泥酔した隣人の黒髪巨乳お姉さんを介抱したら距離感バグでいつの間にか仲良くなっていた話

ジャムシロップ

第1章 隣人のお姉さん

第1話 お姉さんとゲロ

 突然だが、人生の中で「美人なお姉さんにゲロを吐かれる」というご褒美なのか罰なのかよく分からない体験をしたことがあるだろうか。


 ない? だよな、普通そうだと思う。

 ん、オレはどうかって?

 ああ、じゃあ今からその話をしようか。


 オレとお姉さんの、始まりの話を。


■■■


 その日は──夏の蒸し暑い華金の夜だった。


 コンビニの袋を片手にオレ、大学生の風間晴翔かざまはるとはアパートの外階段をのぼろうとして、足を止めた。


 なにかがいる。

 いや、「なにか」じゃない。


「……人、ですよね?」


 人にしか通じないその問いかけ。

 薄暗い階段の踊り場にぐったりと座り込む人影におっかなびっくり近づいてみると、見覚えのある女性がいた。


 ゴミ捨てなどで稀に遭う、いつもは清楚で落ち着いた雰囲気をまとっている隣の部屋の住人──確か苗字は、甘崎かんざきさんだっけ。分からん、違うかも。まあ、とにかく隣人のお姉さんだ。


 白いブラウスは胸元のボタンが外れかけていて、スカートはひらりと乱れている。

 
蒸し暑さとアルコールの匂いが混ざったその空気の中で、彼女は赤ら顔でこちらを見上げた。


「ん……? きみはぁ……ひゃるとくん……だっけぇ……?」


 なるほど。呂律がね、死んでいるらしいね。

 危なっかしいったらありゃしない……。


「あの、お姉さん……立てます? 部屋、うちの隣っすよね。玄関までなら肩貸して上げますよ」

「うー……ううう、きもちわるい……」

「えっ、ちょ、ちょっと待ってください」


 まずい。このパターンは非常にまずいやつだ。

 これから何が行われるのか瞬時に察したオレは、慌ててコンビニ袋の中身を放り出しお姉さんに差し出そうとした。


 が、すでに手遅れだった。


「……うぷっ」


 ゴボッ──。


 熱くて、生ぬるい感触が、あろうことか、俺のお気に入りの白Tシャツにぶち撒けられた。


「…………う、わ」


 ゲロ。ゲロだ。

 紛れもなく、ゲロそのものだ。

 お姉さんの口から発射された、大量のゲロだ。

 おいおい、なんだよこれ……。

 アイドルはうんこしないし、美人なお姉さんはゲロを吐かないんじゃなかったのかよ……。


「はぁ……はぁ……んぐっ、ひゃるとくぅん……あ……はぁ……! ご……ごめ、ん、ね……ふえぇ……」


 泣きそうな顔で、縋るように見上げてくるお姉さん。

 くっそだらしない。なのに、とてつもない、おおよそ平凡な人生を送る中では関わりそうにないくらいの美人で。

 なんかもう、頭がおかしくなりそう。

 今しがた、オレの胸元に盛大にマーライオンしたって事実を、脳が理解することさえ拒んでいた。


「……zzz」

「寝るなああああああああ!!!」


 そう──これがオレと酔いどれ美人お姉さんの濃密すぎる『始まり』。

 運命と書いてゲロと読む、おかしな物語の幕開けだったのだ。

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