第16話 なんの役にも立てなかった
「ちなみにさ、ウチもその制度を受けたんだよ」
「え?」
「4年前かな。エゴリセットプログラムを受けて、新しい自分になろうとして、そうして真実を知った。知ったっていっても、ずいぶんあとのことだけど。もしあのとき人体実験とか利用されてたら、そこで終わってたわけだしね。んくく。人体実験ってさ、あれ、結構審査厳しいみたいなんだ。ほら、日本中から16歳の男女が集められるわけでしょ? そりゃあ優秀な人材選び放題だよね。――で、ウチは選ばれなかった。もっというと、言葉を選ばずにいうと、なんの役にも立てなかった」
役立たずはいらない。
だから、捨てられた。
「異世界ってわかる? 最近はほら、よく小説とかアニメとかで聞く機会も多いでしょ。あれ。あれに使われた」
「……使……われた?」
「今、異世界に行くってなったとき、トレンドは『転生』になるのかな? ウチのときは転生じゃなくて『我が身のまま異世界にいく』って設定がスタンダードだったけど。だから、この姿のまま、異世界に送られたの」
「そんな……小説みたいな」
そうだよね、と彼女は言った。それから「んくく」と言って。
「ウチもそう思ってた。そこにいた大人たちからさ、『異世界に行ける権利を得た。向こうで頑張ってこい』なんて言葉をもらってさ。……正直、嬉しかったって気持ちもあるし、興奮していたんだよ、間抜けな話ね。んくく。ああ、なんか小説みたいって。ウチもあの主人公みたいになれるかなって。どんな世界なのかな。魔法ってあるのかな。ウチでも使えるのかな。師匠とかいて、練習とか厳しいのかなって」
流離さんがなにかを思い出すように、少し間を開ける。
「でもさ、当たり前の話しだけど、ファンタジーが現実になったときって、ファンタジーじゃなくなるんだよね。現実はどこまでも現実になって、ファンタジー要素はなくなっちゃうんだ。ウチが送られた世界は……異世界は、もう名前も忘れたけど荒れてて、荒れ果ててて、荒れ果て尽きてて、平穏なんてどこにもなかった。過酷だったよ。生きることが難しかった。実際、一緒に送られた人はみんな死んで、ウチしか生き残れなかった。――でさ、ウチはそこで」
左腕を僕の前に広げる。
見せつける様に。
僕が持ってないものを、自慢するかのように。
「そこにいた世界最強で至極最高で史上最悪の魔女を殺して、その左腕を引き千切って自分の肩に引っ付けて、また戻ってきたの」
「…………」
「気に入らない。気に入ってるけど、気に入らない」
左手を握っては、開く。それを繰り返す。
最初に会ったときに巻いていた包帯はあの場においてきてしまったため、むき出しの腕をそのままにしている。
浅黒く変色した腕。ボロボロで肌理のない肌。異様に目立つ関節と、鋭く尖った爪。人に似つかわしくないほど長い指。
それが人のものではないとわかると、これ以上納得するものはない。
魔女。
魔女の――腕。
「まあ、キミのクラスメイトも、一部はそうやって捨てられるんだと思うよ。今のトレンドは『異世界転生』でしょ。ウチは読んだことないけど、そういう小説の流行がきてるってことは知ってる。んくく、なるほどねって感じだよ」
『異世界転生』
そう言われて、いくつか頭にタイトルが浮かぶ。
だが流行とは、どういう意味だろうか。
意図してつくられたものでも――。
「――まさか」
「ウチのときもそうだったけど、ああいうのを流行らせとけば、事前知識として入れておけば、抵抗なく従ってくれるもんね。ほら、知識とかない人にいきなり『異世界』とか『魔法』とか言っても信じてもらえないじゃん。16歳っていうのもそういう理由だよ。思春期で、自分を変えたくて、魔法とか本気で信じる最後のときで、大人と子ども、両方の実験に使える使い勝手のいい歳」
「そんな……」
「異世界に送るのから転生に方針が変わったのは、空の身体――殻の身体に需要が生まれたからかな。身体全部送っちゃうとなにも残らないけど、転生って形で意識だけ送れば身体は残るもんね。臓器も再利用できるし、人体実験にも使えるしお得じゃん」
「じゃあ…………日借も」
「ん?」
「クラスメイトの……あの場にいなかった友達の、一人です。そいつは、今日は学校を休んで……」
ふーん、と流離さんが、さして興味もないようにうなる。
「あの場にいなかったクラスメイト達は、多分みんな死んだよ」
「――え?」
「ウチがきいた話しだと、キミのところのクラスは、二手に分かれて行動してたはず。片方は言わずもがな、キミの殺害を目的としたグループ。そしてもう一つは、キミの家を破壊することが目的のグループ」
流離さんが見せてくれた携帯の画面を思い出す。
破壊といったが。
そんな生易しいものではなく、家があった形跡すら、微塵も残さず消えてしまった家を、思い出す。
「そんで、家の方に向かったグループも、みんな死んでるはず。ああ、ウチが殺したんじゃないよ。ウチがいったときは全部終わってたから。やったのは『
そうだ。死んだのは日借じゃない。そいつに代わった奴だ。
『別人』だ。
人間じゃない、別の種族だ。
そう思っているのに――いや、そう思っているからこそ、胸が苦しいのが止まらない。
日借は。
まだ、生きているのだろうか。
助けられるのだろうか。
僕は――
まだ、日借を救えるのだろうか。
「ウチがここに来たのは、その『火傘』が動いてるのを知ったからなんだよね」
んくく、と左腕の縫い目をさすりながら、流離さんがつぶやく。
「『火傘』がキミの家を、キミの家族を、引き連れていた『別人』ごと全員焼き払っているのがわかって、何事かと思って調べたの。そしたら唯一の生き残りである、キミの存在がわかった」
生苦楽 楽鬼くん。
どうやったか知らないが。
おそらく、正規の手段で得たのではないはずの、僕の名前を呼ばれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます