第11話:イメチェンは大事かもしれない

「ここが長耳族最大の集落……なんというか、凄いわね」

 

「そうですね……3番目の大きさと言われる村があれだけの規模だったために大まかな予測を立ててはいましたが……予想以上です」

 

「これってよ、集落というよりは街とか、もう都市とかに近いレベルじゃねえか?」

 

 3人が言う通り、僕たちの眼前には集落と言うよりはかなり大規模な街、いっそ都市と称しても良いんじゃないかというくらいの光景が広がっていた。

 

 建物の造りはかなりしっかりとしていて、外観が綺麗な家が多く、道もまだ甘いとはいえ整備されていたりする。

 道を歩く長耳族の数は非常に多く、そんな彼らを標的とした露天が数多く立ち並び、様々な品が売りに出されている姿が見える。

 という感じで、非常に活気に満ち溢れた共同体が僕たちの目の前には存在していたのである。

 

 旧世界における人類の都市に比べれば流石に劣るとはいえ……

 うん。文明レベルが想像以上に高いな。

 前から思っていた事だけど……これはもう長耳族はほぼ間違いなく自然発生した種族などではないだろうという確信を抱いた。

 

 これまでの2つの村の住民を考えるに、長耳族の知能が人類に比べてそこまで高いとは思わないからね。

 まあ平均スペックは人類より高いように見受けられはするけれども、さりとてたったの1000年足らずでここまで文明を発展させる事が出来るくらい程にぶっちぎっているとは流石に思わないから。

 

 しかしこうなると、ロリの村はどうしてあんな惨状だったのだろうか……? 

 よもや長耳族の中でもわざわざ落ちこぼれだけを集めた色々な意味における限界集落だったというわけでもあるまいし。

 

 とにかく。

 そんな風に驚く3人と、意味深さを維持するために驚きを我慢して不敵に笑い、何も言わない僕を見たロリは何やら複雑そうな表情をして。

 

「そうじゃな。ワシが出ていく前から更に規模が増しておる。悔しいが、兄上の統治力は認めざるを得まい」

 

 うん。過去に何やら色々ありそうな意味深発言だけど……

 ふっ。まだ甘いな。僕はロリ兄妹の事情には少ししか興味はないぞ。まだまだ僕のお株は奪えまい。

 ──ん? 少しは興味あるじゃないかって? 

 ……実は結構興味あるんだ……

 だってここまで集落を発展させた兄妹だからね。それはもう色々と聞いてみたい事だらけなのである。

 

 なんて、僕が内心で1人コントをしていると。

 

「私がここに来たのは久しぶりですが、いつ見ても凄い集落です」

 

「エカテリーナもここに来た事あるんだな。なら、面白い場所の心当たりとかあるか?」

 

「はい! ご案内いたします」

 

 おお。自然な形でデートに持ち込んだぞ。

 カルロスにその意識はないんだろうけど、主人公候補たる者やはりそうこなくてはね。

 自然とモテてこその英雄なのである。

 

 僕は孫娘とカルロスの2人には聞こえないようにしながら。

 

「フッ……英雄色を好むという物だな。カルロス自身にその意識はないのだろうが、自然にああいった行動を取る辺りは流石と言える」

 

「ふふ。私たちはお邪魔かしら? なら……ミルネン、適当な合流場所はある?」

 

 とても面白そうといった表情をするアリス。

 うん。君、恋愛話なんかに興味あったんだね。

 てっきり戦闘と魔法にしか興味のない蛮族だと思ってたよ。

 

「ふむ……そうじゃな。エカテリーナよ! 2刻後、兄上の家で合流するぞ!」

 

「わかりました! お婆様」

 

 声を張り上げるロリに対して、嬉しそうにしながらカルロスを連れて去っていく孫娘。

 

 2刻。つまり4時間か。結構長くない? 

 いやまあデートと考えたらそんなものか。

 ご飯を食べて、2〜3箇所を観光したら過ぎる時間だ。

 

 ただ、やっぱりそうなると。

 

「ミルネンはエカテリーナの恋を応援しているようだな?」

 

「確かに今更だけど、私たちってミルネンたちからすれば得体の知れない存在だものね。そんなのと恋愛していいのかというのは私も疑問に思うわ」

 

 アリスの言うように、元村長であり孫娘の祖母たるロリからすれば、得体の知れない存在の1人であるカルロスに孫娘が惚れている事はあまり歓迎出来ない話なのではと思っていたんだけど。

 

 なんて思っているとロリが仲良く会話しながら小さくなっていく2人を指差して。

 

「見よ。正しく未来への希望に満ち溢れた姿ではないか。歓迎以外の気持ちなどある訳がない。お主らの事は既に信頼しておるしな」

 

「……そうか」

 

 ちなみに、僕としてはさっきの理由に加えて長耳族と新人類の間で繁殖が叶うのかが気になるというか、そもそも長耳族ってどうやって繁殖するのかが気になっていた。

 

 目の前の緑髪ロリがエカテリーナの祖母であるという事はつまり、子供を産んだという事であり。ならば人間が行うような形での胎生ではないんじゃなかろうかと推測出来るわけで。

 となるとやはり卵生か……? 

 このロリが卵を産むって結構見るに堪えない光景だと思うけど……

 

 まあ、いいか。後ほど本で調べればいい話だ。

 

「では、これからぼくたちもこの集落……ティル・ナ・ノーグを探索しますか?」

 

 最初にその名前を聞いた時に、なんかラストダンジョン前の地名みたいだなと思ったのはきっと僕だけじゃないはず。

 いやまあ、そんな事はどうでも良いんだけど。

 

「フッ……余程の事でもなければ私たちは暫く此処を拠点にするだろうからな。そう急ぐ事もあるまい」

 

「……兄上にはワシが話を通しておく」

 

 僕の言葉を聞いたロリはいきなり神妙な顔をしてそんな事を言い出した。

 一体どうしたのだろうか? 

 

「……私が言うのもあれだけど、フェルナンドって結構言うわよね。まあ、いざとなったら私が族長をボコボコにして言う事を聞かせれば……」

 

「今すぐ兄上に話をしてくる! 場所はあそこじゃから!!」

 

 ロリが大慌てで走り去って行った。

 うん。どう見てもアリスが脅したからだね。

 というかロリといいアリスといい、僕の言葉のどの辺りに反応したのだろうか? そう大した発言はしていないつもりなんだけど。

 

 そんな僕たちを見るダークネスが呆れたような表情をして。

 

「2人とも、脅し方が堂に入っているというか……まあ本気ではないというのはミルネンさんもわかっているでしょうし、いいのですが」

 

 うーん。僕が一体いつロリを脅したというのか。

 そこの銀の蛮族は明らかにやっていたけど。

 でも仮に敵対したとしてもボコボコにするだけで済ませるなんて、随分と寛大な処置だね。

 1000年前では考えられない優しさだ。

 

 というか、まあそうじゃないかと思っていたけど……緑髪ロリもアリスやダークネスみたいな賢い側の人材なんだね。

 いやまあ、賢いというか考えすぎというか節穴というか。

 

 ……なんかよくわからないんだけど、その人が賢くなればなるほど僕に対しては節穴になっていくんだよなあ。

 その際たる例が人類最高の頭脳を持つあの人だった。彼女はアリスを遥かに超えて節穴ランキングぶっちぎり1位だったからね。

 

 なにせ彼女が言うには。

 

『知略の良し悪しという物は定量的に測る事が難しく、必然的に実績ベースの評価になる』

 

 わかる。

 

『つまり、歴史上誰も成した事のない事実上の世界征服を果たしたキミは、現代どころか人類史上屈指の知略を持つ存在という事になる』

 

 ???????? 

 

 僕は当時、彼女が何を言っているのか全くわからなかった。

 というか今でも意味がわかっていない。

 

 ……こんな感じで、彼女はああ見えてとんでもない節穴だったのである。

 言っている事が全部意味不明だったからね。

 一体いつ僕が世界征服なんて物をしたというのか。

 

 彼女の考えはあまりに飛躍しすぎて世界の果てまで飛んでいってしまっていたのである。

 そのため僕はあの人の事を、あれで実は結構アホなんじゃないかという疑いをかけている。

 

 

 ──それはともかく。

 こうして僕たちは街の散策を開始した。

 例によって各々が好きに行動する時間である。

 

 うん。僕たちはやはり協調性皆無だね。知ってた。

 まあ100英傑が例えばトイレにすら複数人で行こうとする女子みたいな行動をするわけないけど。

 

 とりあえず、ふと目に付いた服屋に入ってみる。

 長耳族の服の流行ってどんな感じなのか気になっていたからね。

 孫娘はかなり露出度の高い服装だけど、井戸端会議をしていた奥様方や男の長耳族は落ち着いた格好だったりしていたし、我らがロリは如何にも魔法使いみたいな格好だし。

 

 意味深な男にとって見た目やおしゃれは肝心だからね。

 もし仮に意味深ムーブをする奴がクソダサい格好をしていたとしたら、そいつは意味深ではなく単なる道化でしかないだろう。

 

 なんて考えながら店内を眺めてみると。

 

「うーん、これはありよりのなしかな! もうちょい派手さが欲しいっしょ。お? こっちは……ありよりのあり!」

 

 ……なんかギャルが居た。

 水色の髪をし、整った顔をした人類であるギャル語使いが服を手に取り、ありとかなしとか言っていたのである。

 

 その顔は僕たちが探していた副団長そっくりに見えるけど……きっと気の所為だろう。

 僕は旧世界における彼女の事あんまり知らないけど、少なくともギャルでは絶対になかったはずだ。

 

 ──うん。つまり僕としては、誰こいつ? と言いたい気分だったのである。

 

 そんな風に彼女の事を思わず呆気に取られながら見ていると。

 

「え、まさか……人間!? ウチら以外にもまだ居たんだ! これはテンション爆上げっしょ!!」

 

 なんて言いながら近付いてきた。

 

 違います! こんな人知り合いじゃありません!! 

 ……と言えたら良かったんだけど……いや、本当に信じられないな。

 いくら記憶を失ったからといって、お堅い騎士様がギャルになるものなの? 

 

 とりあえず、動揺を気取られないように声を発しなければ。

 

「……ラナリア。君がこんな場所にいるとはな。会えて嬉しいよ」

 

「ラナリア? それ、もしかしてウチの名前? キミ、ウチの事知ってん? あは! これってもしかして運命ってやつ!?」

 

 捲し立てて来るギャルこと副団長ラナリアに僕は圧倒されかけた。

 ……否! 僕は意味深な男だ。

 ギャルなどに負けるわけにはいかないっ!! 

 

 ……のだけれど……これ、本当にあの人だよね? 

 重ねて言うけど、僕としては未だに信じられないんだけど。

 

 まさか、こんな……副団長がギャルだったなんて。

 旧世界の人間にこれを見せたら、きっと自らの正気とラナリア自身の乱心を疑うだろう。

 ダークネスを初めて見た時も大概びっくりしたけど……ラナリアはその比じゃなかった。

 

「おーい! 2人とも、出てきてー! 人間が来たよー!! しかもなんかウチの事知ってたー!!!」

 

 なんか人外が獲物たる人類を集団で狩ろうとする号令みたいな事を言い出したな。

 字面だけ見ると、次に続くのは『何っ!? 殺せ!!』みたいな台詞になりそう。

 

 というか服屋にご一行様で訪れていたの? なんで? 

 いやまあ自由時間が始まるや否や真っ先に服屋に来た僕が言うのもあれだけど。

 

 そして、副団長の声に応じて現れたのは。

 

「人間? 俺たち以外のか? それに記憶を持ち『水色ギャル』の事を知っているというのか?」

 

 白髪で整った顔を持ち、副団長ラナリアの事を『水色ギャル』とかいうそのまんまの呼び名で称しながら状況を分析しようとしている20歳くらいの青年と。

 

「あんまり大きな声出さないでよ……びっくりするじゃないか」

 

 ビクビクしながら現れた、これまた整った顔をした橙髪の16歳くらいの少年だった。

 

 うん。やっぱりこの2人か。

 前の村で副団長以外に誰か居るだろうという話になった際に、距離的に考えて2人は来るんだろうとは思っていたから。

 

 けど、いくら事前にわかっていたとはいえ……ここでこの2人と合流するんだね。

 これから一体この集団はどうなっていくのだろうか? 実に楽しみである。

 

 とりあえず、僕はまず白髪の彼を見て。

 

「ふむ。アルベルに……そして」

 

 次に橙髪の少年の方を見つめる。

 いつものように不敵な笑みを浮かべてから。

 

「カール王子か。君たち3人に会えて嬉しいよ」

 

 繰り返しにはなるけど、この2人は100英傑の中でもかなり特別と言っていい……と思ったけど、100英傑って普通にみんな特別だな。

 序列としては下位だった副団長もなんかギャルだったし。

 

 ──とにかく、10傑の1人たるアルベルと最後の国『アトランティス』の王子たるカール王子は、僕にとっては非常に印象深い英傑なのである。

 

 そしてそんな彼らに対して、僕は突然現れて王子の身分をさらっとバラすという、彼らからすれば正しく意味深なムーブがちゃんと出来たな。

 こういったアドリブ力は旧世界の様々な状況下で十分に培われたからね。

 

 その結果。

 

「ほう……アルベル。それが俺の名前か……と言いたい所だが」

 

 アルベルが、僕の言葉に唖然とした様子の王子を見つめてそう言ったところ。

 

「王子!? 『オレンジ坊ちゃん』ってまさかの王子様!? やばやば〜!!」

 

 副団長が『オレンジ坊ちゃん』ことカール王子をツンツンしながら騒ぎ立てる。

 うん。『オレンジ坊ちゃん』などという面白おかしな渾名を付けられた王子は、副団長たる君が忠誠を誓う対象だったような気がするんだけど……まあいいか。

 

 ツンツンされた王子は遂に状況を理解したらしく。

 

「え、ええと……僕ってカールって名前の王子様だったの? 正直言ってもう驚きの言葉しかないんだけど……でも『白髪理系』はいつも通り冷静だね……」

 

「ふっ……まあ意外でもないと俺は思っているからな。出会った時から『オレンジ坊ちゃん』は高貴な生まれだろうと推測していた」

 

 なのにそんな渾名で呼んでたの? 

 まあ命名者は『水色ギャル』なんだろうけど。

 

「それわかる〜! やっぱおぼっちゃま! って感じだよね、カールっちって!!」

 

 うん。なにせ彼は王子様だからね。

 記憶を失い、身分がわからずとも、身体に染み込んだ所作に気品が溢れるのは仕方ない話だ。

 

 ただ。

 

「フッ……再会を喜びたいが、一旦外に出るべきだろうな」

 

 僕が周囲から注目されている事を示すためにこれ見よがしに店内を見渡してそう言うと、まず『白髪理系』アルベルが頷いて。

 

「それはその通りだな」

 

「あっ……ごめんね、お店のみんな。今すぐ出て行くから」

 

「あ、ウチはこれ買ってから出るわ〜」

 

 流石、ギャルはマイペースだな。

 普通の人間ならば僕から色々聞きたくなって仕方ないような状況だろうに、服を優先するとは。

 やはり大した奴だ……

 

 

 ──こんな感じで僕は偶然新たな3人の英傑と合流したのである。

 

 いやあ……アリスたちの時も思ったけど、この3人、こんなに愉快な人たちだったんだね。

 旧世界のみんなに見せられないのが本当に残念だ。







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