第3話やまいぬの 月に吠ほゆるに似たりといふらむ
何も解らないから、とりあえず、赤塚の家の前までやって来た。
男女二人が立っている。
ドアの所に花束が供えてある。
「すみません、失礼ですが、赤塚さんのお知りあいですか?」
「お嬢様は、赤塚さんの婚約者でした。私は執事でございます」
「あ、社長令嬢の。俺、進藤といいます。赤塚さんの友人の友人で、探偵助手です。ぶしつけですが、お嬢さんは、赤塚さんに悪意を持っていた人物をご存じですか?」
「さあ、私には何とも」
麗華は自分の口を手で覆い、弱々しげに答た。
ーショックで体調を崩すほど、本気で赤塚の事が好きだったのか?ー
そこにいきなり、男が割って入った。
「お前、麗華さんになにをしてる?」
「岩清水さん。何故、ここに?」
「やっと、金目当ての婚約者が居なくなったと思ったら、また、変な男が麗華に付きまとってるのか」
執事が麗華と岩清水のあいだに割り込んだ。
「この方は探偵のお仕事で、お嬢様に話しかけただけです。岩清水さん、お嬢様につきまとうのはやめてください」
「麗華さん、僕は君を愛している。君を守りたいんだ」
「あなたに守って頂かなくてけっこうです。失礼します」
麗華は毅然と言い返し、駐車してあったプリウスに乗って行ってしまった。
あれ?。
俺は岩清水の顔をまじまじと見た。
「岩清水さん。俺と何処かで会っていませんか?。俺、趣味で探偵助手をしてますが、本職は商社に勤めてます。SSコネクトの進藤といいます」
「ああ、確か、御社で以前お会いしてます。恥ずかしいところを見られちゃったな」
「麗華さんと、岩清水さんは、ええーと…」
「僕たちは、元婚約者でした。しかし、両方の親同士の会社がちょっと揉めてしまって、婚約解除させられました」
「それで麗華さんは赤塚さんと婚約を…」
「そうです。赤塚は、帝都大学出のエリートで、家系も問題なさそうですが、アイツは、金目当てでした」
「何故、金目当てだと?」
「本人がそう言ってました」
「岩清水さんは麗華さんと、結婚したいんですね」
「もちろんです。どうして親同士の会社のゴタゴタのせいで、俺達が別れないとならないんでしょうか。僕はこんなにも彼女を愛しているのに」
岩清水さんはしばらく不満を口にしてから別れを告げて立ち去った。
岩清水さんが、文句を吐き出していた様子を思い出し、『やまいぬの 月に吠ほゆるに似たりといふらむ』を、思い出した。
赤塚と比べると、岩清水さんは圧倒的に見た目がいまいちだった。
婚約解消の原因は、そこにもあるのだろうかと、考えた。
ーイヤイヤ、これって『ルッキズム』だろう?。差別なんかダメだ。だけど、恋って見た目は大事。性格がストーカーで、見た目いまいちの男を社長令嬢の麗華さんは、どう思っていたんだ?ー
ガチャ、っと音がして赤塚の隣の住人、中学生くらいの少年が顔をだした。
「すみません。うるさかったですか?」
「いいえ、大丈夫。僕、コンビニに行こうとしたら、赤塚さんの家の前に人がいたから、ちょっと玄関で待ってただけ」
「赤塚さんが殺された日は、警察の人が沢山来たでしょ」
「 うん。名探偵コ○ンみたいだった」
「何か聴かれた?」
「ママが、『夜中に誰か赤塚さんの家に来ませんでしたか?』って聴かれたんだって」
「そうか。ママは誰か見たの?」
「ママはその時間寝てるから」
「君は?」
「ちょうど深夜アニメが終わる時間」
「そうだよな。俺も観てる」
「赤塚さんの家、いつも夜2時に女の人が来るんだ。チャイムも押さないで」
「合鍵を持ってる女性か。よくそんな事知ってるね」
「ドアの音と、女の人の声が聞こえるんだ」
「あの日も来た?」
「あの日は夜1時、ちょうどアニメが始まる時間に、チャイムの音がして、ドアの音がしてちょっとしたら又、ドアの音がした。出前とかかな?。夜2時にもドアの音がした。チャイムの音がしなかったから、いつもの女の人かも。でもその後、直ぐに出ていったみたい。忘れ物したみたいに、すぐに戻って来て、ちょっとしたら又、出ていった」
ー玄関から出たり入ったり?。誰が、何をしていたんだ?ー
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