間話3:これはハーレム系主人公だな
「ランバートさん、よろしくお願いします!」
「ああ。こちらこそ」
肌色の髪をした18歳程度の見目麗しく礼儀正しい少女がランバートに挑み掛かる。
「『雷の鎧』!」
彼女は自らの全身に魔法で雷を流して身体能力全般を向上させる。
雷は鎧のように少女の身体を覆い、大抵の攻撃を通さない強度を誇っていた。仮に神獣の突進をまともに受けようと、傷付くのは神獣の方という程に。
そして彼女は音を置き去りにする神速を以てランバートに向かって突撃し……
接触の直前。
彼女は己の武器たる槍を地面に突き立て、反動を利用して跳ぶ。
そして更なる勢いを以てランバートに絶死の威力を誇る蹴りの一撃を加えようとする。
高速攻撃にありがちな、所詮直線的な攻めだと鷹を括っての読み行動を許さない側面蹴りが彼に迫り……
「なるほど。見事だ」
雷の鎧を纏った蹴りをあっさり片手で受け止めながらランバートが褒め称える。
何のことはない。
雷で身体能力を向上させ、槍を地面に突き立てる事で生じる反動を利用し更なる加速をした少女よりも素のランバートの方が速く、強い。
鎧に直に触れる事によるダメージも彼には発生せず、守備の貫通など造作もない。
それだけの話だった。
「くっ……完全に受け止めるなんて……」
「防がれても、その勢いを利用して次なる攻撃を試みる。素晴らしい策だ。前回よりも間違いなく強くなっている」
ランバートにその長く美しい蹴り脚をガッチリと掴まれていたが為に、少女の二の矢は失敗に終わった。
しかし、これは彼女が悪いわけでは決してない。
純粋にランバートがあまりにも格上であり、少女が何をしても通用しないというだけの話だ。
「自らの最大の長所たる速さと威力をより鋭くする術を探るその方向性は正しい。そのまま励むといい。いつでも相手になる」
「……ありがとうございます。次はランバートさんに勝てるよう、頑張ります」
悔しそうにしながらも、ランバートという穏やかな気性を持つ極めて整った顔をした強者に褒められて少し顔を赤く染めた肌色髪の少女は去って行った。
次なる挑戦者は。
「ランバート! 今日こそオレが勝って、ミ、ミラと……!」
「……そうか。まあ、励むといい」
ランバートは物凄く複雑そうな表情をしながら、18歳程度の灰髪の少年による挑戦を受ける。
「『重力場』!!」
少年が魔法で凄まじい重力を発生させる。
常人ならば容易に潰れて死ぬだろう重力場において、さしものランバートも脚を僅かに鈍らせる。
しかし彼の動きを止めるにはまるで至らない。
そして見渡す限り全面に一様に広がる重力魔法だが、ランバートには核となる箇所……突けば綻びとなって魔法が破壊されるであろう常人には決してわからぬ場所が見えていた。
「ふっ!」
彼はミラから渡された棒でその核となる箇所を突き、あっさりと破壊する。
魔法の発動からランバートに破壊されるまでにかかった時間は数秒に過ぎない。
しかし。
「『炎の矢』!」
その数秒の時間を用いて、武器を振るった瞬間という最も無防備であろう体勢を狙い撃ちしようとし……
「……見事だ。やはり、君は凄いな」
即座に少年の背後に移動し、武器を突き付けたランバートが褒め称える。
純粋なる速度の差。それはつまり純然たる実力差を示す物であり。
「くそっ! また勝てなかった……!!」
「……これは相性の要素も大きいだろう。そもそも武芸者と魔法使いが1対1で向き合う戦いという時点で対等ではないのだから」
「そんなのはいいんだよ! オレはいつかお前に勝つからなっ!!」
非常に悔しそうにしながら灰髪の少年は去って行った。
ランバートはそんな少年の後ろ姿と、周囲の木々が破壊されていないという状況を見ながら。
「あれだけの大規模魔法でありながら対象の選別を成すか……やはり、素晴らしい力だ」
「ふふっ。ランバート様は彼──ロベルトさんがお気に入りのようで」
訓練が終わるのを見た銀髪の美しい女性フォビアがランバートに話しかける。
「……お気に入り、というよりは単純に実力が最も優れているというだけの話だ。ただ、ロベルトの魔法の本領は前衛の補助。本人の望む力ではあるまいが」
灰髪の少年ロベルトはランバートに1対1で勝つ事を望んでいる。
彼の魔法は対象の選別が可能な広範囲重力魔法などという補助としては正しく最高の威力を持つが、ランバート程の実力者を1人で倒すような魔法かと言われると疑問が出てしまうから。
「そうですか。……ふふ。なら彼を遥かに超越する実力を持ち、お1人で神獣を1撃討伐。その脚でそのまま遺跡を踏破して見せたランバート様は一体何なのかというお話になりますね?」
「君も中々に意地が悪いな……」
「ランバート様はそういう女性がお好みでしょう? ミラ様といい、わたくしといい」
「………………そうかもな」
流し目で微笑みかけてくる銀髪に対して、彼は言いたい事を物凄く我慢する。
……露骨に誘惑しに掛かられている。
フォビアは御伽話の美姫の如き美貌を持つから、彼ほどの理知的な英傑でも耐えるのは非常に困難なのだ。
更に言えば、そんな彼女の声はただ美しい音色なだけでなく何故か安心感を覚えてしまうというか、妙な心地良さを感じるというか……
とにかく。他者を籠絡する為の全てを持った存在がこの『銀の暗黒女帝』だった。
「このようにしてフォビアは世界最大の大国の皇帝を射止め、立場を乗っ取ったのか……自分の長所の使い方を理解しているというのは実に恐ろしい話だ」
「ふふ。小声で何やら呟いておられますが……わたくしとしては、現在集っている女性5名の誰がランバート様のご寵愛を賜るのか気になっております」
フォビアは極めて美しい他者を魅了する微笑みを浮かべながら。
「なにせ全員が大小あれど貴方様に好意を抱いていますから。或いは、今後合流するであろう方のどなたかになるのでしょうか?」
当たり前の話ではあるが、ランバートは非常にモテる。
なにせ現在集結している人類の中でも際立った強さを持ち、親身に訓練とアドバイスをし褒め言葉をも与える優しさと、俄には信じ難い程の美貌の全てを兼ね備えているのだ。
最早これでランバートに好意を抱かない方がおかしいとすら言える、考えられる限り最高のスペックホルダーと言える。
とはいえ。
「……少なくとも、君とミラは俺に好意を抱いてなどいないだろう……他3人にしても、恋慕と言う程ではないはずだ」
「ふふっ。そんな事はございませんよ? 貴方様であれば、わたくしの全てを捧げる事に抵抗はありませんから」
「…………何故、最も優れた2人がこんな性格を……いや、優れているが故なのか……?」
──上述のように、現在彼らがいる黒長耳族最大の集落マグ・メルにおいて、ミラとフォビア以外の英傑に対してランバートが修行を付ける形が作られている。
「これはこれで、一定の秩序を築いていると言えるだろう」
フォビアとの会話を終え、ミラの元へと戻ったランバートが彼女に話しかける。
「ミラが『わたしを娶りたいならばまずランバートを倒す事だ』などと宣った時には、一体何を言っているんだと絶句した物だったが……」
先程の灰髪の少年ロベルトがそうだった。
少年がミラに一目惚れをし交際を申し込んだところ、彼女は告白を驚嘆の表情で見守っていたランバートに対して突然のキラーパスを振ってきたのである。
更に言えば、その話を知ったフォビアも悪ノリをして
『そうですね。わたくしと何らかの関係を望むならまずはランバート様を超えていただきましょうか』
などと言い出した瞬間のランバートの顔は、焦りと困惑と絶望で彩られていた。
とはいえ。
「こうなる事が望みだったというならば、理解出来る。……事前に説明して貰いたかった物だが」
そうしてランバートがロベルトたちの相手をしていたら、それを見ていた女性陣まで手合わせを希望し始めたのだ。
その結果、エデン北部の英傑たちはランバートを中心に修行に勤しむという現状が作られたのである。
彼が中心という事はつまり、北部の英傑たちの事実上の頂点はランバートの主たるミラという事を意味しており。
「さあ、どうだろうね? もしかしたら、わたしが彼らをキミに嗾けたのはその場の気まぐれかもしれないし、つまりこれは偶然の産物なのかもしれない。だが……それならそれで実に面白いと思わないか?」
目の前の白々しい惚けた女に対して言いたい事は多々あるが、ランバートはそれをぐっと飲み込んで。
「……しかし、このやり方には当然限界があるだろう」
「限界、とは?」
わざとらしく首を傾げるミラ。
あまりにも顔が良すぎて思わずその様子を可愛いと感じてしまうが、さりとてランバートは意思を強く持って。
「……何故惚けるのかわからないが……俺より強い者が現れた場合、どうするつもりだ?」
当たり前すぎる話だった。
現状は、ランバートが皆に稽古をつける形になっていて、それ即ち彼が集団の中で1番強い──ミラを除いて──からこそ成立している話に過ぎないのだから。
「……ふむ。そうだね……まあキミにだけ話す分には構わないか」
ミラはいつものように意味深な発言をしてから。
「順を追って話そうか。100英傑は誰も彼も素晴らしい能力を持つが、さりとてピンとキリは存在する。それは理解できるだろう?」
「……そうだな。君を考えると明らかな話だ」
「ふっ……まあいいさ。続けよう。その中でも特に優れた10人の事を、人類は10傑と称していた」
「10傑……」
「で、だ。ここからが肝心の話になるのだけれど」
ミラは指を2本上げて。
「その中において、キミは2位だ。そして1位については別途わたしが対応するから問題ない」
彼女は1人で頷いてから。
「これで疑問は氷解しただろう?」
「……すまない。疑問は物凄く深まった。……というか勘弁してくれ……」
その短い言葉に反してあまりにも情報量が多すぎて、ランバートは受け止めきれない。
「ふっ……わたしにそんな趣味はなかったはずなのだけれど、こうしてキミを揶揄うというのはなかなかに楽しいものだね」
「…………まあ、いい。とりあえず最大の疑問として……君は何位なんだ? 1位は対処すると言っていた以上、君という話ではないのだろう?」
ランバートからすればそれが1番の疑問だった。
自分が2位で、1位は別に存在する。
ならば目の前のランバート以上の強者は一体何位だというのか。
「わたしは5位に位置付けられているね」
「……意味がわからない」
目の前の魔術師は自分より遥かに優れた強者だというのに、何故彼より順位が3つも下なのか。ランバートにはさっぱり理解できなかった。
「色々と理由はあるが……1番は、わたしが現役引退と非戦を大々的に宣言していたからだろうね」
「非戦?」
引退は……まあ100歩譲って理解できるが。
「ああ。どんな力を持っていようと、使わなければそれは無に等しいだろう?」
「……それは……まあ理解出来るが……だとしても腑に落ちん」
事実として自分より遥かに強い存在が、3つも下に位置されるというのは幾らなんでも不自然な話だ。頓知でもやっているわけじゃあるまいに。
「ふっ……ならばこう言えば少しは納得できるかな。他の理由の1つとして、わたしは自らの最も優秀な弟子……序列3位に位置付けられた彼女に世界最高の魔法使いの座を譲渡したりしたんだよ」
ミラは過去を懐かしむような表情をしながら。
「しかし結局、あの子はわたしの領域には到達しなかったし、キミに模擬戦で勝利する事も叶わなかったけれどね」
「なるほど……確かにそちらの理由ならばまだ理解出来る。師が弟子に期待を込める形で譲り渡すという話ならば、まだ」
仮に今は劣っていようと、師が将来に期待して弟子に座を託すという話ならば、それに文句を付けるのは難しいだろうから。
どうやら3位の女性とランバートは模擬戦をするような関係性だったらしい事、そしてやはりミラとランバートには過去にも関わりがありそうだという事も気にはなるが……今はそれよりも。
「しかしそれは、ただの形式上の話に過ぎないのだろう。ならば皆、君こそが1位あるいは2位である事などわかっている話なのでは?」
「それは裏話を知っている者の目線だよ。一般人からすればわたしは5位にしか見えないだろう。なにせ、順位を発表したのはわたしなのだから」
「……本当に、君は全ての黒幕なんだな……」
むしろミラが関わっていない事はあるのかと言いたいくらいには全部彼女がやっているように思えた。
「いいや? わたしは黒幕なんかじゃないさ。前にも言ったように、旧世界においてはわたし以上にそれらしい人物も居たわけだし」
いつものようにミラは楽しげに笑いながら。
「というより、人の世に黒幕なんてわかりやすい物は存在しないと言った方が正しいのかもしれないね。各々が自分の思惑通りに……自由に。不自由に。動いているに過ぎないのだろう。有する資質や運などによって規模や結果に差分が出るだけでね」
今まさに人の一歩上の視線に立つ黒幕みたいな事を言っているじゃないかと彼は内心で突っ込んだ。
「ふっ……まあ順位付けについては他にも色々あるが……それを語るのはまだ早いだろうからね」
「……君は本当にずるい女だな。そう言われたら、俺は従う他ないじゃないか……」
ため息を吐いてそう言いながら、彼はミラの手元を見る。
彼女は遺跡で手に入れた神玉を手の中でころころ転がしていて。
「……その神玉について。何かわかったのか?」
「何もわからないという事がわかったね」
「…………」
思わず憮然とした表情をしてしまうランバート。
しかしミラは何故か逆に呆れたような顔をして。
「おいおい。よく考えてみなよ。『このわたしが』何もわからないんだぞ? それが何を意味しているのかってね」
「……君は本当に意地が悪いな……尋常ではないという事だけは理解出来たが……」
「ふっ……つまりこれは、1000年前には存在しなかった物質という事だよ。当然、では一体誰が作ったのか? 何故、かの聖者殿の作った聖石にここまで似ているのか?」
ミラは楽しげな表情をして。
「どうして、わざわざわたしの管理していたアルカディアの地脈宮に酷似した遺跡に安置されていたのか? という話になる」
「…………」
「既にある物質に加工を加えるという話とは次元を異にする話だ。これが新たに自然発生したと考えるのは流石にあり得ない……とまでは言わないが、可能性は極めて低いし、少なくとも遺跡に安置した者はいるだろう」
ミラはそこで意味ありげに話を一瞬止めてから。
「つまり……そうだね。これ以上の事は、今はまだ語るべきではないだろう」
「……1番気になるところで止めたな……」
ある程度慣れてきたとはいえ、最も肝心な場所でいきなり止められてしまっては消化不良どころの話ではなかった。
思わず頭に手をやる彼を見て。
「ふっ……とりあえず、このままの方針で進む事に変わりはないよ。キミたちにとってはそれこそが最も重要な話だろう?」
「……そうだな……」
ランバートは思いっきりため息を吐き。
「フォビアといい君といい、本当に……いや、なんでもない」
──そうしてランバートが去って行ったのを見てから。
ミラは南側を向いて、本当に楽しそうに笑い。
「さて。キミはこの事態をどう感じているのかな?」
彼女自身が先程言った事。
「──ただ1人の黒幕などいない。人類はカカシじゃないんだ。悪巧みをするのはわたしだけではない事なんてわかりきった話」
そう。ミラは相手を侮ってなどいなかった。
自分がやったのであれば、自らを上回る知略を持つ彼にも出来るだろうと。
つまり。
「記憶、持ち込んでいるのだろう? ふふ……どうなるのか本当に楽しみだよ」
〜100英傑の書〜
第ニ編
『至天の槍皇』
ランバート
性格:温厚 慎重
好きな物:槍の修行 弟子の育成
嫌いな物:特になし
戦闘タイプ:速度型 剛力型
人物評:
絶対的な頂点が居る場合、2番目の者にはいつだって過大な期待が寄せられる。その例に漏れず、彼には『神殺し』への対抗が望まれた。
とりわけ、彼は異常者の集まる10傑において1番の常識人であった事が最大の不幸だっただろう。終末世界において、人格がまともな世界2位の強者が人々からどのような扱いを受けるのかなど、最早説明の必要はない話だ。
ランバートが世界における際立った実力者の1人であった事自体は疑いようのない事実だ。しかし彼自身は、いくら年老いたとはいえ自らがあの『神殺し』に勝てるわけがないと恐怖に苛まれる日々を送っていた。
武芸者として頂点に最も近付いた彼には、崖の高さが見えてしまっていたのだろう。アリスリーゼは自分より実力があるというのに恐怖に震える彼に苛立っていたようだったが、火山の麓へと飛び込むが如き自殺行為を恐れない人間など居ないのだ。
わたしたちが彼を説き伏せ、ランバートを囮に3賢者によって都市諸共に『神殺し』を爆撃するという最後の作戦を行った際、気絶するに留まった『神殺し』と異なりランバートは死線を彷徨い、治療の意味を込めてわたしたちは早急に彼を魔法陣に入れた。
◾️お願い◾️
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