第5話 暴露系フレンド

「なんで真司がここに……」

 ポツリと口から漏れた言葉は、誰にも向けられていない。けれど、そこに立っていたのは、間違いなく俺の親友――高木真司だった。変装のつもりなのか、スーツとサングラスをつけてはいるが。


「あー、ばれちゃったか」


 真司は、いつもと変わらぬ軽いノリで頭をかいた。


「いやぁ……実はな、俺も能力者なんだよな」


「はぁ?……え、マジで?」


 あまりのことに、反応が完全に間抜けになった。

 俺は信じられない思いで真司を見つめたが、真司はにやりと笑いながら言った。


「こんなところで、嘘なんてつかないだろ。さすがにさ」


 スーツを着てても、困ると頭をかく癖はそのまま。違和感ありすぎて、なんだかおかしい。


「お前も能力者で、ここに連れてこられたのか?」


 俺の質問に、真司は笑って首を振った。


「いやいや、違うわ。俺は生まれて1ヶ月で能力が発動してな。それ以来、ここでお世話になってるのよ」


「……マジかよ」


 正直、驚きはあった。俺らは小学生のときから仲良くしていたが、そんな素振り、1ミリも感じたことがなかった。

 けれど、ここ数日の違和感から考えると、どこか納得してる自分もいた。

 真司が能力のことをすんなり受け入れすぎてたこと、あの警察官たちがすぐに俺の能力のことを把握していたこと……全部つながってきた。


「……お前がこの組織に、俺の能力のこと、伝えたんだな?」


 俺の問いに、真司は少し申し訳なさそうに笑って、手を合わせて頭を下げた。


「ごめんごめん、そうなんだ……でもさ、お前もわかっただろ? 能力を持ったまま、制御できないってのは、かなりヤバい。雷出したの、家だったよな? 下手すりゃ誰か死んでたぞ」


 俺は今日の自分の能力で発生した雷を思い出して、何も言い返せなかった。壁に焦げ跡、割れたアンテナ、びしょ濡れのベッド。怖かった。自分でも、自分が。


「……まぁ、しゃーないな」


 俺は溜息混じりにそう言った。


 真司は少し安心したように笑って、「よかった」とつぶやいた。


 それから、真司は相変わらずスーツを着ているけれど、ネクタイを緩めて気を抜いた表情をしながら、話を続けた。


「そもそもな、能力発現ってのは、生まれてすぐ起こることが多いんだよ」


「蓮みたいにさ、大人になってから発現するのは――って言ってもまだ高校生だけど、まあ珍しいんだぞ」


「……俺ら以外にも、能力者がいるのか?」


 俺の問いに、真司は「そりゃいるだろ」と当然のように答えた。


「割合で言ったら、めっっっちゃ少ないけどな。ほとんどの人間は普通に生きて、能力なんて一生無縁。でもな、存在はしてる。で、その中でも――」


 真司が少し身を乗り出して、声を潜める。


「能力の“条件つき発現者”ってやつは、かなりレアで、しかも強いらしい」


「上限つき?」


「そう。なんか、条件があるやつ。蓮の場合は――禁欲、だな」


 俺は肩をすくめてそっぽを向いた。真司の口元がニヤリと歪むのが見えた。


「人には言いにくい条件だけどな~? まぁ、強いらしいからよかったじゃん、禁欲して雷とか出せるとか、ヒーロー体質だろ」


「うるせぇよ……」


 茶化す真司に軽く睨みつけたが、どこか楽しそうなその態度に、少し気が紛れた。


 でも――気になってることは、まだ山ほどあった。その中で、一番気になることを俺は問いかけた。


「なあ、真司……お前の能力って、なんなんだ?」


 その瞬間、真司は「あー……」と間の抜けた声を漏らし、目を逸らした。


 しばらく黙ったあと、立ち上がって軽く肩を回す。そして、深呼吸。


「それはな……」


 空気が少し変わったように感じた。さっきまでの軽さが、嘘みたいに消えていた。


 俺は思わず息をのんで、体が硬くなるのを感じた。


「……」


 変な緊張が、喉元を這い上がってきた。

 真司、お前の能力って、一体――



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