第2話 偶然に

吉川と話した翌日。

 いや吉川と話した翌日ってまるで吉川に恋してるかんじが出てるがそういうわけではなく。

 いつもと変わらない朝を終え、学校に向かってる途中、吉川が前を歩いていることに気付く。

 美人は後ろから見ても美人なんだな。

 きっと髪の手入れとか校則の中でのオシャレとかを努力しているんだろう、ああなんて頑張り屋さんなんだ。吉川。

 ちょっときもいな。いやだいぶ。

 前に吉川は居るものの「やぁ」なんて話しかけて一緒に登校するほどの中でもないからこの一定の距離を保って歩くことにしよう。

 かといって後ろをつけてると思われても嫌だし、わざわざ道を変えるのも無駄な労力だと思ってしまう。こういう時、世の中の皆さんはどうしてるんだろう。

と思ったら振り返った吉川と目があった。


「堀井本当に居るー!」


「そりゃ嘘はつかん。てかなんの話?」


 あれ?そういえばなんでこの時間に吉川がいるんだ?

 今日もホームルームの5分前くらいに着く予定なのに。


「どうした?寝坊なんてめずらしいな」


「いやぁお恥ずかしながら。じゃなくて堀井が朝この時間歩いてるって言ったのちょうど朝思い出して遅らせてみた!」


「おーなるほど。なんで?」


 こいつ俺のこと好きなの?


「なんとなく?」


「そんな疑問形で問われても。まぁ、とりあえず行くか」


「え?あ、うん」


「ん?もしかして一緒に行くとかではない?」


「ちがうちがうっ!そうじゃなくて、まあいいや行こ!」


 違うのかよかったー。インキャの勘違いが炸裂したのかとおもったー。

 吉川がいいって言うならいいか学校に行くか。吉川と。吉川といっしょに。いっしょに。


「あ!喋りすぎたぁ!堀井が早くこないから」


「いや、俺が早く家出たら会えなかっただろ」


「うーん、それはどうだろうね」


「?」


「いいから小走りで行くよ」


「なんか朝から走らされるの普通に損してるんだが。」


「俺の体力の無さをなめないでほしい。そして朝の時間を返してほしい」


「アゲハ蝶か!!」


「え?」


 全然上手くない上になんならポルノの蝶々の歌のこといってんだろうけど使い方間違ってるし。


「いいから!」


「はい」


 なんか吉川と話すと毎回俺が折れて終わってるな。

 なんだろう嫌ではないこの感じ。

 はぁ尻に敷かれてぇ。


 そんなこんなで学校に着いて教室で自分の席に座ってるがいつもより5分早く着いてしまった。

 やられた。


「いつもよりはやく着いたね」


「だれのせい?」


「私のおかげ?」


「まぁ間違いない」


 最初はくっそーとは思ったが5分くらいならまぁいいか吉川と話すのは案外楽しい。

ん?

吉川と話すの?


「てかいいのか教室で俺と話してて」


「なんで?堀井ってヤンキーで色んな人にめをつけられてるの?」


「ちがう」


 どう言う発想だよ。

 今の今まで忘れてたが教室で朝から仲良く吉川と男が登校&おしゃべりしてたら噂の一つや二つ立ってもおかしくはない。

 まあいいか噂ぐらいうん。


「じゃあなに?」


「いやなんでもない」


「変なの」


 吉川がなんとも思わないならこっちから話しかけるなと言うのは無粋だろう。                  

それに吉川と話すと心があったかくなるし。あれ?私ぃ恋してるぅ。

 いや違う。普通に楽しいんだ。ただ教室で友人と会話するのが。

 いや友達と呼んでいいかわからないけど。


「ねぇ明日もこの時間?」


「ああ。なに?一緒に学校行きたいの?まったくー。さみしがり屋さんだな」


「急にキャラ変わったね。もっと早く来なよー」


「なんで?」


「早く来るといいこと色々あるかもよ」


「経験上悪いことしかないからこの時間になったんだけど?」


「まあまあ。私と話す時間増えるよ?」


 睡眠時間を削ってまですることか?

 楽しいのは間違いないけど。


「いいこと?かなぁ、うん」


「いいことじゃないの?」


「めっちゃいいことです」


「ちょろ」


「はらたつ」


「そんな早くじゃなくていいから気持ち早めくらいで来てみなって。」


「まあそんなに言うなら仕方がない。朝まで覚えてたら早く出るよ」


「うん。いい心がけだ。」


 なんで上からなんだこいつ。

 それになんでこんなに早く来させたがるんだ。クラスのどうでもいいやつが遅めに教室に入ったってなんとも思わないもんだろう。

 それか普通に世話焼きさんなのかもしれない。

 はたまた、なんて考えるだけ無駄だろう。

 吉川とは友人だと思っているが休み時間中ずっと話したり休日に遊びに行くなんてこともないほどの関係なんだ。

 ただの学校生活の暇つぶしの時間に過ぎない。

 それを忘れずにいれば冷静でいられることを知っている。

 しかし今もかすかに胸が踊っていることは蒼斗は自分でも気付けないままでいた。

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