怪談小話
春巻き
第1話
入院して数日経ったある夜。
右足首骨折で手術するために入院していた私は、夜中ふと足の痛みで目が覚めた。腫れを抑えるために、足先を挙上していた為、少し下ろして寝姿勢を変えようと思ったが、その部屋は6人部屋。私以外の入院患者といえば、89歳になるご婦人が一人。点滴を打つために数日の入院だという。
高齢の方であるから、おそらくこちらが身じろぎした所で聞こえないだろうが、それでももし起こしてしまったら悪いな…と思っていた矢先、点滴スタンドをからり、からりと推しながら、ゆっくりと扉に向かって移動する音が聞こえてきた。おそらくトイレに向ったのであろう。足音がゆっくりと遠くなっていき、これはしめたと足音が聞こえなくなってから、電動ベッドの足元を下ろすボタンを押す。これで少しは痛みがマシになるかなと胸を撫で下ろした矢先、ご婦人が寝ていたベッドのほうから衣擦れの音。聞き間違いかな?と思うが、再度ガゴソゴソ…と。
そんなはずはない、この部屋に私一人しか今いないはず、そんなまさか…と耳を澄ませていたが、気づいた時には朝だった。
怪談小話 春巻き @haruaki_haru
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