攻撃したら『1G』ドロップするスキルで金策してたら最強になってた ~金極振り配信、始めます~

ゆーしゃエホーマキ

スタートダッシュ編

#01. 一・擲・千・金!


 ──諸君、私はお金が好きだ……。


 と、胸の中でショッピングを楽しむ人々に語りかける。

 日曜日のショッピングモールは混んでいて、この人混みの数だけお金が消費されていると考えただけでも鳥肌が立つ。

 これから私もその一員になる。

 疼いてきたな……財布を握る右腕が。


 この星が自転で回っているなら、この世はお金で回ってると言っても過言ではない。

 この世のかなめたるは

 なんて素晴らしい響きだろう!


 そんなお金がちゃくちゃくと貯まっていくのを眺めるのが好きで、高校生になってすぐにバイトを始めた私は今やたい金積玉。死角ナシ。

 でも、貯めるだけじゃあ私の心は満たされない。

 だってお金は使うためにあるんだから!



「さ~てと! 買うぞーっ!」



 なんと言っても、今日は年に一度と決めた

 我、当代無双──金生かなうユメ。青春を生きる17歳。

 一てき千金の構えを取らせていただこう!


 去年の初給料で買った愛用の財布を取り出す。

 猫の肉球スタンプが愛らしい、温かみのある白の長財布だ。

 中には現金をギッチリ詰めてある。

 このお財布の中にあるお金はいくらでも使える。

 今日だけはどんなものでも買える……!

 そしてここは近所で一番大きなショッピングモール!

 なんでもあります! 目移りするほどに!

 あれもこれもとカゴに突っ込んでも良し!!!

 ……だけど。



「フッ……甘い、甘すぎるよ、一年前の私……」



 一年前の豪遊を思い返しながら笑いを零す。

 まぁ、あれはあれで楽しかったけども。



「ママ~、あの子ひとりで笑ってるー」

「こら、人様に指をさすんじゃありません」



 ……こほん。

 少し浮かれすぎた。

 テンションがおかしくなってたな。

 気を取り直して、目的の品へ向かって歩み出す。

 今日は細かい買い物をしに来たんじゃない。

 貯めに貯めたお給料……年に一度、たくさんお買い物をすると決めているけど、所詮はただの女子高生である私には限界がある。

 使い過ぎれば後で困る。

 それが分かっていたから理性をギリギリ保ち、たとえ豪遊日でも10万円以上は使わないと決めた。

 それでも危うく見えるのか、お母さんには将来的に不安だと言われる始末。


 だから今日はを買いに来たのだ。

 そう、お金を稼ぐためのツールをね。



「ホビーエリアは……ここか」



 いつもなら素通りするそこは、子どもが好きそうなオモチャがたくさん置いてある夢のような空間。

 そのオモチャのすぐ横に、人気のゲームソフトがずらりと並んでいる。

 つまるところ、ゲーム売り場だ。



「こっちは携帯ゲーム機のソフト……あっちは据え置き型のテレビゲーム……ふむふむ、ということは一番奥が……あったあった! !」



 対象年齢が15歳以上だからか、一番奥のスペースに並んでいたフルダイブゲームソフトのパッケージを見て、私のテンションはブチ上がる。

 パッケージにはフルダイブ専用であることを示す『』の二文字が大きく印刷され、多種多様なタイトルロゴとパッケージデザインが購買意欲をザクザクと刺激してきた。



「あった、これこれ」



 今や世界中に普及した、ゲームの中に五感と意識を落とし込む

 その最新鋭の技術を、これでもか!とフル活用したのが、この《

 通称『DDOでぃーでぃーおー』──。

 総プレイヤー数は1000万人を超える世界最大級のバーチャルワールドだ。


 その人気の秘密は、ゲーム内通貨を現実のお金に変える『換金システム』にある。

 換金率は100分の1、100円を稼ぐなら10,000Gを稼ぐ必要があるけど、ドロップするアイテムを売ったりすれば数千は稼げる。

 遊びながら稼げるなら儲けものだ。 

 私は迷わずお目当てのDDOを手に取り、レジへ。



「あとのバージョン2もください」

「かしこまりました。少々お待ちください」



 ゲームソフトを買ってゲームハードを忘れるなんて失敗はしませんよ。

 フルダイブ専用ゲーム機、《フルダイバーズ》もしっかり最新機を購入。

 フルダイバーズとDDOがレジに通され、私は現金をトレーにそっと置く。

 たくさんの一万円札が店員さんの慣れた手つきによって数えられ、短いレシートと小銭になって返ってきた。

 次からはカード払いにします。



「くふっ、フフフ……」



 思えばこんなに大きな買い物は初めてで、変な笑いが込み上げてくる。

 このレシート、永久保存しておこ……。


 さてさて、お会計を終えたならば目的地は家。

 直帰だ。

 購入後の満足感は人目に付かない自分の部屋で浸りたい。



「──はぁぁ~っ♡ この新品のパッケージ、ツルツルしててひんやり……そしてゲーム機のずっしりとした重さ……! って気分にさせてくれる~♡」



 帰宅し、すぐさま購入物を床に並べる。

 機械オタクでもゲームオタクでもないけど、汗水垂らして稼いだお金で買ったものはどんなものであれ平等に愛でる。

 それが私の流儀。


 ひたすら《デュエルダイバーズ・オンライン》のパッケージを眺めること一時間。

 名残惜しいけど、意を決してカッターの刃を出す。

 開封する時のこの悦びは、子どもの頃のクリスマスを思い出して楽しい。

 さらにゲーム機も開封。



「外箱! ジャストフィットな紙製の入れ物! フルダイブゲーム機! 手触りスベスベのトリセツ! やたら長い変なコード! そしてデュエルダイバーズ・オンラインのソフト! ……よしっ、不備なし!」



 せっせとアイテムを取り出して、箱は押し入れにしまっておく。



「へぇ~モンスターと戦うんだ。キャラクリ……すご、こんなにクオリティー高いの!? 服とか買えるんだ……換金しなくても楽しめそう……」



 パッケージ裏を見つつ、フルダイバーズをセッティングしていく。

 お金はもちろんだけど、純粋にこのゲームをプレイすることを楽しみにしていた自分がいることに、ログイン直前になって気付く。

 誓ってギャンブラーではないんだけど……でも。

 この胸の高鳴りは……もしかして、私のゲーマーとしてのさがが目覚めて……?



「……いや、おっきい買い物したからテンション上がってるんだな!」



 ゴーグル型のフルダイバーズを被り、ベッドに寝そべる。

 テンション上がるのはいいけど、買っただけで満足しちゃお金にも製作者さんにも失礼と言うものだ。



「フフフ……私の大切なお金を一瞬で消し飛ばしたんだから、それだけの価値があるゲーム……どんなもんか見せてもらおうじゃないの!」



 レッツゴー、バーチャルライフ!

 こうして私は己の金欲を満たすべく、DDOにフルダイブするのだった。

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