第23話:独裁の兄と残虐な妹

「なるほど。それが向こうで起きた出来事か」

 

 キモすぎる天使を討伐し、カルレアの街を支配してから1日。

 慌てて状況を伝えに来た長耳族の役人に対してアルベルがそう漏らす。

 

「は、はい。ファルザン様が、一刻も早く皆様に直接仔細を伝える様にと……」

 

 この長耳族、話を聞く限り徹夜してここまで走ってきたみたいだけど……

 うん。やっぱり長耳族は種族平均としての基礎スペックは人類より明確に上だよね。

 この長耳族、どう見ても武闘派ではなく文官って感じなのにそれが出来る訳だから。

 

 けど、あの狐共はどうなんだろうか? 

 狼共については、頭はお粗末だけど身体スペックが人類より上というのは理解出来るんだけど……狐は一体何が優れているのか。

 頭も悪ければ腕っぷしも弱い。

 ──うん。あいつらは単なる劣等種族だな。

 

 なんて考えていると。

 

「う〜ん? おかしな話ですね〜??」

 

「そうだな。天帝ルナとやらの行動はあまりにも不自然だ。何らかの意図があっての物なのだろうが……」

 

 ふわふわした感じで何やら疑問を呈する王女と、同意して考え込むアルベル。

 2人は一体何の話をしているのか。

 僕を置いて行かないで欲しい。

 

 というかアルベル君はそっち側じゃないはずだったのでは? 

 ……いや、前も言った様に彼の頭が良いのは知ってるけどね。

 何故なら、アルベルは……

 

 とか思っていると、役人からの話を聞くのと並行して向こうからの手紙を読んでいたアリスが。

 

「へえ……『関税を引き上げて戦争を誘発させる案を実行しようと考えたが、そもそも新種族たちには未だ関税という概念が存在しないため不可』ね。王子も中々面白い事をしようとしているじゃない」

 

 うん。こっちも何を言っているのかよくわからない。

 しかし。

 

「はわわ〜! わたしのお兄さんって思っていたよりやる気満々なんですね〜!」

 

「ふっ……俺としては意外でもないさ。会ってみると、見た目などに反して中々に強かな男だとわかるぞ。王女とは兄妹という事だ」

 

 はわわ反応をする王女と訳知り顔で頷くアルベル。

 後方腕組み役は僕の物だぞ。

 2人と違って僕は話を理解出来てないけど。

 

 ……まあ、アルベルの王子評自体はその通りなんだけどね。

 

 というわけで、意味深さを保ちたい僕はいまいち理解できない話からどうにか話題を逸らす為に。

 

「フッ……伊達に2人とも100英傑に選ばれていないという話だ。特に君たちや王子は、100英傑の中でも上位に位置していると私は認識している故に」

 

「そうなんですね〜? まあ確かに、皆さん程にありえないくらい優秀な方が100人もいるとは流石にわたしも思えませんし〜」

 

 王子は政治能力とカリスマ性だけでアトランティス王国の領土を三倍にした男だし、王女は旧世界最後の戦争を王国軍総司令として勝ち残った女だし、アルベルやアリスは今更言う必要はない。

 

 ──その4人は、人類が仮に滅亡しなかったとしたら世界中の歴史書にデカデカと記載されていたであろう伝説の偉人なのだ。

 

 勿論僕は優秀でも何でもないけどね。

 やはり王女もアリスたちと同様に節穴らしい。

 1000年前から変わってないな。

 

「……そう。とりあえず、政策については手紙に書かれている内容で問題ないでしょう。あなたたちも読んでみるといいわ」

 

「わかった」

 

「わかりました〜!」

 

「フッ……了解した」

 

 よし。無事に話を逸らせたね。

 

 王子によって書かれ、アリス先生のお墨付きを貰った手紙だし、何が書かれているのか楽しみだな。

 まあ、僕ではほとんど理解できないだろうけど……

 

 というわけで。

 

「俺も問題ないと思う」

 

「はわわ〜わたしのお兄さんって凄い方なんですね〜!」

 

 どうやら王子の方針は2人のお墨も得られたらしい。

 

 うーん。なんか、やたら難しい事が書かれてたな。

 旧世界では王子の文章はもう少しわかりやすい感じだったんだけど、とはいえあれは普通の人向けに砕いた説明だったからね。

 100英傑向けとなるとそんな事をする必要はないのはわかる。

 

 というわけで僕も黙って頷いた。

 後でゆっくり時間をかけて理解しないとね。

 

 ──僕たちの反応を見た我らが銀髪皇女が役人に向かって。

 

「じゃあ、狐のお爺さんとその辺りの擦り合わせをして、私たちの代わりに統治しておきなさい」

 

「は、はい。皆様を絶対的頂点とした上で、各種族の法や文化を擦り合わせる形ですね」

 

 いいね。この人類による100%独裁政治。

 

 アルカディアにおける政治学のトップ……つまり人類最高の政治学者も、統治者が偉大な存在であるという前提の上であれば、独裁こそが考えられる限り最良の政治体制だと言っていたしセーフ。

 

 まあ、実際それは正しかった。

『銀の暗黒女帝』によって帝国はとんでもなく強くなったり、あの政治学者の影響を思いっきり受けた王子による『一見すると民主的な独裁政治』が成され出してから王国は飛躍的な発展を遂げていったりしたわけで。

 

 懐かしいな。

 王子が同盟国という名の属国を次々増やしていったりするのは後ろで見ていてかなり楽しかった。

 

 政治力という観点だけで語るならば、あの短期間で自発的な奴隷を増やす王子のそれは、斜陽の帝国を再び世界最強国家に仕上げた『銀の暗黒女帝』を上回ってすらいただろう。

 だからこそ、僕はそんな王子の事を主人公候補としてくっ付いて回っていたのである。

 

 この新世界で王子のあれが再び見られるとなると……楽しみだな。

 

「とまあ、この街の支配はこんな感じで……最初の征服としては悪くない結果ね」

 

「そうだな。力の差が絶対的である以上は血塗れの征服にはならないだろうとは思っていたが、それにしても最速最善に近いくらいの結果だと言えるだろう」

 

 長耳族の役人が去ってからそんな事を口にする2人。

 言う通り、もの凄い平和的な世界征服だよね、これ。

 

 今回の征服で死んだのは天使だけ。

 あいつらはむしろ死ななければならない害悪だからね。

 

「これからもこんな感じで行くんですか〜?」

 

 方針を聞いてきた王女に対して。

 

「まあ、そうなるのが理想でしょう。とはいえ全てそうは行かないだろうから、幾らかは王子のやり方を使う事になるだろうけれど」

 

「相手から戦争をさせる事でこちらを正義とする策だな。悪くない」

 

「悪人の会話をしています〜! でも凄く楽しいですね〜!!」

 

 うん。それはめちゃくちゃ良くわかる。

 楽しいよね、これ。

 

 新種族たちにはたまった物じゃない……と言いたい所だけど、少なくともこの街や長耳族は明確に良い思いをしてるわけだし。

 

 こういう展開を意図せず自然と導く辺り、やっぱりこの人たちは偉大なる主人公候補って感じだ。

 

「政治の話はこんなところかしらね? 何か気になる点がある人は……居ないみたいね」

 

 僕たちの顔を見てアリスがそんな事を言う。

 するとアルベルが頷いて。

 

「ならば、次は……天帝ルナの話だろうな」

 

「ええ。──ルナの意図については話をしても仕方ないでしょう。結局、憶測の域を出ない。誰かさんがもう少し色々教えてくれるなら話は変わるのだけれどね?」

 

 ジト目で僕の事を軽く睨みながら話をする銀髪。

 勿論、僕はお口チャックして……いや、チャックはせずに不敵な笑みを浮かべて誤魔化す。

 ジト目っぷりが強まった気がする。

 

「肝心なのは〜強いのはわかっていましたが〜よくわからない不思議な能力も持っている事ですね〜?」

 

 よくわからない不思議な能力ってなんか二重表現だな。

 まあ、未来予知なんて普通に意味不明だからね。

 前提知識なしでそんなのわかるわけがない。

 

 すると銀髪皇女は王女の言葉に頷いて。

 

「ええ。ルナの行動や発言は、まるで相手の心を読んでいるか、或いは未来でも予知しているのか……」

 

 まさかのいきなり正解を言い当てた、やばすぎる銀髪皇女アリスは首を振ってから。

 

「結局どれも憶測ね。まあ、会ってからの楽しみとしましょうか。……あなたもそれが望みなのよね?」

 

 またもやジト目で僕の事を軽く睨んで来たので。

 

「フッ……そうだな。私がここで全てを語るのは、余りにも肩透かしだろう?」

 

「ふっ……フェルナンドは毎回安定しているな。俺としても望むところではあるが」

 

「フェルナンドさんとアルベルさん、凄い仲良しさんですよね〜!」

 

 本当にね。

 何度も繰り返すけど、あの伝説の『神殺し』アルベルと息が合っているのは非常に嬉しい。

 アルベルが居なければ僕は意味深ムーブに目覚めなかった可能性すらあるのだし。

 

 とか思っていたら、そのアルベルがアリスに向かって。

 

「しかし、アリスは思っていたより怒らないな?」

 

「そうですね〜ルナちゃん? はアリスさんをだいぶ格下みたいに扱っているみたいなのに〜」

 

 王女ってやっぱり結構言うよね。

 やっぱりコイツ、ぶりっ子……何でもない。

 

「記憶のあるルナが言う事だし、誰かさんも否定しない以上、それは事実なのでしょう。事実に対して腹を立てるくらいなら、自らの力を向上させる方法でも考えた方が建設的よ」

 

 いや、ほんとに凄いなこの人。

 1000年前、こんなに英雄っぽかったっけ? 

 

「それに……自分より優れた人間がいるというのは私にとって悪い事でもないし。あなたたちならわかるでしょう?」

 

「ああ。そうだな」

 

「そうですね〜」

 

 同意するアルベルと王女の醸す空気を読んで、僕は不敵な笑みを浮かべて黙る。

 すると、アリスは唐突に。


「とはいえ、不詳の弟子が図に乗っているというのなら……皇女流わからせの構えに入らないとね」

 

「「「……?」」」

 

 僕たち3人は意味不明発言に対して顔を見合わせる。

 皇女流わからせの構え? 

 何言ってるんだコイツ(素)。

 

「……いえ、素で疑問みたいな表情をされると困るのだけれど」

 

 何やら恥ずかしげにする銀髪に対し。

 

「はわわ〜! よくわからない寒いボケはスルーしてあげるのが王家の情けです〜!」

 

「!? い、いやっ! 寒くないわよね!? そうよねっ!?」

 

 王女もなんか言い出したし、銀髪のアホはなんか焦り出したぞ。

 そんな銀髪の無様な姿を見たアルベルが。

 

「……アリスは何でもできる万能の天才だと思っていたが、ボケの才能はないようだな」

 

「私としてはアリスがこのような事をする事自体が頭に無くて、思わず反応が遅れてしまったが……フッ。面白い話だ」

 

 

 というわけで、ボケがつまらない、なんか恥ずかしそうにしてる惨めな銀髪は放置して。

 

「さて。目の前に2つの選択肢が生まれたな。1つ。ティル・ナ・ノーグに早々に戻り、修行して力を蓄える道」

 

 僕は2本目の指を上げてから。

 

「もう一つ。このまま進んでダルシムという街に向かい、征服。そして2つ目の遺跡攻略と、街に居る可能性が高い極めて優秀な人材を迎え入れに行く道」

 

「極めて優秀な人材、ですか〜?」

 

 問うてきた王女に頷いて。

 

「ああ。とはいえ、君たち100英傑は皆が天才と称される極めて優秀な人材。故に、わかりやすい表現をするならば……彼女はアルベルやアリスと同じく十傑と呼ばれる存在だ」

 

 アルベルが面白そうといった雰囲気を出し。

 

「ほう……興味深いな。俺たちクラスの強者か。それに単純に考えた場合、南側にいる十傑とやらはその人物で最後といったところか?」

 

 いやまあ、流石にアルベルと同じレベルでは全くないけど……とはいえ、後者に関しては。

 

「その通りだ。彼女程の実力者であれば、既に移動した可能性は考慮すべきではあるが」

 

「まあ、それはそうでしょうね。けれど……バランスは流石に考えられている、と」

 

 元気を取り戻したらしきアリスの言葉に僕は無言で頷く。

 南側に1位と3位、更にもう1人居るというのは一見かなり偏っているように思えるけど、ルナが本当に『別次元の力』を身に付けたというならば話は変わる。

 

 そんな感じで話がひと段落したところで。

 

「では、君たちはどうする?」

 

 3人に問いかけると。

 

「俺は次の街に行く。天帝とやらが中央に戻った事を踏まえると……新たなる遺跡といいその人物といい、興味があるからな」

 

「そうね。今ティル・ナ・ノーグに戻ったところで、出来るのは精々修行しながらあなたたちがその南側最後の十傑を連れて来るのを待つか、無謀な単騎突撃をするかくらいになるわけだし、私も冒険に向かいたい」

 

 アルベルとアリスがそう答える。

 まあ、この2人はそうだよね。

 

 そして最後に残った王女を見つめると。

 

「う〜ん……」

 

 何やら考え込むエステラ王女。

 そして、彼女は僕たち1人1人の顔を順に見つめてから。

 

「わたしも皆さんについて行きたい所ですけど〜今のわたしが一緒に行ったとしても、あまりお役に立てないだろうな〜って〜」

 

 王女は続けて。

 

「そんな始末だと人類の頂点になんて到底立てませんね〜! わたしは他の人間さんが集まっているという長耳族の街に行って修行します〜!!」

 

 凄いな。

 口調はふわふわしている癖に、状況判断は相変わらずやたら冷静かつ適切で、加えて1000年前には無かった野望が剥き出しなんだけど。

 コイツやっぱりぶりっ子……いや何でもない。

 

 とはいえ、僕としては親友関係だった王女とあの子が記憶をなくした上でどういった関係を築くのかも気になる所だったけど、まあいいか。

 

 そして、うん。

 王女がその気というのならば、僕も色々変えようか。

 

 僕は王女に向かって。

 

「かつての君の得意魔法は風魔法であり、応用して竜巻を引き起こし、敵を多数切り裂く攻撃を多用していた。回転と維持。際立った技術の成せる極めて効率のいい術だ」

 

「え……?」

 

 王女の十八番だった竜巻の1番凄い点は、威力や規模の割にとにかく省エネだった所だ。

 勿論、あれは凄まじいセンスを必要とする超高等技術だったんだけど……逆に言うと技術依存の部分が大きく、魔力量の消費はかなり少な目の継戦能力が高い素晴らしい魔法だった。

 

 そのため、かつての戦いにおいて王女は4つの竜巻を王都の四方に配置して長い防衛戦を演じる事が出来たのである。

 とはいえ、当然そんな事は普通の人間には絶対に無理の天才すぎる所業だから、彼女は偉大な英雄として扱われた。

 

「竜巻……ですか〜確かにやろうと思えば〜ですね〜」

 

 何やら考え込んでいる王女が1000年前に用いていた竜巻は、多くの敵をバラバラに引き裂いて……

 そして『ミックス』した。

 エステラ王女の操る『赤い竜巻』によりとんでもない絵面が量産された結果、彼女は『残虐なる風烈姫』と呼ばれるようになったというのが顛末だ。

 

 普段の僕ならばこんな事は教えないんだけど、とはいえ僕だけが記憶を保持しているならばともかく、黙っていてもいずれルナが教える話だろうし……となると見たい物を見る為に多少スタンスを変えるのもやむを得ない。

 

 もう少しわかりやすく言うならば、近い将来のルナたち中央組との戦いで戦力にならない無様な王女の姿を見るとか普通に嫌だからね。

 役に立ってしまうのはまさしく断腸の思いだけど、仕方ないのである。

 

「修行の参考にするしないは君次第。兎も角、今の野心満ち溢れる君ならば、過去の君を超える事を私は確信しているよ」

 

 そんな感じで僕は言いたい事を唐突かつ好き放題に言い終えてから黙っていると。

 

「……やっぱり、フェルナンドさんはすっごく悪い人ですね〜!」

 

 こうして僕とアリスとアルベルの3人は王女と一時的な別れを告げ、次の英傑……序列7位であり、極東の島国『大和』の大君だった紗羅という人物を探しに行く事にしたのである。

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