カップ麺の流儀part.3 歴史あり
「だ、大丈夫か!?」
色々通報しようかとの考えも脳に浮かび上がったのだが。体が僅かに動いているのを確認。
生きているのであれば、誰かを呼んだ方が良いだろう。
思い立った僕はすぐ準備室を出て、家庭科室に戻る。
「ちょっ、大変、人が準備室の中で倒れて……!」
聞いた秋風さんが少し考え込んでポツリ。
「ああ、もう手遅れですね」
「はっ?」と思っているうちに勝俣が反応する。
「そんな、先生、あの子はもう助からないんですか?」
「安心してください。必ず助けてみます。但し、治療費五千万円よこせ」
「うう、諦めます……ありがとうございました。先生」
ふざけたやりとりに僕がツッコミを入れた。
「何やってんの!? 今、人が倒れてるのに!」
どうやら彼等は信じていないのか。それともと思った中で今度はふふっと秋風さんが笑う。
「きっと、カレンちゃんでしょ?」
「えっ?」
「金髪の女の子だったんじゃない? カレンちゃんがきっと準備室の中で転んでたのよ。先に帰ったと思ったんだけど……」
突然の登場人物に驚いていると、これまた勝俣が詳しい説明を。
「菜月カレン。ウェイトレス兼経理の木葉の手伝いをしつつ、広報も担当してるんだ」
彼女がスッ転んで倒れているのか。にしては、倒れただけでは済まなそうな。ふと思い出した彼女の顔。あれはあまりにも苦痛に悶絶しているようなものだったような。
「……そんなんじゃない」
「えっ」
「いいから……二人共!」
まずは見てもらって介抱してもらった方が良いだろう。特に僕は男子。女子を運んだりするのであれば、秋風さんの方が良かろう。
すぐ準備室に連れて行ったのだが。
困惑が僕を待っていた。
「あ、あれ……?」
菜月さんとやらの姿が消えている。
すぐ考え付いたのは秋風さんだ。苦そうな顔をして、先程の怒りなども忘れて喋っている。
「ううん、幽霊とか……?」
まだふざけている感じがしている。どうやら今の問題に真面目になるより、カップ麺の方が大事らしい。
近くにあった段ボールに入っているカップ麺の山からカレーうどんを取っていく。
勝俣と言うと、「匂いねぇ……」と言いながら、床にあったものを見つめていた。
「どうやら誰かいたことは確かだな」
彼が指で床を擦り、手に紅い液体を付けていた。明かりが家庭科室と外のもの頼りだったために中は暗い。一瞬、あるものに見間違えた。
「それって血……!?」
戸惑った僕に対し、秋風さんはすぐ勝俣に駆け寄っていた。それも勝俣の指を掴んでいく。
「ま、まさか……本当にスッ転んで血、流して、たらたら歩いていったとか!? 大丈夫なの!?」
その指を振った瞬間、「それは……」と言った彼が咳き込んだ。それもだいぶきついものが。「ぐぇほ! げほっ! ごほっ!」と何だかヤバそうな位のもの。目もしょぼしょぼし始めていた。
すぐ彼女が自身の服を払っていく。
「あっ、ごめんごめん……胡椒がまだ付いてたかなぁ……で、それは血じゃ……」
ただ、今の彼の指に液体は残っていなかった。どうやら今の咳の衝撃が飛んでいってしまったらしい。
と言っても、僕が見たところ、怪我した時の臭いはしなかった。頭に怪我をしていなかったのも覚えている。
「た、たぶん……だけど、菜月さんが怪我をしたって訳じゃないとは思うから……」
「うん、それは大丈夫……」
落ち着いた勝俣がそう言うものだから、一旦落ち着いた秋風さん。勝俣の方もたぬきそばを取って、僕にカップ麺を取るよう告げる。
僕もシーフードヌードルを貰うことにした。
何がこの部屋であったのか。菜月さんから後で聞けば大丈夫。そう言う問題なのか、違うのか。
家庭科室に戻っても菜月さんの苦痛な表情が残って離れなかった。
「……ううん」
秋風さんは僕が両腕を組んで悩んでいるうちにポットからお湯を注いでくれていた。待っている間にカップ麺のことについて語り出す。
「でさ、さっきのカップ麺だけどさ。カップ麺ってのは凄いんだよ」
「ん?」
「カップ麺っていうのはカップ麺は中の麺が浮いているのだけれども輸送時の衝撃から守るためってのは知ってた? そうした歴史がまず根底にあったり」
知らなかったから、ついつい話にのめり込みそうになっていた。そう考えて今まであまりにも淡々とカップ麺のことを食べていたことに気が付いた。
当たり前のものの美味しさ、いや、作ってくれた人の努力すら感じずに生きていたのでは、と。過去の自分が少しだけ恥ずかしくなった感覚もあった。
だから少しでも話題を出そうと考えていく。
「……カップ麺って色々あるよね……ご当地限定の奴もあるとか……」
その言葉に秋風さんは反応した。それもとっても興味深々な様子で。
「うん。有名な店とコラボしたものとか、最近は動画配信者とかもあって……!
あ、そう言えばこの前、あの中に激辛わさびの奴なかった? 北海道限定の! あれ、食べる前に消えてたんだけど」
「そういや、カレンがすげぇ美味しそうに食ってたな。こんなものも食べれないなんてって挑発してきやがったよ」
「辛いのか……」
そう言えば、スーパーとかでも最近激辛の焼きそばが販売されている。買ってみようかなと想像上の僕が陳列棚に手を伸ばしているところだった。
突如として秋風さんが手を取ってきた。
「やめなさい」
「えっ?」
「いや、何かもの欲しそうな顔してたけど……もし辛いのが食べたくなってもホットチリ位でやめときなさいな。それ以上、行くと食べきれないわよ」
「ええ?」
「お残しは厳禁。それがうちのルール。食べれるものは食べきれるところまで」
「そうだな」と頷いたのは勝俣だ。彼も「バイキングとかでもそうだろ? 食べない分まで取るなんて言語道断だ」と。意外と
秋風は調子に乗ったのか、更に講釈を垂らしていく。
「で、で……ちなみになんだけど、スコヴィル値って知ってる?」
「何それ」
「辛さの値を示す数値で、昔は辛いものを砂糖で薄めてどれくらいの量まで……っての説明はいっか。とにかく、どれくらい辛いかが分かる数値なの。カプサイシンとかの辛い成分が入ってれば、入ってる程高いってこと」
「そのスコヴィル値がどうかしたのか?」
「タバスコソースが二千五百から五千スコヴィルヒートユニッツって単位で表せるの」
タバスコは確かに辛い。適量以上に入れるとピザとかがなかなか食べられず、大変なことになるのは経験済み。二千以上もあれば、相当辛いに決まっている。
「そんなにたくさんあるのか」
「で、一般的な催涙スプレー。不審者とかに使うの、ね。それが一万位から十万になるかな」
「えっ、タバスコの二倍から、十倍……いや、でもタバスコでも目に飛んだらとんでもないことになるし……」
そこまではまだ予定調和だと思っていた。彼女がカップ麺のスコヴィル値を語るまでは。
「で、辛さが売りの基本的な焼きそばが四万五千になるかな」
「えっ? 催涙スプレーと変わんないの?」
「で、少しレベルアップしてるものだと四十万スコヴィル」
「ん? 催涙スプレーって何? えっ? はっ?」
人が口に入れていいものか少々分からなくなってきたのだが。遠慮なく彼女は情報を伝えてくる。
「で、今の出てる激辛焼きそばだと百万スコヴィルはあるか、なんて話も出てるわ」
なんと催涙スプレーの百倍はあるかもしれないとのこと。
「マジで……?」
「確かなことは分からないけど、今のカップ麺は凶器に使える辛さのものもあるってことだけは断言させてもらおうかしら……よく動画とかで食べてみたって出てるけど、素人が安易に食べてみてもいいものじゃないわ……」
そんな話を聞いて、少しハッとしたが。僕の中で自分の考えはすぐに否定された。なんたって、先程の話と矛盾している点がある。
菜月さんのことを考えていたら、声がした。
「……君は……誰だ?」
教室の前には高校生の体格とは思いにくい、体格も恰幅もある眼鏡の男がいた。ただ侵入者でないことも知っていた。先生ではない。生徒だ。
「ええと……」
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