白にして、事件解決をレシピとして表現するんだって……」
何が何だか分からないまま。彼は僕達にそのレシピとやらを見せつけてきた。
『タバスコ 瓶一本
唐辛子 ハバネロ ありったけ
カップ麺の醤油スープ 一杯分
わさび 一つまみ
にんにく 十個
ラーメンの麺 一玉』
本当の本当に意味が分からない。これが探偵としての推理ショーだとしたら、おかしいとしか言いようがない。
ただ秋風さんは真剣だ。僕の疑問を取っ払うような前例を口にする。
「納得していないみたいだね。このレシピの凄さを」
「レシピが……?」
「以前、うちの屋根裏でガサゴソ音がしてた時があったのよね。その時、彼は天井も見ずに庭に落ちてたもの、うちの屋根にあった少しだけ開いている部分……そこから考えて、刺身二枚、鰹節二つまみ、鶏肉を十グラムみたいに書いてたのよね」
彼女の言いたいことはすぐに分かった。
「猫の大好物だよね……それ。屋根裏に猫が迷い込んでたってこと?」
「その通り。そうやって解いた推理の手掛かりをレシピにまとめてくるんだよ。だからレシピの材料や仮定を考えれば、事件はおのずと解けてくれるって訳!」
「な、なるほど……!」
では、この中に事件の答えがと。
睨んでみるも、まだピンとは来ていない。レシピの作成者が語ってくれればと思ったものの、勝俣の姿は消えていた。
「いつも、消えるな。レシピを書き終えて……眠くなったのか」
推理をした後に消える彼の謎は置いといて。
今は彼が残したレシピを紐解くしかない訳だ。しかし、何処をどうすればいいのか。
最初に彼女がボソッと言った。
「唐辛子めっちゃ入れて辛くなるのは分かるけど……にんにくも凄すぎない? これ、作ったら明日の朝、めっちゃ臭くなるわよ」
「そういう時はりんご、ジャスミンティーとか、おすすめ」
雪平さんが豆知識を披露している合間に僕はピンと来ていた。
臭い。この事件も臭いが関係していたのではないか。
「僕が菜月さんを見た時、凄い涼しいような匂いがしてたんだけど……あれって、にんにくか、何かの臭いを誤魔化したってことじゃ」
「何かの臭いって、にんにく以外に……えっ?」
それ以外に、あるもの。このレシピから読み取れるのは唐辛子たっぷりのラーメンしかない。
「……そうだよ。これ、激辛ラーメンの臭いを……消してたのか……」
彼女が激辛ラーメンを食べていた。そこに関して些か指摘するべき点はあった。秋風さんもこの考えに至って、同じことを思ったらしい。
「で、でもカレンちゃん、激辛が大好きなのに……?」
雪平さんが何も喋らないうちに僕は反応する。
「そう。僕も思ってた……それにこのレシピ、ここにわさびも入れる程……でもこんなに激辛にした後でわさびなんて必要なのかなぁ、と思うけど……あれ、待って!」
わさびはツンとした感じ。
唐辛子は違う。すぐに調べて答えが出てきた。
わさびはシニグリン。唐辛子はカプサイシン。辛さの種類、痛みの種類が全く違うのだ。
「わさびと唐辛子の味は違う……もし菜月さんは唐辛子の辛さに耐えられなかったんじゃないかな……そう考えると、色々つじつまも合うんだ。臭いを消したのは、きっと辛いラーメンを食べれなかったことを隠すためだ。もしかしたら食べててのたうち回ったのかもしれない。その痕跡を消すために倒れたふりをしたんじゃないか? あそこに紅い汁あったよね」
「ええ。あれは血じゃないとは思うけど、なんだったの?」
「たぶん辛い汁じゃないかな……あの液体、秋風さんが近づいた時の衝撃で勝俣の眼や口に入ったんじゃないかな……あの時のくしゃみも目のしょぼしょぼも尋常じゃなかったし……」
「あっ、あれはごめんなさいだね。胡椒じゃなかったんだ……でも、本当にそうなの? あの子が隠れて辛いカップ麺を食べてたの?」
「氷が消えたのもきっと食べる努力だったんじゃないかな。熱い辛いものって食べにくいけど、冷めれば少しは食べれるようになるし……」
「そっか。あの子、結構見栄っ張りなところがあるから……辛いものを食べる特訓をしてた……ってことね。自分が食べれないとなった瞬間、馬鹿にされるとでも思って……」
そうと言われて、彼女がハッとする。
「ど、どうしたの?」
「さっき礼太郎くんが危険って言ってた意味も分かったかも」
「そ、それって……」
「辛いものを食べたのはいいとして。本当は食べれなかった理由が体の拒否反応だったとしたら、アレルギーだったとしたら……倒れたのはもしかしたら、食べてたのを隠すためだけじゃなかったら……早く何とかしないと……!」
その瞬間、大きな巨体の雪平が目にも止まらぬ速さで飛び出した。たぶん、これは早く探して病院に行くよう、伝えるしかないだろう。
ただ僕が一人で忠告しても不審者になるだけ。僕は秋風さんと共に学校の中を探索することにした。
「な、何か行きそうな場所とかない?」
「分かんない……でも待ってね。靴箱……!」
彼女と共に走った靴箱に関して。そこに靴はあった。まだ学校内をさまよっているのだ。教室の中を見回しても何処にも彼女の姿が見当たらない。
これを何階も見回るとなると手遅れにならないか。既に僕達はだいぶロスタイムを作ってしまっている。またもや彼女が何処かで倒れているのではないか、と心配したのだが。
もし、心配が違っていたら。
「自販機……」
「えっ?」
「まだ自販機のところで喉を潤してるのかも。辛いものを食べた後って、水が飲みたくなるでしょ?」
「この学校の水飲み場は外にあって……校舎の中にあるのは、二階と五階。あと、体育館に繋がる二階の通路にあったはず……!」
咄嗟に説明をして五階から探索。二階、二階の通路と移動した時、やっと目的の彼女を見つけ出した。
二人共息切れをしているため、彼女は何本か飲んでいた水を思い切り吹き出していた。
「あ、アンタらいきなり何!? コノハ! この男と一緒に何やってんの? 誰なの!?」
「カレンちゃん変なところない!? 頭痛いとか苦しいとか!」
「あっ、いや、その……」
「辛いの無理して食べたんだよね!? 大丈夫なの!?」
彼女は初対面の男がいるのにいきなり弱点を晒されて。
ついでに先程食べたカップ麺の影響もあって、スマートフォンの明かり頼りの暗さでも顔が赤くなっているのが分かった。
ある意味、羞恥プレイである。
「ちょっ、ちょっと色々説明させなさいよー!」
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